All Chapters of 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した: Chapter 471 - Chapter 478

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第471話

ミキはますます面白がって身を乗り出す。「あら、当の本人のクズ也は喜んでゴミを漁ってるのに、話を聞くだけであんたは食欲なくすの?」「もう、やめてってば!」詩織が本気で箸を置きそうになったので、ミキは慌てて両手を上げた。「はいはい、降参。まあとにかく、あのお坊ちゃんにはしばらくご立派な『ツノ』を生やしたままでいてもらいましょ」それには詩織も同感だった。食事が終わった頃、詩織が手配していたデリバリーが届いた。海雲の好物である老舗菓子店の銘菓だ。病室の一件で海雲には助けられた。きちんとお礼をしておくべきだろう。ノックをして病室に入ると、そこには意外な人物――柊也の姿もあった。詩織に気づいた彼は、わずかに体を向け、静かな瞳でこちらを一瞥した。相変わらず、何の感情も読み取れない冷ややかな視線だった。詩織は手土産を松本さんに手渡した。挨拶だけして早々に立ち去るつもりだったが、海雲に呼び止められ、証券会社の話になった。『ココロ』の上場にあたり、詩織もいくつかの証券会社と接触し、主幹事選びを進めていたが、どの提案も今ひとつ決め手に欠けていたのだ。「私の方でも二社ほど、見繕っておいたのだがね」海雲はそう言って、前もって用意していた資料を詩織に差し出した。受け取って中身を確認した詩織は、息を呑んだ。そこにあったのは、国内トップクラスの証券会社の名前だったからだ。通常、『ココロ』のような新興プロジェクトの規模では、このクラスの大手と組むのは時期尚早とされる。彼らの顧客は、数兆円規模の大企業ばかりなのだ。詩織もハナから高嶺の花だと諦めていた相手だった。海雲は詩織の戸惑いを察し、力強く告げた。「私が推薦人になれば、先方も無下にはすまい」詩織の胸に熱いものがこみ上げる。起業の道は決して平坦ではない。だが幸運なことに、詩織の周りにはこうして手を差し伸べてくれる有力者が多く、そのおかげで困難な道も切り開くことができた。「俺は『中森証券』の方が『ココロ』向きだと思うけどな」それまで黙っていた柊也が、ふいに会話に加わってきた。「あそこはこの手の案件に実績がある。前にS市の『合和テクノロジー』の上場を主導した時も、受理から承認までわずか八十八日というスピード記録を叩き出してる」実は詩織も、心の中では『中森』に傾
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第472話

急ぐに決まっている。志帆に関わることなのだから、彼が冷静でいられるはずがない。詩織は彼の退室など気にも留めず、海雲にあれこれと相談を続け、ようやく病室を出る頃にはすっかり日が落ちていた。翌朝は重要な会議が控えているため、詩織は初恵に一声かけて帰ることにした。ナースステーションに立ち寄り、夜勤の看護師に挨拶を済ませると、ついでに残りの検査結果が出る正確な時間を尋ねた。後で受け取りに来る段取りをつけるためだ。その時、廊下の向こうから志帆と柊也が歩いてくるのが見えた。「柊也くん、母のことで迷惑かけてごめんなさい」志帆がしおらしく謝罪している。「迷惑なもんか」柊也の声は、詩織には決して向けないような、珍しいほど温かな色を帯びていた。「君の問題は俺の問題だ。もっと早く言ってくれれば、おばさんにあんな辛い思いをさせずに済んだのに」その言葉に胸を打たれたのか、志帆は思わず彼の腕に絡みついた。「だって、仕事を邪魔したくなくて……二回もかけるのは悪いと思ったの」「今後はそんな遠慮はいらない。何かあったらすぐに俺に言え」VIP病棟の静まり返った空間では、二人の会話が嫌でも耳に入ってくる。だが、詩織の心はさざ波ひとつ立たなかった。ただ淡々と、看護師から告げられた時間をスマホのメモアプリに入力していく。看護師が気を利かせて言ってくれた。「検査結果は私どもで保管しておきますので、お仕事がお忙しいようでしたら、無理にこの時間にいらさなくても大丈夫ですよ。ご都合の良い時で構いません」その声に反応して、二人がこちらを振り返った。詩織だと気づいた志帆は、興味なさげに視線を戻すと、見せつけるように柊也に身を寄せた。柊也もまた詩織を見たが、その瞳には何の感情も映っていない。冷ややかな無関心だけがあった。二人はそのまま通り過ぎていった。入れ替わりに、巡回から戻ってきた別の看護師が同僚に愚痴をこぼした。「ねえ、満室じゃなかったの? なんであの人たちが入れたわけ?」「なんでも、賀来社長が上の方に掛け合って無理やり空けさせたらしいわよ」さすがに詩織の手前、それ以上深くは話さなかったが、看護師たちの表情には明らかな不満が浮かんでいた。そこでようやく詩織は合点がいった。さきほど柊也が慌てて飛び出していったのは、佳乃のために無理やりV
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第473話

