Semua Bab 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した: Bab 291 - Bab 300

366 Bab

第291話

華栄とアーク・インタラクティブは同じビルに入っている。彼がそこに出入りしていれば、用向きなど調べるまでもない。「無駄なことはやめとけって。ゲーム開発がどれだけ金食い虫か分かってんだろ?華栄みたいな吹けば飛ぶような会社に何ができる。悪いことは言わねえ、俺のとこに戻ってこいよ。『エイジア』のバックアップがある俺の船に乗ったほうが、よっぽど将来性があるぜ。そうすりゃそのポンコツも買い替えてやるよ。見ろ、俺の新車のBMWを」ようやくエンジンの始動音が響いた。誠は屋根に置かれていた陽介の手を無造作に払いのけると、冷たく言い放った。「興味ないんで」そのままアクセルを踏み込み、車を発進させる。取り残された陽介の顔から、急速に笑みが消えていった。「……おい誠、人の好意を無にしやがって。いい度胸だ。見てろよ、後悔させてやるからな」……金曜日。江ノ本市に降り立った京介は、その足で詩織に電話をかけ、食事に誘った。二人はエスニックレストランで落ち合った。向かい合った京介の顔には、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。無理もない。「衆和銀行」の再建は、火中の栗を拾うようなものだ。それなのに京介は、自分のことよりも詩織の仕事の進捗を気にかけ、優しく問いかけてくる。「今日は仕事の話はナシ。純粋にご飯を楽しみましょ」詩織は彼の前にトムヤムクンの椀を取り分けて置いた。京介はふっと笑みをこぼす。「分かった、仕事の話は禁止だ。じゃあ、別の話をしようか」「別の話?」と詩織が聞き返そうとした矢先、京介が切り出した。「来週の木曜、先生の還暦祝いがあるんだが……君も顔を出さないか?」詩織は唇を噛み、心中で葛藤した。だが、結局口をついて出たのは弱気な言葉だった。「私が行っても、先生の機嫌を損ねるだけです」「それは君の思い込みだよ。この数年、先生が君のことについて一言も触れなかった。それが何を意味するか分かるか?」「……私のことなんて、とっくに忘れてるってことでしょ」「はは、参ったな」京介は声を上げて笑った。「君たち、答え合わせでもしたのか?まったく同じことを先生も言ってたよ」詩織の胸中は不安でいっぱいだった。かつて、恩師の期待を裏切ったのは自分だ。「二度と顔を見せるな、破門だ」激怒した先生にそう言い放たれたあの日以来、詩織は頑なに
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第292話

詩織の足が止まった。柊也は言葉通り、薬の入った紙袋を彼女に押し付けると、余計なことは一言も発さず、背を向けて立ち去っていった。あまりにあっさりとしたその態度は、かえって不気味で、別人のようだった。家に帰るとすぐ、詩織は松本さんに電話をかけた。松本さんは電話に出るなり、「お薬、届いた?」と尋ねてきた。詩織はたった今受け取ったと答える。「あら、そう。柊也様、ずいぶん長く待ってたんじゃないかしら」と、松本さんは気遣わしげにつぶやいた。詩織がわざわざ電話をかけたのには理由があった。今後二度と、柊也に薬を届けさせないよう、はっきり伝えておく必要があったのだ。彼との関係は終わった。復縁の可能性など万に一つもない。智也は言った。「柊也と対峙する時のあなたは、ひどく冷静だ」と。それは否定しない。けれど、その「冷静さ」を手に入れるために、どれほどの代償を払い、どれだけの涙を流したかなど、誰にも分かりはしない。正気であれば、あの泥沼のような関係に戻ろうなどとは露ほども思わないはずだ。「松本さん。もう彼に届けさせるのはやめてください。仕事以外で彼と顔を合わせたくないんです」受話器の向こうで長い沈黙が続き、やがて深い溜息が聞こえた。「……分かったわ。そうするわね」「よかったら処方箋を送ってもらえませんか?こっちの薬局で調合してもらって煎じますから」「処方箋だけあってもダメなのよ。手に入りにくい生薬がいくつか入っていて、私が田舎のツテを頼ってようやく揃えているんだもの」松本さんは諭すように言った。「迷惑だなんて思っちゃダメよ。私、全然苦じゃないんだから。それに、煎じ加減も私が一番分かってるしね」一呼吸おいて、松本さんはまた小さく溜息をついた。「詩織さん。柊也様と別れたからって、私たちとの縁まで切ってしまうつもり?海雲様だって、口には出さないけれどあなたのことを本当に気にかけていらっしゃるのよ。よくあなたの仕事の記事なんかを目で追って……」詩織は柊也に対してなら、どんなに冷徹に線を引こうとも良心の呵責など感じない。彼に対しては、尽くすべき義理は尽くした末の決別なのだから。けれど、松本さんや海雲に対して冷淡になることはできなかった。「縁を切るなんて、そんなつもりはありません。ただご迷惑をおかけしたくなくて……でも、そ
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第293話

