優里亜は以前、とても気に入っていた腕輪を持っていた。ちょうど裕章が和佳奈を連れて権野城市に来たばかりの頃で、引っ越しの途中でうっかりその腕輪が傷つけてしまった。裕章は最高の職人に腕輪を修復してほしくて、ちょうど馬場先生を見つけた。しかしその時、馬場先生は家で重病の妻の世話が必要で、裕章の依頼を断った。裕章は、馬場家は治療費で貯金を使い果たし、医療ローンまで残っていることを知ると、自ら進んで馬場先生の妻の治療費を全額支払い、さらにまとまった金額を渡した。彼の要求はただ一つ、腕輪をきれいに修復してほしいということだけだ。腕輪は見事に修復され、ほとんど傷跡もわからないほどだ。しかし馬場先生にとって、裕章は家族が最も苦しい時に手を差し伸べてくれたこの恩は、一生忘れられないものだ。ただ、この恩がまさか逸平のために先に使われることになるとは思ってもみなかった。逸平を見た瞬間、馬場先生は昨日訪ねてきて自分に追い返された若者だと気づいた。この若者は服装から顔立ち、立ち振る舞いや話し方まで、一見して只者ではないことがわかった。だから馬場先生は逸平のことをよく覚えていた。そして逸平が裕章と一緒に来ているのを見た時、驚きはしたものの、ただ軽くため息をつき、笑いながらこう言った。「これはきっと君とこのカバンの縁だよ」馬場先生が逸平の依頼を引き受けたくなかったのは、特に理由はなく、単にその設計があまりにも時間と労力がかかるものだったからだ。今では年も取り、妻も今年の初めに亡くなり、彼にとってはただ毎日を楽に、気楽に過ごし、時が来たら妻の元へ行くことだけを考えていた。しかし裕章が自ら連れてきた以上、馬場先生も門前払いにはできいのだ。老眼鏡をかけ、逸平が持ってきた設計図を受け取ると、紙はすでに年季が入っており、いつ描かれたものかもわからないのだ。全体的にやや粗い部分はあるが、作図者が心を込めて取り組んだことがうかがえる。馬場先生はその設計図をじっと見つめてしばらくしてから、メガネを上げて逸平の方を見た。目元にわずかな笑みを浮かべていた。顔には理解したような表情が浮かび、むしろ経験者のような風情がある。「大切な人への贈り物だろう」馬場先生は設計図を丁寧にしまい、微かに曲がった背中は年月の跡を物語っていた。逸平は唇を軽く
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