ここ最近、先生はずっとAIの話題ばかりだったしな……「これからはAIの時代だ。お前も暇な時はこの対局ソフトと打ってみろ」と、やけに熱心に勧めてきたことを思い出す。「どうして急にAIなんです?」と尋ねると、脇でお茶を淹れていた家政婦が笑って口を挟んだ。「それはもう、先生の可愛い愛弟子さんがお勧めになっているからですわ」「なっ、馬鹿を言うな!私はまだあやつを弟子と認めたわけではないぞ!うちの大学院に受かってから言え!」高村教授は顔を真っ赤にして否定したが、家政婦は楽しそうにクスクスと笑っていた。「本当に素直じゃないんですから。あの子のニュースが出るたびにチェックして、お友達の社長さんたちに『よろしく頼む』なんてこっそり電話してるくせに」高村教授が「もうすぐ着く」と電話で告げたため、悠人はそのまま外で待つことにした。するとB館から、詩織と智也が出てくるのが見えた。彼らが迎えたのは、智也の恩師である饒村玉良だ。現在は人工知能協会の副理事長も務める権威。『ココロ』の上場プロジェクトは、国内のAI開発全体にとっても極めて重要な試金石となる。だからこそ饒村は、自身の研究チームを引き連れ、支持と視察を兼ねて直々に足を運んだのだ。智也は居住まいを正し、師に対して緊張した面持ちで状況報告を始めた。詩織は気を利かせ、師弟が気兼ねなく話せるよう一歩引いて後に続く。悠人は会場前の目立つ場所に立っていた。当然、詩織の目にも入ったはずだ。だが彼女は、悠人の存在になど気づいていないかのように、視線ひとつ向けずに通り過ぎようとする。「……ふん」悠人は鼻で笑い、聞こえよがしに毒づいた。「誰かが舗装した道を歩くのは楽だよな。それが成功への最短ルートってわけだ」主語はない。だが周りに悠人の知人などいない以上、それが自分に向けられた皮肉であることは明白だった。詩織は足を止めた。悠人が自分に対し偏見を持っていることは知っている。普段なら相手にもしないが、際限なく侮辱を許容するつもりは毛頭ない。詩織はゆっくりと視線を上げ、冷ややかな瞳で悠人を射抜いた。悠人は口元を歪め、さらに挑発を重ねる。「楽ばかり覚えてると、そのうち行き止まりにぶち当たるぞ?怖いとは思わないのかね」「神宮寺社長。そんなにお説教がお好きなら、教員免許でもお取
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