今、目の前に転がり込んできたこのチャンス――みすみす逃すわけにはいかなかった。海雲は車椅子に深く腰掛けたまま、話しかけてきた佳乃を一瞥しただけだった。その眼差しに特定の感情は読み取れない。それなのに、佳乃は本能的に後ずさりしたくなるような、得体の知れない威圧感を覚えた。志帆もまた、猫をかぶったような殊勝な声色で呼びかける。「おじ様」しかし海雲は彼女を直視すらしない。その表情は冷淡そのものだった。それでも志帆はめげずに、一方的に言葉を継ぐ。「もうすぐ柊也くんが来ますから、よろしければ彼に送らせましょうか?」すると、傍らに控えていた松本さんが、氷のような冷ややかな視線を志帆に向け、きっぱりと告げた。「お気遣いなく。お迎えは手配済みですので」その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、一台の車が滑り込んできた。詩織だ。彼女は海雲の目の前にピタリと車を寄せると、運転席から降りてこちらへ歩み寄ってくる。松本さんの手を借り、海雲がゆっくりと立ち上がる。先ほどまでの他人行儀で冷徹な表情が嘘のように、詩織を見るその瞳は穏やかな色を帯びていた。「……来たか」「手を貸します」詩織は自然に海雲の腕を取り、車の方へとエスコートする。松本さんもまた、無駄のない動きで二人に続いた。取り残された志帆と佳乃の母娘は、その場に立ち尽くすしかなかった。二人の表情はみるみるうちに強張っていく。志帆に至っては、屈辱と怒りで肩を小刻みに震わせていた。佳乃も腹わたが煮えくり返る思いだったが、娘よりは辛うじて自制心が働いていた。「柊也くんがもう来るわ。顔に出しちゃ駄目よ、こらえて」そう諭しながらも、彼女は詩織の車が消えた方向を、蛇のような陰湿な目で見つめていた。「あの子がいい気になっていられるのも、今のうちだけよ」海雲の口添えもあり、中森証券の長谷川社長との商談はトントン拍子に進んだ。長谷川は『ココロ』のポテンシャルを高く評価しており、詩織の才覚にも感心しきりだった。「ご安心ください、必ずや『ココロ』を上場まで導いてみせますよ」長谷川は自らの胸を叩いて請け負った。その言葉に、詩織はずっと胸につかえていた重荷が下りたような安堵を覚えた。その週末、詩織は休息を返上し、会社に缶詰になって中森証券へ提出するための資料作成に没頭した
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第474話

