この状況は……まるでエイジアで働きはじめたころに戻ったみたいだ。でも、あのころはエイジアという後ろ盾があった。今よりは、ほんの少しだけましだった。ほんの少しだけ、だ。柊也の態度は、あのころから変わらない。いつも、見て見ぬふり。手も貸さない。口も出さない。助けてもくれない。それどころか、いつも水を差してきた。詩織が必死で積み上げたものを、ことごとく否定して……詩織は、生粋の負けず嫌いだ。彼に否定されればされるほど、結果を出して見返してやりたいと燃えた。だから、今の苦労なんてどうってことない。すべて、覚悟の上だ。今夜の会食には、見知った顔が多かった。群星グループの春日井。長利の斉藤社長。ワンスター社の向井。詩織が知っているだけでも、そうそうたる顔ぶれだ。この集まりの情報を詩織にもたらしたのは、城戸渉だった。この間の約束を破った、せめてもの埋め合わせのつもりなのだろう。もちろん、海千山千の経営者たちが、詩織の登場が城戸の差し金であることを見抜けないはずがない。「仁義にもとるじゃないか」と、渉はすでに責められていた。「私が、無理を言って城戸さんにお願いしたんです」詩織はそう言って、まず詫びの酒を三杯、一気に飲み干した。渉が、助け舟を出す。「まあまあ皆さん。江崎さんも、起業したてで大変なんですよ。ここはひとつ、力を貸してあげましょうや。儲け話は、みんなで乗ったほうが楽しいでしょう?」すると、群星グループの春日井が、にこやかな笑みのまま口を開いた。「起業が簡単なわけないだろう? 俺たちだって、そうやって一歩ずつ這い上がってきたんだ。俺たちだけじゃない。あのエイジアの賀来社長だってそうだ。寝る間も惜しんで働いていたって話は、江崎さんのほうがよく知ってるんじゃないのか?」春日井はそう言うと、椅子にふんぞり返り、嘲るような視線を詩織に向けた。「その程度の根性もないなら、とっとと賀来社長のとこに戻って、首席秘書にでも収まってな」以前、詩織に協力を断られたことへの、あからさまな腹いせだった。「春日井さんの貴重なご経験、ありがとうございます。私も、精一杯がんばります」詩織は、彼の嘲笑にも顔色ひとつ変えず、穏やかに微笑んでみせた。すると、別の男が口を挟む。「江崎さんがエイジアに戻りたくないなら、俺のとこに来て
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