特に太一の声は大きく、離れた詩織の耳にもはっきりと届いた。「なるほどね!つまり今日は結納品を選びに来たってわけか。志帆ちゃんが選んで、柊也が払う、と」太一は芝居がかった仕草で天を仰いだ。「で、俺は二人の熱々ぶりを見せつけられる噛ませ犬ってことかよ!」志帆は微笑みながら太一をなだめた。「太一も一緒に選んでよ。私一人じゃ迷っちゃうから、意見を聞かせてほしいの」「しょうがねえな。まあいいや、ついでに俺からも二人に婚約祝いでも落としてやるよ」「そんな、気を遣わなくていいのに」「気にすんなって!二人の一大イベントなんだからさ!」太一は妙に張り切っていた。そうやって上機嫌で振り返った瞬間、視界に入った人物に驚愕し、声が裏返った。「え、え、江崎……っ!」詩織は太一の動揺など意に介さず、無表情のまま三人の脇をすり抜けて、後方の一般席へと向かっていった。この不意打ちですっかり毒気を抜かれたのか、太一は借りてきた猫のように静まり返ってしまった。柊也は特に反応を示すこともなく二人を促し、VIPエリアの最前列――特等席へと腰を下ろした。一方、詩織の席はホールのほぼ最後列。二人の間には、物理的にも二つのブロック分の距離があり、精神的にも隔絶されていた。むしろ、その方が清々する。詩織の目的は明確だった。狙った品を競り落とすこと。それ以外に興味はない。ましてや、柊也たちのことなど眼中になかった。彼女は手元のスマホで業務連絡を処理し、合間を見て誠とプロジェクトについてメッセージを交わしていた。誠への出資を決めた以上、まずはスタジオの立ち上げを軌道に乗せなければならない。ここ最近は密を彼の手伝いに回し、詩織自身も空き時間を見つけては進捗を確認していた。前方席の太一は、席に着いてからもどこか落ち着かない様子で身じろぎを繰り返していた。なぜかは分からないが、最近の彼は詩織を目にするだけで、猫に睨まれたネズミのように萎縮し、冷や汗が出てくるのだ。以前、譲に「お前、あいつにやられすぎて完全にPTSDだな」と揶揄されたことがある。的確すぎる指摘だ。本人は口が裂けても認めないが、図星だった。一週間悩み抜いてひねり出した一万字の反省文のことを思い出すだけで、胃がキリキリと痛む。水の泡と消えた60億円の賠償金……
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第294話

