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第306話

Author: 北野 艾
悠人が部屋に入ると、静行は虫眼鏡を片手に、詩織が持ってきた柳先生の書に見入っていた。

先ほどまでの冷たい威厳はどこへやら、彼は手放しで喜びを露わにし、そばに控える家政婦に自慢げに話しかけている。

「見ろ、これだ。これこそが名筆というものだ!まったく、あいつめ、少しは殊勝な心が残っていたか。私の好みを忘れていなかったようだな」

上機嫌なその姿からは、詩織を追い返そうとしていたことなど想像もつかない。

「どんな書画が先生をそんなに喜ばせているんです?」

悠人も興味を惹かれて覗き込んだ。だが、机の上に広げられた書を目にした瞬間、その表情が凍りついた。

これは……見間違いようがない。あのオークションで、賀来柊也が20億円という高値を付けて落札した品だ。

悠人自身も喉から手が出るほど欲しかったが、志帆に免じて競り合うのを諦めた、あの一品。

なぜ、それがここにある?

静行は書の鑑賞に没頭しており、悠人の問いかけになど耳も貸さない。

代わりに家政婦が、にこやかに種明かしをしてくれた。「これはねえ、先生が一番可愛がっていらしたお弟子さんが贈ってくれたんですよ。もう、先生ったら宝物みたいになさって」

悠人の眉間がピクリと動いた。

一番可愛がっていた弟子……

悠人が父のコネクションを通じて高村静行の門下に入ったのは、昨年のことだ。

風の噂で、静行にはかつて溺愛していた弟子がいたと聞いたことがある。しかし、何らかの理由でその弟子は姿を消し、それ以来二度と現れなくなったという。

静行はその弟子の話をすることを固く禁じ、対外的にもその存在を認めようとしなかった。

時が経つにつれ、人々の記憶からも薄れていった幻の弟子。

ただ、昨年悠人が入門した際、周囲の人間が冗談めかしてこう言ったのを覚えている。

「七年前に最後の弟子を取ったんじゃなかったのか?また『最後の弟子』が増えるとはな」

その時、静行は烈火のごとく怒り出し、「そんな弟子は知らん」と、その時期に弟子を取ったこと自体を頑なに否定して見せたのだった。

当時、興味を抱いた悠人は、兄弟子である京介にそれとなく探りを入れてみたことがあった。

京介が言うには、確かに教授には溺愛し、目をかけ続けていた弟子がいたらしい。

だが、その存在を公にする前に、二人は袂を分かつことになった。

だからその弟子の正体を知
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Comments (2)
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maasa16jp
それでいつになったら 特大のざまぁの兆候がみられますか?
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maasa16jp
ぼんくら悠人 ゲス子に騙されてから目も腐ってしまったな
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