エイジアをまだ辞められていないと知ると、沙羅は眉をひそめた。「賀来さんは一体何を考えてるの?しかるべき待遇も役職も与えないくせに、辞めさせもしないなんて……あまりに卑劣じゃない?」詩織はそんな気の滅入る話を続けたくなった。代わりにAIプロジェクトの話題を切り出す。沙羅はすぐに興味を示し、二人はしばらくその話に没頭した。このプロジェクトは以前から詩織が担当しており、久坂智也の次に詳しい人物だった。彼女の語る多角的な分析と評価は、非常に専門的だ。沙羅は感心して、思わず尋ねた。「あなた、もしかして大学でコンピューターサイエンスを専攻してた?」詩織は静かに首を横に振る。「だって、あまりにも専門的なお話だったから、てっきりその道のプロなのかと思ったわ」「プロジェクトを手掛ける前には、まずその案件をあらゆる角度から調査・分析するようにしています。投資すべきか、様子を見るべきか、あるいは見送るべきかを見極めるためです。ですから、他の人よりは少し詳しくなりますが……しょせんは聞きかじった知識。専門家だなんて、とんでもないです」元々詩織の人柄に惹かれていた沙羅は、そのプロフェッショナルな姿勢を目の当たりにして、即決した。「このプロジェクト、出資するわ!」「で、でも、まだ具体的なお話も……」「必要ないわ!あなたの慧眼を信じてるもの!」沙羅は、詩織に全幅の信頼を寄せている。詩織は胸がいっぱいになった。「ありがとうございます。では、後日改めて、詳しいお話をさせてください」「ええ、もちろん。今週いっぱいは江ノ本市にいるから、いつでも声をかけて」詩織が沙羅とグラスを合わせようとした、その時だった。後ろから、棘のある粘っこい声が聞こえてきた。太一だ。「いやあ、世の中にはとんでもない恩知らずもいるもんだな。飼い主の手を噛むような真似をしてさ」「あなた、江崎さんにそんな言い方はやめて」志帆の声は、一見すると詩織をかばっているように聞こえる。だが、太一は名指ししたわけではなかった。彼女がそう言ったことで、その言葉が誰に向けられたものかが、確定してしまった。「俺は間違ったこと言ってねえだろ!まだエイジアの社員のくせに、社外の人間とつるんでプロジェクトを横流ししようとしてやがる。ひょっとしたら、前からインサイダー取引みたいな真似を
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