華栄とアーク・インタラクティブは同じビルに入っている。彼がそこに出入りしていれば、用向きなど調べるまでもない。「無駄なことはやめとけって。ゲーム開発がどれだけ金食い虫か分かってんだろ?華栄みたいな吹けば飛ぶような会社に何ができる。悪いことは言わねえ、俺のとこに戻ってこいよ。『エイジア』のバックアップがある俺の船に乗ったほうが、よっぽど将来性があるぜ。そうすりゃそのポンコツも買い替えてやるよ。見ろ、俺の新車のBMWを」ようやくエンジンの始動音が響いた。誠は屋根に置かれていた陽介の手を無造作に払いのけると、冷たく言い放った。「興味ないんで」そのままアクセルを踏み込み、車を発進させる。取り残された陽介の顔から、急速に笑みが消えていった。「……おい誠、人の好意を無にしやがって。いい度胸だ。見てろよ、後悔させてやるからな」……金曜日。江ノ本市に降り立った京介は、その足で詩織に電話をかけ、食事に誘った。二人はエスニックレストランで落ち合った。向かい合った京介の顔には、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。無理もない。「衆和銀行」の再建は、火中の栗を拾うようなものだ。それなのに京介は、自分のことよりも詩織の仕事の進捗を気にかけ、優しく問いかけてくる。「今日は仕事の話はナシ。純粋にご飯を楽しみましょ」詩織は彼の前にトムヤムクンの椀を取り分けて置いた。京介はふっと笑みをこぼす。「分かった、仕事の話は禁止だ。じゃあ、別の話をしようか」「別の話?」と詩織が聞き返そうとした矢先、京介が切り出した。「来週の木曜、先生の還暦祝いがあるんだが……君も顔を出さないか?」詩織は唇を噛み、心中で葛藤した。だが、結局口をついて出たのは弱気な言葉だった。「私が行っても、先生の機嫌を損ねるだけです」「それは君の思い込みだよ。この数年、先生が君のことについて一言も触れなかった。それが何を意味するか分かるか?」「……私のことなんて、とっくに忘れてるってことでしょ」「はは、参ったな」京介は声を上げて笑った。「君たち、答え合わせでもしたのか?まったく同じことを先生も言ってたよ」詩織の胸中は不安でいっぱいだった。かつて、恩師の期待を裏切ったのは自分だ。「二度と顔を見せるな、破門だ」激怒した先生にそう言い放たれたあの日以来、詩織は頑なに
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