「では、こちらで少々お待ちいただけますか。履歴書を板木社長のもとへお持ちしますので」満面の笑みで、人事担当者は詩織にそう告げた。詩織は静かに頷く。待っていると、ミキからLINEでメッセージが届いた。【面接どう?】【順調だよ】詩織がそう返すと、すぐにお祝いのスタンプが連打され、【決まったら奢ってよね!】という威勢のいいメッセージが続いた。【いいよ。お店は任せる】返信するや否や、【やったー!】というスタンプと共に、ミキは早速お店選びに取り掛かったようだった。それから三十分ほど経っただろうか。戻ってきた人事担当者の表情が、先ほどとは明らかに違うことに詩織は気づいた。詩織の胸が、どくん、と嫌な音を立てる。言い知れぬ不安が、心の底からせり上がってくるのを感じた。「大変申し訳ありません、江崎さん……社長のほうで、今回は見送りということになりまして……」担当者は詩織に履歴書を差し出し、重ねて詫びた。「申し訳ないです。貴重なお時間をいただいてしまったのに……」詩織は、努めて平静を装いながらそれを受け取った。胸の内に広がる失望感は大きかったが、こんなことは初めてではない。何度も繰り返すうちに、不採用という結果を受け入れることにも、悲しいかな、慣れてしまっていた。「差し支えなければ、お見送りとなった理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」詩織は静かに尋ねた。しかし、担当者は力なく首を振るだけだった。「それが……私にも分からないんです」これ以上相手を困らせるわけにもいかず、詩織は礼を言ってその場を後にするしかなかった。エレベーターホールで到着を待っている間に、ミキはレストランを決めたらしい。詩織は【OK】とだけ返信した。チーン、と音がしてエレベーターのドアが開くと同時に、背後から複数の足音と話し声が聞こえてきた。その声は、詩織の背筋を凍らせるほど、よく知っているものだった。――最悪だ。柊也と、志帆。柊也は、どこへ行くにも本当に志帆を連れ添っているらしい。「いやぁ、賀来社長、本日はありがとうございます。まさかこのような増資拡大の件で、社長自らお越しいただけるとは……光栄の至りです!」弾んだ声で話すのは、先ほどの面接先の板木社長だ。対して、柊也は落ち着いた声で応える。「これは柏木ディレクターが担当す
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