罵り終わらないうちに、プツンと通話が切られた。「あのアマぁぁぁ!」ミキはスマホを握りしめたまま、放送禁止用語を叫んだ。「何があったの?璃々子が何か言った?」言葉を失うほど激昂しているミキを見て、詩織がそっと問いかけた。電話の相手が璃々子であることは察したが、会話の内容までは聞こえなかったのだ。ミキが荒い息を吐き出す。「忙しいから邪魔しないで、だって」「こんな朝早くから、何をそんなに忙しくすることがあるのよ?」「こんな朝早くから、何が忙しいかって言ったら……」ミキは意味深に言葉を濁した。詩織が呆気にとられる。まるで禅問答だ。次の瞬間、ミキは跳ね起きるようにベッドから飛び出した。その身軽さに詩織が目を丸くする。なかなかの身体能力だ。「どこへ行く気?」「決まってるでしょ!あのクズ男と泥棒猫をシメに行くのよ!」ミキは導火線の短いダイナマイトのような性格だ。一度火がついたら誰にも止められない。詩織は止めるのを諦め、自分もベッドを降りた。せめて彼女が暴走して怪我をしないよう見守り、いざという時は加勢しなければ。そう思って立ち上がった瞬間、太腿の付け根に走る激痛に襲われた。足腰に力がうまく入らず、その場に崩れ落ちそうになる。とっさに近くの机に手をかけ、なんとか体を支えたが、顔が一気にカッと熱くなった。あのバカッ!心の中で柊也への呪詛を吐き捨てずにはいられない。二人がまさに部屋を出ようとした時、来客があった。澪士だ。手には、行列店でわざわざ買ってきたというテイクアウトのデリが二つぶら下がっている。「どこへ行くんだ?」ミキが歯をむき出して答える。「人殺しよ」澪士は何食わぬ顔で返した。「そりゃ面白そうだ。俺も混ぜろ。殺人はまだ未経験なんでね」詩織は天を仰いだ。……なんで会話が成立してるのよ。この二人の思考回路は、特殊な周波数で繋がっているに違いない。ホテルの客室。バスルームから出てきた白彦は、璃々子の姿を見て驚いた。「いつ来たんだ?」「ついさっきよ、秘書の人が開けてくれたの」璃々子は、さもあったことのように付け加えた。「あ、彼なら朝食を頼みに行ったわよ」白彦はそれ以上追及せず、ベッドサイドに置かれたスマホを手にした。画面は暗いまま。メッセージも着信も入っていない。
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