彼女の足が、思わず凍り付く。数歩先を歩いていた柊也が、志帆がついて来ないことに気づき、不思議そうに振り返った。「どうした?」「……ううん、何でもないわ」志帆は慌てて視線を逸らし、平静を装ったが、その表情は明らかに曇っていた。見間違えるはずがない。あれは京介と詩織だった。あの二人の姿を見るたびに、先日、江ノ本大学で京介に言われた言葉が呪いのように蘇る。京介が七年間も想い続けてきた相手は、他ならぬ江崎詩織だったという事実――それが、志帆のプライドを酷く傷つけ、胸の奥で燻り続けているのだ。個室に入ると、譲は既に到着しており、太一の悪友たちも数名集まって騒いでいた。志帆は室内をぐるりと見渡した後、太一に尋ねた。「京介は?まだ来てないの?」「ああ、ちょっと野暮用があるらしくて、遅れるってよ」と、太一が答える。志帆は心の底で冷たく笑った。何が野暮用よ。要するに、あの女と一緒にいるってことじゃない。京介の「遅れる」という言葉通り、パーティーが始まって一時間が経過しても、彼は姿を現さなかった。居ても立ってもいられなくなった志帆は、適当な理由をつけて部屋を出ると、VIPエリアの廊下をうろつくふりをして様子を窺った。予感は的中した。ある個室の隙間から、京介の姿が見えたのだ。その隣には、当然のように詩織が座っていた。二人は満面の笑みを浮かべ、向かいに座る人物と談笑している。会話の最中も、京介はずっと詩織の方に体を向け、甲斐甲斐しく料理を取り分けたり、海老の殻を剥いてあげたりしている。その仕草は、どこまでも優しく、慈愛に満ちていた。その光景が、志帆の網膜を焼き尽くすほど眩しく、同時に鋭い棘となって心臓に突き刺さる。胸の奥から湧き上がる不快感が、胃をじりじりと焼いた。その時、ウェイターが料理を運び込むためにドアを大きく開け、志帆は二人の対面に座る人物の顔をはっきりと目撃した。――高村静行だ!数日前の会食では、終始仏頂面で口もきかなかったあの厳格な教授が、今は別人のように相好を崩し、楽しげに笑っているではないか。志帆の眉間に深い皺が刻まれる。京介ったら……まさか江崎詩織に、高村教授のような超VIPな人脈を紹介しているの!?江崎ごときの学歴とスペックで、高村静行のような雲の上の存在
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