詩織:【ところで、勤務時間中になんでサボってSNSチェックしてるの?】密:【……ドロンします!】……午前中、大会の閉会式に出席した詩織が、江ノ本市への帰路につこうとしていた、その時だった。響太朗の秘書が詩織のもとを訪れ、『G市商工会設立三十周年記念パーティー』への招待状を恭しく差し出したのである。高坂響太朗主催のパーティー。それは、財界関係者ならば誰もが一度は参加を夢見る、垂涎の社交場だ。このチャンスを逃す手はない。詩織は即座にフライトの予定を変更すると、親友のミキに連絡を取り、G市でも指折りのスタイリストを手配してもらった。今夜の宴に、一分の隙もない完璧な装いで臨むためだ。ホテルの部屋でヘアメイクを受けている最中、譲からメッセージが届いた。【いつ空港に向かう?】短い問いかけに対し、詩織は淡々と返信を打つ。【急用ができたから、少し延泊するわ】それを見た譲は、あからさまに落胆した。帰りの道中で、あわよくば詩織と二人きりの時間を作れると期待していたからだ。だが、予定が変わってしまった以上、どうすることもできない。彼は諦めて、先にチェックアウトするしかなかった。ロビーに降りると、そこにはすでに太一、柊也、そして志帆の姿があった。「おせーよ譲!何ちんたらしてんだ、お前待ちだぞ」太一が待ちきれない様子で急かしてくる。「悪い、今行く」譲は短く詫びて合流した。車を待つわずか数分の間、志帆のスマートフォンが震えた。悠人からのメッセージだ。【先輩、今日江ノ本に戻る?】志帆は手慣れた様子で指先を走らせる。【ええ、もう空港へ向かうところよ】すぐに返信が来た。【本当は僕も同じ便で帰りたかったんだけど……高坂社長のパーティーに出席することになったから、もう一泊するよ】今回のG市滞在中、悠人は志帆と接点を持つ機会にほとんど恵まれなかった。彼女の隣には常に、賀来柊也という絶対的な存在がいたからだ。だから彼は、遠くから彼女の姿を目で追うことしかできなかった。たとえ一目だけでも、その姿を焼き付けておきたいと願うように。悠人からのメッセージを目にした瞬間、志帆の胸がざわついた。【……ねえ、その高坂社長って、リードテックの高坂響太朗氏のこと?】【うん、そうだよ】志帆はスマホを握る手にぐっと力を込め、もどかしげに柊
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