「つよい、キノコ」「じゃあ、お姉さんは?」女の子は大きな瞳をパチパチさせて答えた。「きれいなキノコ」「どうして、あなたはつよいキノコなの?」女の子は口をへの字に曲げ、消え入りそうな声で言う。「そうしたら……だれにもいじめられないから」詩織の胸がずきりと痛んだ。酸っぱい果汁を絞ったような切なさが広がる。そっと手を伸ばし、女の子の服の裾に指先で触れてみる。拒絶されるかもしれない、という怖さを抱えながら。女の子はビクリと身を竦めたが、逃げ出そうとはしなかった。詩織はそれ以上踏み込まず、優しい声で語りかけた。「ねえ、お姉さんも、もっとつよいキノコになっていいかな?そうしたら、あなたのこと守ってあげられるから」女の子はじっと詩織を見つめ続けた。長い沈黙のあと、こくりと頷く。「うん。……もっとつよくて、きれいなキノコになって」百合子が迎えに来たとき、女の子――小春(こはる)は、詩織のベッドですやすやと寝息を立てていた。その光景に百合子は目を丸くし、一体どういう魔法を使ったのかと詩織に尋ねた。なにしろ、自分が小春の信頼を得るまでには、およそ一年近い歳月を要したのだという。詩織から事の顛末を聞き、百合子は感嘆の溜息を漏らした。「本当に……あなたには敵わないわね」しかし次の瞬間、百合子は表情を厳しく引き締め、ピシャリと詩織を叱りつけた。「でも、ドクターになんて言われてるの?安静にしなきゃダメじゃない。もっと自分の体を大事になさい」詩織はシュンとして、借りてきた猫のように大人しくなった。それを見ていた密が、ここぞとばかりに茶々を入れる。「いやあ、やっぱり百合子さましかいませんよ、詩織さんを操れるのは。私が何言っても全然聞かないくせに、百合子さまの一言でこの通りですからね。ホント、毎日来てくださいよ」「……」詩織は黙り込んだ。反論の余地がない。百合子が小春の手を引いて帰ったあと、密は待ってましたとばかりに身を乗り出した。その瞳はゴシップへの渇望でギラギラと輝いている。「詩織さん詩織さん、特大スクープっすよ」詩織は心底どうでもよさそうに、気のない返事を返す。「あんたのスクープなんて、どうせ大したことないでしょ」「いや今の私を信じてくださいって!マジでヤバいんですから」密はもったいぶるように声を張り上げた
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