正直なところ、同じ男として、先ほどの柊也の言葉は耳を疑うものだった。「ただ七年一緒にいただけだ。七年愛し合っていたわけじゃない」……あまりにも残酷すぎる。男の自分でさえ背筋が寒くなるセリフだ。詩織は一体どんな思いで、今の言葉を聞いていたのか。何か声をかけようとした潤だったが、詩織の意識はすでに向こうの男女になど向いていなかった。彼女は手元の腕時計に視線を落とすと、事務的に尋ねてくる。「それで、例の神宮寺さんという方は、いつ頃いらっしゃるの?」潤は慌てて居住まいを正した。「あ、はい。もう間もなく到着されるはずです」詩織は三十分ほど待ってみたが、例の神宮寺氏は一向に姿を見せなかった。しびれを切らした潤が先方のアシスタントに確認を入れると、帰ってきた答えは「急な会食が入ったためキャンセル」という、あまりにぞんざいなものだった。「申し訳ありません……せっかくの投資家をご紹介できると思ったんですが」潤はすまなそうに肩を落とす。だが、ビジネスの世界ではよくある話だ。「急用」というのは単なる口実で、設立間もない『華栄』など相手にする価値もないと足元を見られたのだろう。そんな扱いは今に始まったことではない。「気にしないで。ご縁がなかっただけの話よ」「神宮寺さんはまだ二十三歳で、海外の大学を出たばかりなんです。名家の跡取り息子として甘やかされて育ったせいか、かなり我儘な性格らしくて……ただ、バックの『神宮寺グループ』は国内屈指の資金力を持っています。もし組めれば、資金繰りの悩みなんて一発で吹き飛ぶんですが」「あなたの努力は伝わってるわ。ありがとう」ご縁がないものは仕方がない。無理強いしたところで良い結果にはならないだろう。詩織と潤がラウンジを出ていく姿を、遠目から太一が認めた。一瞬、声を掛けようと足が動いたが、すぐに立ち止まる。かつて彼女との間に作った溝や、浴びせてしまった心無い言葉の数々が脳裏をよぎり、今さら合わせる顔がないと思い直したのだ。彼は無言のまま、その場を立ち去った。資金調達の目途が立たず、詩織の表情は晴れない。密が胃を労わる特製のスープを差し入れながら、心配そうに覗き込んでくる。「詩織さん、眉間のしわがすごいですよ。あと、いくら足りないんです?」「最低でも400億円ね」動かせる金はす
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