詩織は即座に拒絶した。「悪いけど、話し合う余地なんてないわ」柊也は怒る素振りも見せず、むしろ余裕たっぷりに背もたれへ深く身体を預けた。その声音は淡々としていて、冷ややかですらある。「俺の提示する条件を聞いてから決めても遅くはないだろう?……お前にとって、断りきれないだけの提案かもしれないぞ」詩織は二秒ほど柊也の瞳を凝視した後、ふっと眉間の力を抜いた。「いいわ。話を聞くくらいなら」その反応に、柊也は鼻で笑った。まるで、最初からこうなることが分かっていたと言わんばかりの嘲笑だった。隣にいる志帆もまた、見下すように艶やかな唇の端を吊り上げる。だが、詩織はそんな二人の態度など意に介さなかった。ただ知りたかったのだ。今回、柊也が愛する志帆のためにどれだけの犠牲を払い、どんな破格の条件を用意してきたのかを。当然、密談は二人きりで行われる。立ち上がり際、柊也は安心させるように志帆の肩を軽く叩いた。「すぐ戻る」志帆は寛容な笑みを浮かべ、自分と柊也の絆の強さを誇示するように頷いた。「ええ、ゆっくり話してきて」しかし、詩織が部屋を出て行こうとする瞬間、志帆はその背中に蔑みのこもった視線を突き刺すのを忘れなかった。海雲おじ様に気に入られてるからって何だっていうの?柊也くんにとって、江崎詩織なんて無価値な存在よ。彼が本当に大切にしているのは、この私だけなんだから。志帆は内心でほくそ笑んだ。「江ノ本市で最速の上場記録を打ち立てたい」――自分が何気なく漏らしたその一言のために、柊也はすぐさま動き出してくれたのだ。自ら中森証券の長谷川社長にコンタクトを取り、詩織との契約直前に割り込んでまで、こうして自分のお膳立てをしてくれている。それが何よりの証拠だった。柊也は詩織を別の個室へと案内した。中にはすでに茶の用意が整えられており、湯気が静かに立ち上っている。テーブルの上には、上品で可愛らしい茶菓子が数皿並べられていた。その中の一つに、詩織は目を留める。かつてSNSで爆発的な人気を博した『月下美人』の生菓子だ。ブームの最中は入手困難を極めた代物である。当時、詩織は子会社の上場準備で連日連夜激務に励む『エイジア』の社員たちを労うため、深夜から行列に並んでその菓子を調達したことがあった。限定販売だったため自分の分ま
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第475話

「……どうも」柊也は気のない返事をし、流し目で詩織を見送った。二人が元の個室に戻ると、志帆と長谷川はすっかり打ち解けていた。「まさか長谷川社長と同じ大学だなんて!これはもう、乾杯せずにはいられませんね」「いやあ、本当に。世間は狭いものですな」長谷川も相好を崩している。席に戻り腰を下ろすと、柊也が尋ねた。「随分と楽しそうじゃないか。何の話だ?」志帆は待っていましたとばかりに報告する。「聞いて、柊也くん!長谷川社長もWTビジネススクール出身なんですって。私たち、同窓生だったのよ。すごい偶然でしょう?」「へえ、そいつは奇遇だな」柊也は相槌を打ちつつも、釘を刺すのを忘れなかった。「だが酒はやめておけ。ここ数日、体調が優れないんだろ?」そのやり取りを見て、長谷川が感嘆の声を漏らす。「お二人がお熱いという噂はかねがね耳にしておりましたが、いやはや、百聞は一見に如かずですな」「もう、やだ。社長ったら」志帆は頬を染めて恥じらって見せる。「はっはっは、いいことじゃありませんか」一通り盛り上がったところで、長谷川が探るような視線を詩織に向けた。二人の話し合いの結果が気になっているのだ。詩織は潔く切り出した。「長谷川社長、今回はご縁がなかったということで。またの機会にお願いいたします」長谷川は瞬時に状況を察した。「そうですか……承知しました。まあ、今回はお近づきの印ということで!」そして、帰ろうとする詩織を引き留める。「江崎さん、せっかくですから食事でもご一緒していきませんか?これも何かの縁ですし」「いえ、あいにく次の予定がありますので。お気遣いなく。……皆様、どうぞごゆっくり」詩織が背を向けて去っていくその姿を、志帆は勝利の笑みで見送っていた。ほら、やっぱりね。柊也くんが以前、江崎詩織を評価していたのは事実かもしれないけど、それはあくまでビジネスパートナーとしてだけ。彼の心にあるのは、いつだって私一人なんだから。志帆の胸中には、確信めいた優越感が広がっていた。詩織など、自分の驚異にはなり得ないのだと。……どこで聞きつけたのか、賢が血相を変えて『華栄キャピタル』へ飛び込んできた。詩織が『ココロ』の上場計画を一時停止したという情報を掴んだらしい。詩織は少なからず驚いた。柊也と合意に至ったのは昨日の今日だ
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第476話