譲がどうやってこの瞬間移動を成し遂げたのか、太一は猛烈に知りたかった。だが、その隣に詩織がいるという事実が、彼の好奇心を無理やりねじ伏せた。詩織を避けるという行動原理は、もはや彼のDNAに刻み込まれているレベルだ。太一がVIP席に戻ると、ちょうどオークションが開始された。志帆は出品リストに目を落とし、ペンでチェックを入れている。手元のリストを覗くと、すでにかなりの数の印がついていた。その多くは宝飾品で、確かに結納品として相応しいものばかりだ。太一はすかさずアピールした。「いいか、さっき言った通り、一つは俺に落とさせろよ。婚約祝いなんだから」「ふふ、じゃあお言葉に甘えようかな」「おう、任せとけって」太一はふと気になって、もう一度詩織の方を振り返った。譲はまだ詩織と話し込んでいた。体を彼女の方に向け、視線どころか上半身ごと前のめりになっている。太一は一拍遅れてその意味に気づき、ハッとした。得体の知れない予感が走り、なんとも言えない奇妙な表情になった。その様子に気づいた志帆が、「どうしたの?」と尋ねる。太一は言うべきか言うまいか迷い、口ごもった。だが志帆は彼の視線を追い、自ら振り返って後ろを確認した。その瞬間、彼女の表情にもさざ波が立った。浮かべていた柔らかな笑みが、スッと引いていく。太一にさえ分かることが、志帆に分からないはずがない。ただ、どうしても理解できなかった。譲は、あの女のどこがいいの?所詮は遊びかもしれない。だとしても、志帆の胸中には不快な澱が溜まった。譲のことは友人と認めているだけに、彼には自分の味方でいてほしかったのだ。志帆は不機嫌さを隠すように視線を戻した。もし譲の父親である坂崎春臣がこのことを知れば、黙ってはいないだろうと考えを巡らせる。何しろ江崎詩織の育ちやキャリアでは、坂崎家の嫁としてあまりに不釣り合いだ。「釣り合わない」どころか、人前に出せるレベルですらない。そう考えると、志帆はすぐに母親の佳乃へメッセージを送った。【お母さん、譲くんのお母様とは親しい?】【まあまあよ。どうしたの?】すぐに返信が来る。【大したことじゃないんだけど……譲くん、最近あの江崎詩織と親しくしてるみたいで。お母様の方からそれとなく忠告してあげた方がいいんじゃないか
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第295話

詩織はやんわりと断った。「いいえ。ここの方が静かで落ち着きますから」譲は最前列に陣取る数人の背中を見やり、彼女の言い分に深く納得した。「あなたは前に行かなくていいの?」と詩織が尋ねる。譲は首を横に振った。「いや、俺も静かな方が好きなんだ」二人がそんなやり取りをしているところに、悠人が到着した。彼はまず詩織の姿を認め、反射的に眉をひそめた。すぐに視線を外し、会場の前方へと目を凝らすと、最前列の中央に座る志帆の姿が飛び込んできた。悠人の足が止まる。彼は少し考えた後、進路を変えて第二エリアの席へと向かった。彼もまた、このオークションのVIP会員ではある。だが、志帆の隣には柊也がいる。そこへ割り込むのは野暮というものだ。だからあえて一歩引いた席を選んだのだ。第二エリアは、詩織たちのすぐ前、志帆たちのすぐ後ろに位置していた。オークションが中盤に差し掛かった頃、志帆の琴線に触れる品が登場した。カシミール産の極上サファイアをあしらったネックレスだ。開始価格は2億円。なかなかの高額品だ。ここ数年、サファイアの価格高騰は凄まじい。ましてや既に枯渇したと言われる幻のカシミール産となれば尚更だ。出品されたネックレスも、メインの五カラットの一石だけがカシミール産で、周囲を彩る石は色味こそ似ているものの価格差の激しいタンザナイトで構成されていた。志帆は迷うことなくパドルを挙げた。その入札は実に豪快だった。いきなり3億円まで釣り上げたのだ。会場がざわめく中、ある参加者が対抗して3億2千万円を提示する。間髪入れず、志帆は再びパドルを掲げた。「4億円」その圧倒的な上乗せ幅に、入札を検討していた他の参加者たちは戦意を喪失してしまった。市場価格の倍以上を出してまで手に入れようとする物好きはいない。志帆がここまで強気になれるのは、確固たる後ろ盾があるからだ。そしてその自信の源こそが、他ならぬ柊也の存在だった。柊也の寵愛を背に、志帆は見事にそのサファイアのネックレスを射止めた。あのパーティーで詩織に敗北を喫して以来、彼女はサファイアに対して異常なほどの執着を抱くようになっていた。彼女が欲しがれば、柊也は金に糸目をつけずに買い与える。その事実を詩織に見せつけてやりたかったのだ。会場中の視線が、
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第296話

