詩織の全身が、まるで内側から光を放っているようだった。会場のすべての視線が、彼女一人に引き寄せられる。誰もが、彼女を見ていた。ふと振り返ると、柊也がその光景に我を忘れたように見入っている。その横顔を見て、志帆の顔からさっと血の気が引いた。ドレスの脇で垂れ下がっていた手が、ゆっくりと固く握りしめられる。爪が掌に食い込む痛みも感じなかった。この瞬間、自分がひどく滑稽な道化のように思えた。詩織が何を語っているのか、もう一言も耳に入ってこない。志帆はかさついた唇をなんとか動かし、絞り出すように彼の名を呼んだ。「柊也くん……気分が悪いわ。もう、帰りましょう」幸いにも、柊也はすぐに我に返り、詩織から視線を外した。「ああ」彼は志帆の体を支え、会場を後にする。車に乗り込んだ瞬間、張り詰めていた志帆の神経がようやく少しだけ緩んだ。「少し休暇を取るといい。ゆっくり休め」柊也は、まだ自分のことを気遣ってくれている。その態度に、志帆の心はいくぶん救われた。「大丈夫。一晩休めばよくなるわ」こんなことで、くじけてはいられない。ここで負けを認めるわけにはいかない。今回、詩織が自分に勝ったのは、ただのまぐれだ。あの女の運が、そう何度も続くはずがない。だから、ここで気力を奮い立たせ、もう一度自分の陣地を、そして海雲をはじめとする皆の心を、自分の手で取り戻すのだ。確かに今日の詩織は、脚光を浴びていた。おそらく、柊也でさえ彼女を見直しただろう。でも、それがなんだというの?彼の心は、今も自分のここにある。それだけで、十分じゃない。……『ココロ』の発表会がもたらした空前の成功は、詩織の予想をはるかに超えていた。提携を申し出る企業が、文字通り列をなしている。それだけではない。『ココロ』の登場は、世界中で大きな議論を巻き起こした。世界中のAI専門家たちが『ココロ』を絶賛し、「世界のAI開発の構図を塗り替えた」「高コスト・長期間というAI研究開発への固定観念を覆した」と評価する。海外メディアの一部は、これを「AIのスプートニク・ショック」とまで呼んだ。国際社会に驚きと称賛をもって迎えられた『ココロ』は、社会現象と呼べるほどのテクノロジーとなり、ついには技術覇権を握る国家の戦略にさえ、多方面から衝撃を
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