生前の百合子の遺志を尊重し、響太朗は葬儀を行わなかった。代わりに、二人が初めて出会った思い出の公海へ、自らの手で静かに遺骨を散骨することを選んだ。詩織にとって唯一の救いは、中森証券との提携を断念してまで手にした『中博』の合併話が、無事に成立したことだった。そのおかげで、百合子の心残りを一つ減らすことができたのだから。詩織はそのままG市に二日ほど滞在した。江ノ本市へ戻る前、響太朗が別れの挨拶のために時間を割いてくれた。彼は、今は亡き妻が心血を注いだ『中博』を頼む、と詩織に頭を下げた。もちろん、彼に言われるまでもなく、詩織が百合子の信頼を裏切ることなどあり得ない。それは彼自身もよく分かっているはずだったが、それでも言葉にせずにはいられなかったのだろう。詩織は改めて、必ずこの会社を大きく育て上げると彼に誓った。響太朗は詩織を見つめていたが、その瞳はどこか遠く、虚空を彷徨っているようだった。彼女を通して、もういない誰かの面影を探しているかのようでもあった。別れ際、詩織はずっと気になっていた「あの人」のことを尋ねてみた。かつて命がけで自分を救ってくれた恩人のことだ。だが、響太朗は首を横に振った。「あいにくだが、彼は出張中だよ」詩織は肩を落とし、またの機会に望みを託すしかなかった。詩織は急いで帰路につき、新しいアシスタントの瀬川湊と共にとんぼ返りで江ノ本市へ向かった。空港に降り立った時には、すでに月曜の未明になっていた。迎えに来た密は、いつになく元気がなかった。表情は沈み込み、口数も極端に少ない。「どうしたの?彼氏と喧嘩でもした?」詩織が不思議に思って尋ねると、密はぶんぶんと首を振った。「違いますっ!」「じゃあ、どうしてそんな顔してるの?」密は言い淀んだ後、悔しそうに打ち明けた。「……詩織さん、契約がほぼ決まっていた会計事務所と法律事務所が、急に態度を変えたんです。うちとの提携を白紙にしたいって……」百合子を見送る詩織の邪魔をしたくない一心で、密はずっとこの報告を胸にしまっていたのだ。詩織は数秒沈黙した後、静かに問いかけた。「……『パース・テック』が動いたの?」密は無言で頷いた。そして、溜め込んでいた怒りを爆発させるようにまくし立てた。「親会社の『エイジア』には専属の会計チームも法務部もある
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第477話