誰かがこっそりと計算していた。開始から三十分も経たないうちに、彼女が使った金額は20億円を超えていると。さすがは金融界の新星、その資金力は桁外れだ。そして何より、フィアンセへの溺愛ぶりには目を見張るものがある。まさに、美女のためなら千金も惜しまず、といったところか。志帆は勝者の笑みを絶やすことなく、優越感に浸っていた。そして、何気ない仕草を装って後方の詩織を一瞥する。オークションも折り返し地点を過ぎたというのに、彼女はまだ一度もパドルを挙げていない。金がないのだろうか?手持ちもないのになぜここに来たのか、滑稽なことだ。ジュエリーの競売が終わり、骨董や書画の部に入ると、詩織はようやくスマホを置いて参戦の構えを見せた。彼女が目をつけていた掛け軸の開始価格は1千万円。詩織は相場を読み、1千200万円で入札した。途中、他の参加者との競り合いになり、価格はじわじわと2千万円まで上がった。詩織が再入札しようとしたその時、中央の席から声が上がった。「1億」は?この人たちは金銭感覚がどうにかなっているのか?詩織が声の主を確認すると、そこには悠人の姿があった。彼女は無言になった。なるほど、志帆の類友だけのことはある。金の使い方もそっくりだ。詩織がその掛け軸を欲しがっていると察した譲が、すっとパドルを挙げた。「1億2千万円」詩織は彼が自分用に買うつもりなのだろうと思い、特に口出ししなかった。ところが悠人は間髪入れずに再提示した。「2億」詩織は眉をひそめた。「譲ってしまいましょう。適正価格を遥かに超えているわ。買う価値はないです」彼女には投資家の血が流れている。買い物において「割に合うか」は絶対的な基準だ。明らかに、この掛け軸に2億の価値はない。幸い、目当ての品はもう一つある。次はそちらに賭ければいい。結局、掛け軸は悠人が2億円で落札した。詩織が狙う二点目の書画は、先ほどよりも値が張り、開始価格は1億円だった。彼女は第一ラウンドで定石通り、1千万円を上乗せして入札した。すると再び悠人が介入し、いきなり2億円まで釣り上げた。詩織は眉間の皺を深くした。どうやら彼は、意図的に自分を妨害しているらしい。その瞬間、詩織の負けん気に火がついた。彼女はパドルを高く掲げた。「3億円」
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第297話

志帆は慌てて後ろを振り返り、悠人に視線を送った。その目には懇願の色があった。悠人はさらに値を吊り上げるつもりでいたが、志帆のその眼差しを受け止めると、挙げかけた手をゆっくりと膝に戻した。これ以上は追わなかった。結局、その書画は20億円で落札された。隣で見ていた譲も、さすがに舌を巻いた。「柊也のやつ、派手にやりすぎだろ。結納の品だけで40億円だぞ?持参金はさらに跳ね上がるだろうし……お前がそんなにハードル上げたら、俺たちの立つ瀬がないだろうが」目当ての品が二つとも手に入らなかった以上、長居は無用だ。詩織は席を立つと、譲に声をかけた。「坂崎さん、私はこれで失礼します。用事がありますので」「俺も用事を思い出した」譲もバネ仕掛けのように立ち上がった。「何も買ってないじゃないですか」「狙っていたものを攫われたんでね。君と同じさ。奇遇だな、二人して手ぶらで帰るとは」その軽妙な言い回しに、詩織は思わず笑みをこぼした。「本当に奇遇ですね。では、ご一緒に」譲は願ったり叶ったりとばかりに、彼女が気を変えないうちにと素早く後に続いた。会場を出ると、詩織は駐車場へと向かった。譲の車は反対側のエリアに停めてあったが、彼は構わず詩織の後をついていった。「詩織さん、この後食事でもどう?せっかく会えたんだし」「ごめんなさい、今日はこれから予定があるの。また今度誘ってください」予想通り、詩織はやんわりと断りを入れると、別れの挨拶も手短に車に乗り込み、さっさと走り去ってしまった。その間、わずか五分。あまりに見事な撤収ぶりだった。遠ざかるテールランプを見送りながら、譲はやるせない溜息をついた。本音を言えば、腹を割って話したかった。「君を口説きたいからチャンスをくれ」と。だが、過去の七年間、自分が彼女に対してどれほど無礼な態度をとってきたかを思えば、そう簡単に言えるはずもない。因果応報だ。両社のビジネス上の繋がりがなければ、彼女は口もきいてくれなかっただろう。あの太一に対する扱いのように。だから、今は我慢するしかない。焦ることはない。時間はまだあるのだから。……詩織にとって、あのオークションの一件は終わったことだ。特に気に留めてすらいなかった。ところが翌日になると、ゴシップ誌がこれをこぞって書き立て、世
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第298話

