仮眠ベッドの上で、薫はゆっくりと横たわった。礼司の腕の中、シャツの袖から滴る水滴が、薫の首筋や鎖骨の上にひとしずくずつ落ちてゆく。濡れた髪が頬をくすぐり、薫は目を閉じてその感触を受け入れた。外の雨音はますます激しくなり、アトリエの天井や硝子窓を叩き続ける。ふたりだけの世界に、激しい雨音が脈打つように流れ込んでくる。礼司はもう、理性の残骸すら持たなかった。薫をベッドに押し倒すとき、背中で何かが剥がれ落ちていくのを感じた。これまで己を縛っていたもの――妻への義務、家族の面影、正しさや倫理の名をした外殻、それらがみな、雨のなかへ溶けて消える。薫の身体に触れたい、抱きしめたい、繋がりたい。その欲求は、もはや渇きというより痛みに近かった。礼司は濡れたシャツを脱ぎ捨てる。薫の手が、控えめに礼司の腕へと伸びる。指先はかすかに震えていたが、その震えが、ふたりの間に生まれる熱の証だった。薫は何も言わなかった。ただそのまま、身を委ねてくる。礼司は薫の胸元に口づけを落とす。肌に唇を触れさせるたび、雨の冷たさが一瞬遠ざかり、薫の熱だけが胸の奥で増していった。指が薫のシャツのボタンを外し、布地の隙間から滑り込む。薫の息がかすかに乱れる。濡れた指先が肌の上を辿るたび、そこだけが鮮やかに火照っていく。「……礼司さん」薫が、小さな声で礼司の名を呼ぶ。その響きが、礼司の身体の芯まで貫いた。礼司は薫の首筋に唇を這わせ、耳朶を軽く噛む。薫の背が小さく跳ねる。雨音がすべてをかき消してくれるから、礼司はもう何も恐れなかった。「もっと、……」薫がかすれた声で言う。礼司はその言葉に答えるように、薫の両肩をつかみ、身体を重ねる。薫の細い体躯は柔らかく、だが内側には確かな熱が灯っている。その熱が、礼司をすべて呑み込んでゆく。指先が、薫の肋骨、腰骨、太腿へとゆっくりと滑る。薫の肌は震えていたが、その震えごと、礼司は愛しさと欲望に変えていった。何度も唇を重ね、薫の汗と涙と、呼吸のすべてを受け止める。雨音はひるまず、天井を打ち続ける。激しく、熱っぽく、ふたりの息遣いに寄り添うようだった。礼司は薫の髪に指
最終更新日 : 2025-10-02 続きを読む