「俺は、婚約する」「……は?」その瞬間、詩織はこの手にある荷物をすべて彼の顔面に叩きつけてやりたい衝動に駆られた。これが、重要な話?頭、どうかしてるんじゃないの!詩織が怒りを爆発させる前に、柊也が言葉を継いだ。「父さんはこの結婚に反対しているし、婚約式に出る気もない。俺にも無理強いはできない……今の父さんの体調じゃなおさらだ。松本さんも言っていたが、最近は食事も進まないようで塞ぎ込んでいる。だから、頼みがあるんだ」「私に説得しろって言うの?おじさまに式へ出席するように」詩織は、まるで狂人を見るような目で彼を見据えた。柊也は言葉を切り、首を横に振った。「違う。時間を見つけて、なるべく父さんの相手をしてやってほしいんだ。今、父さんは誰の言葉も耳に入らない状態だが、お前と松本さんの言うことだけは聞くから」「そんなこと、あんたに言われなくてもわかってるわよ」さっき松本さんと約束したばかりだ。「それと……」男は冷ややかな双眸を持ち上げたが、その瞳の光はどこか頼りなく揺れていた。「父さんが衝動的な行動に出る可能性がある。俺の婚約式の日……お前がそばにいてやってくれないか」「あんたのフィアンセから、招待状が届いてるんだけど」詩織は冷たく指摘した。「無視していい」なるほど。志帆があれだけ楽しみにしている婚約式だ、見たくない顔など見たくもないだろう。招待状を送ってきたのは、勝者としての戦果を自分に見せつけたいだけ。どのみち詩織に行く気はない。仕事の邪魔だ。それにしても、どこまでも志帆に配慮する男だこと。「他には?あるならまとめて言って」詩織は露骨に時計を確認し、一秒たりとも彼と関わりたくないという意思を表示した。柊也は長い睫毛を伏せ、感情の読めない声で呟いた。「父さんのこと……頼んだぞ」その口ぶりに、詩織は眉をひそめた。まるで遺言か、何かペットでも預ける時のような言い草だ。たかが婚約するだけでしょ?死ぬわけでもあるまいし。理解できない。本気で意味がわからない。「この期に及んで親孝行のアウトソーシング?自分の親の面倒くらい自分で見なさいよ。私がいくらやったって、息子の代わりにはなれないんだから」またこの男に時間を無駄にされた。本当に、人生の浪費だ。「それに、おじさまがあんなに反対
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