詩織は首をかしげた。「招待状はとっくに届いていますけれど、会場がまだ決まっていなかったのですか?」副社長は声を弾ませて説明した。「いえ、そうではなくて。柏木ディレクターが会場のデザインがお気に召さなかったようでして……社長が直々に、プランの練り直しに付き合って現地へ行かれているんですよ」そこまで言うと、彼女の声には隠しきれない羨望の色が混じった。「もう、社長の溺愛ぶりといったら凄いです。まるでドラマに出てくる御曹司そのものですよ」詩織の関心は、そんなのろけ話には微塵もなかった。「ところで、真田さんはいらっしゃいますか?まだ休暇中でしょうか」「え……あ、ご存じないんですか?」副社長が急に口ごもった。「何の話です?」もう公になった話だし、隠す必要もないだろう。詩織もパートナー企業の代表であり、今後も関わる機会は多いのだから。そう判断したのか、副社長はあっさりと事実を告げた。「実は真田さん、柏木ディレクターと経営方針で対立しまして……開発チームを引き連れて退社されたんです」「いつのことですか?」なぜ、そんな重要な話が全く聞こえてこなかったのか。「今週の月曜日です」詩織は眉をひそめた。あのオークションがあった日ではないか。真田源治といえば、『エイジア・ハイテック』の屋台骨だ。会社が今の形になる前から柊也に付き従い、苦楽を共にしてきた最古参の幹部である。多大な功績もあり、苦労も分かち合った、まさに会社の心臓部とも言える存在。それを、柊也はいとも簡単に切り捨てたというのか?長年の右腕をクビにした直後に、婚約者を連れてオークションで爆買い?詩織はもはや、柊也が二重人格なのではないかと疑う段階を通り越していた。あれは別人だ。誰かに体を乗っ取られたか、中身が入れ替わったに違いない。それも、志帆を崇拝してやまない盲目的な信者に。そうでなければ説明がつかない。どうすれば人間がここまで極端に変わり果ててしまうのか、理解不能だった。本当に呆れる。言葉もないとはこのことだ。そんな詩織の心中も知らず、副社長が提案してきた。「江崎社長、よろしければ私から社長へご要件をお伝えしておきましょうか?ご決裁をいただけるよう手配いたしますので」「ええ、お願いします。一言だけ伝えていただけますか」「はい、承りま
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第299話