我に返ると、安井はバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。「は、はあ……そうですか。左様で。では、またの機会ということで……」詩織の視線が志帆を捉える。その瞳の奥には、他人の成果を横取りして勝ち誇る、卑しい優越感が見え隠れしていた。すれ違いざま、詩織は足を止めることなく、ささやくように言い放った。「柏木さんって、どうしてそんなに人の物を欲しがるのかしら。……自分自身の価値に自信がないから?」その言葉に、志帆の表情が凍り付く。口元に張り付いていた笑みが一瞬で消え失せた。事情を知らない安井代表はきょとんとしている。「え? いったい何の話ですかな?」詩織はふわりと笑ってごまかした。「いいえ、独り言です。それでは安井代表、また」それ以上の追撃は控えた。何と言っても、相手はあの賀来柊也が目に入れても痛くないほど溺愛している「最愛の彼女」だ。彼女の顔を潰すことは、すなわち柊也の顔に泥を塗ることと同義になる。彼を本気で怒らせるのは得策ではない。なにせ、『エイジア・ハイテック』から提供された『中博』へのリソースや供給ルートを、まだ完全には掌握しきれていないのだ。ここでの決定的な決裂は避けるべきだ。ビルを出て、迎えの湊を呼ぼうとスマホを取り出した時だった。京介から着信が入る。通話ボタンを押すと、京介の声が響いた。「今、『永安』にいるのか?」「ええ……どうしてわかったの?」詩織は驚きを隠せなかった。「俺も近くにいるんだ。お前の車が見えたからさ」電話越しに彼の声が続く。「少し会えないか。話がある」ビルのエントランスを出ると、すぐに京介の車が見つかった。だが、そこにいたのは彼だけではなかった。柊也だ。彼もまた、誰かを迎えに来ていたらしい。二人が鉢合わせし、軽く言葉を交わしているところに詩織が現れた。詩織の姿を認めた京介は、柊也に向かって短く告げた。「待ち人が来たようだ」柊也の冷ややかな視線が、真っ直ぐに詩織へと向けられる。だが詩織は彼に見向きもしなかった。まるでそこに誰もいないかのように通り過ぎ、満面の笑みで京介の元へと歩み寄る。「お待たせしました、京介先輩」「いや、俺も今着いたところだ」そう言って、京介は自然な仕草で詩織の頭に手を置き、ポンポンと軽く撫でた。その光景を横目で見ながら、柊也はポケ
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第478話

随分と前の出来事のはずなのに、あの時の柊也の冷ややかな表情を、詩織は痛いほど鮮明に覚えていた。それは、詩織が初めてビジネスの場でセクハラに遭った時のことだ。相手は会社にとって重要なクライアントで、無下にはできない立場だった。恐怖と屈辱で震え、目を赤くして柊也に助けを求めた詩織に対し、彼は無感情にそう言い放ったのだ。それ以来、どんなトラブルに見舞われても、詩織は反射的に「自分一人でなんとかしなければ」と考える癖がついてしまった。当時のショックがあまりに大きかったからだろう。言葉の刃と共に、あの時の彼の氷のような眼差しまでが、記憶に焼き付いて離れない。もし、あの時泣きついていたのが柏木志帆だったなら――柊也は決してあんな態度は取らなかったはずだ。比較対象がいると、事実はより残酷さを増す。愛されていないという現実は、いつだって鮮明な対比によって証明されてしまうのだ。詩織の言葉を聞いた京介は、痛ましげな表情で彼女を見つめた。「詩織。そうやって一人で張り詰めてばかりじゃ、いつか壊れてしまうよ」それは詩織自身、痛いほど分かっていた。けれど、この世界で本当に頼れるのは自分自身だけ――それが彼女の骨の髄まで沁み込んだ処世術だったのだ。京介はそんな頑なな心を解きほぐすように、悪戯っぽく微笑んだ。「ねえ、忘れてない? 君にはまだ『最強の切り札』がいることを。あの人なら、この状況をひっくり返せるかもしれない」詩織はハッとして顔を上げた。「……まさか、あの人のこと?」瞬時に意図を察した彼女を見て、京介は満足げに深く頷いた。「そう、彼だよ」翌日、詩織は風間先生を引き連れ、ある人物の自宅を訪ねた。だが、ターゲットである高村教授は、どこから情報を嗅ぎつけたのか、タッチの差で逃亡していた。何度電話を掛けても繋がらない。詩織はスマートフォンの画面を見つめ、深い溜息をついた。「還暦も過ぎた大の大人が、どうしてあそこまで医者嫌いなのかしら……」その頃、逃走中の高村教授は、都内の高級料亭で開かれていた会食の席にいた。普段の彼なら、こういった俗っぽい場には決して顔を出さない。しかし今日は、詩織と風間先生の追及から逃れるためなら場所など選んでいられなかったのだ。適当な誘いに乗って飛び込んだ先が、まさか柊也の主催する会食
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