向井は馴れ馴れしく詩織の肩に手を置いた。「いやあ、本当に久しぶり!江崎さんはまた一段と綺麗になられた!」「お褒めいただき光栄です」詩織は社交辞令を返しながら、気づかれないようにそっと身を引いて彼との距離を取る。この向井という男、業界では札付きで、金と女に汚いことで有名だった。ただ、投資の目利きだけは確かで、何に手を出しても儲け、この数年で莫大な富を築き上げた。そのため、業界の人間は誰もが彼に一目置かざるを得ない。以前、彼と仕事で関わった時も、向井は何かと詩織に言い寄ってきた。自分と一緒になれば、こんなところで馬車馬のように働く必要はない。毎日買い物や旅行をして、俺の機嫌を取るだけでいい、と。限度額のないブラックカードをくれてやる。家も車も、自家用ジェットだって買ってやる、と。生憎、詩織の心は微動だにしなかった。彼女は相手の顔を潰さないよう、うまく彼をいなした。向井は残念がりこそしたが、それ以上しつこくつきまとうことはなかった。だが、人の本性はそう簡単には変わらない。仕事で顔を合わせるたびに、どうにかして彼女に触れようと隙を窺っている。「さすがは賀来社長、お目が高い!秘書さんはお美しいだけでなく、仕事もできる。私にも江崎さんのような片腕がいてくれたら、賀来社長以上に稼いでみせるんだがなあ!」「向井社長は私を買い被りすぎです。私はただの秘書ですから。社長が今の地位を築けたのは、すべてご自身の努力の賜物ですよ」「江崎さんは謙遜しすぎだ!エイジアがここ数年で当てた案件の半分は、あなたの手柄だってことは、この業界じゃ誰でも知ってるよ。秘書だけやってるなんざ、宝の持ち腐れってもんだ」向井はそう言いながら、またじりじりと詩織ににじり寄ってきた。詩織はグラスを取るふりをして、再び彼から距離を取る。「向井社長、まずは一杯いかがですか」その様子を、離れた場所から志帆が目敏く捉えていた。彼女は隣にいた赤城沙耶に尋ねる。「江崎さんと話しているあの人、誰?」沙耶はそちらに視線を向け、答えた。「ワンスターキャピタルの向井社長ですね。あそこの会社、ここ数年でかなり伸びてますよ。エイジアには及びませんけど、なかなかのものだと聞いています」それを聞くやいなや、志帆はすぐに二人がいる方へと歩き出した。詩織は、なんとか向井の関心を仕
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