詩織は車を飛ばして賀来邸へと急いだ。門をくぐると、庭のベンチに座り込んでいる賀来海雲の姿がすぐに目に入った。日はすでに傾きかけ、辺りには夕闇が迫っている。昼間の暖かさは消え、肌寒さが忍び寄っていた。風が吹き抜けるたび、庭木の葉がざわざわと音を立てる。詩織は努めて明るく声をかけた。「おじ様」海雲は物思いにふけっているのか、反応がない。詩織はそばまで歩み寄り、もう一度呼びかけた。「おじ様」「あ……ああ、詩織か」ようやく海雲が顔を上げた。近くでまじまじと見ると、そのやつれ方は深刻だった。確かにひと回り小さくなったように見える。「どうして中に入らないんですか?風が出てきましたよ、風邪を引いてしまいます」詩織は海雲の前にしゃがみ込み、子供に言い聞かせるように優しく話しかけた。「気付かなかったよ」海雲はそこで初めて、日が暮れていることに気が付いたようだった。「さあ、お部屋に入りましょう」「ああ、頼むよ」詩織が車椅子を押してリビングに入ると、ちょうど厨房から料理を運んできた松本さんと目が合った。「あら、詩織さん!いらっしゃい。いいタイミングね、ご飯もできたところよ。すぐに食べましょう」「うん。じゃあ、手を洗ってきましょうか」詩織は慣れた手つきでハンドバッグをソファに放り出すと、そのまま海雲を洗面所へと促した。夕食のテーブルには、松本さんが腕を振るった料理が所狭しと並んでいた。詩織が側にいるおかげか、海雲も箸を進め、少しばかりの食事を口にした。松本さんによれば、これでも最近の中では一番食べているほうだという。「おじ様、ちゃんと食べなきゃ駄目ですよ。何があっても、体が一番大切なんですから」詩織が心配そうに言うと、海雲は深いため息をついた。「最近はどうも、気力だけで体がついてこんのだよ。歳を取ったせいか、頭の回転も鈍くなってな。集中力が続かなくて、会議中でも気が逸れてしまうことが増えてしまった」海雲は以前、深刻な交通事故に遭っている。脚だけでなく頭部にも重傷を負い、幾度もの手術を乗り越えてきた。医師からは、脳の使いすぎは激しい頭痛を引き起こすリスクがあると警告されていた。リハビリを経て一線からは退いたものの、賀来グループの重要事項には依然として彼が決裁を下さなければならない場面も多い。だが今の様子を
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第300話

なるほど。あの大金を叩いてこの書画を落札したのは、志帆のために父親の歓心を買おうとしてのことだったのか。どうりで、あんな異常な金額をポンと出せたわけだ。「だからって、画に八つ当たりすることないじゃないですか。すごく高価なものなのに、捨てるなんて勿体ないですよ」詩織が心を痛めているのは、もっぱらこの芸術品の行く末についてだけだ。「なら、詩織が処分してくれ。フリマアプリか何かで20円で売っ払ってしまえ。ここに置いてあるだけで目障りだ」海雲の本気だ。もし今日詩織が来なかったら、この名画は明日には本当にゴミ処理場行きだっただろう。「20円だなんて、あまりにも損ですよ」「損なものか。どうせ捨てるつもりだったんだ、20円にでもなれば儲けもんだろう」時々、この富豪たちの金銭感覚にはついていけないことがある。だが海雲の頑固さを知る詩織は、彼が本当に捨てかねないことを悟っていた。そこで彼女は妥協案を提示した。「おじ様、こうしませんか?私が専門の鑑定士に依頼して、適正な価格で買い取らせていただきます。その金額をおじ様にお支払いするということで」「詩織、これが気に入ったのか?なら持って行きなさい」海雲は即答した。案の定だ。「いいえ、それはできません。あくまで『購入』です。タダで譲るというなら、いりません。それに私の提案だって、本来の価値からすればおじ様にとっては大赤字なんですから、タダ同然みたいなものですよ」詩織の性格を熟知している海雲は、彼女が施しを受け取らないことも分かっている。彼は諦めたように頷いた。「わかった。好きにしなさい」安眠茶を飲み終えると、詩織は暇を告げた。松本さんは煎じ薬のほかに、たくさんの食料を持たせてくれた。フルーツや、手作りの餃子など、手軽に食べられるものばかりだ。「カップ麺で済ませちゃ駄目よ、体に悪いから」と、母親のように口を酸っぱくして言う。来るたびにこうして歓待され、手土産まで持たされるので、詩織としては申し訳ないやらありがたいやらだ。松本さん本人は嬉しそうだ。「詩織さん、時間があるときはいつでも来てね。あなたが来てくれると、海雲様も食事が進むし、機嫌も良くなるのよ」「ええ、また来ますね」詩織は快く約束した。松本さんは玄関まで見送りに来て、「運転には気をつけてね」と手を振った
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