気がついたら、大輔に腕を引かれ、私は端に押しやられていた。彼はその席を優子に譲ったのだ。ついさっきまでは、彼自身が私にそこへ座れと言ったはずなのに。今はまるで、優子に誤解されるのを恐れているみたいだった。「ここがお前の席だと思ってるのか?時生社長の隣に座れるのは、奥様だけだ!」そう言い放った大輔は、椅子を拭き取り、恭しく差し出した。「どうぞ、優子さん」大輔の卑屈な態度に吐き気すらした。けれど、時生の隣に座らずに済むなら、それはそれで悪くない。ただ、大輔がさっき私の前に置いた大きなグラスは、そのまま優子の席に残っていた。お酒がなみなみと注がれたまま。優子は唇の端を少し上げ、時生を見た。「時生、これ、あなたのお酒?どうしてこんなに多いの?」その声音には、どこかたしなめるような口調が混じっていた。「違います、優子さん」大輔が慌てて言った。「これはうちの昭乃の分です。さっき社長を粗末に扱った罰として、三杯飲めって命じたんです」周りの客たちも面白がって声を上げた。「そうそう!まだ一杯目が終わったばかりだ。二杯目はこれからだぞ!」優子はわざとらしく同情を浮かべ、私を見てから、時生に言った。「時生、こんなの……あまりよくないんじゃない?」時生は椅子に腰をかけたまま、無造作にグラスを指で回していた。「じゃあ、どうすればいい?」その一言で、私の運命は優子に委ねられてしまった。優子は困ったように目を泳がせた。「わ、わたしには分からないわ。お酒の席の作法なんて……」「簡単ですよ」大輔がすぐに口をはさみ、私を引き寄せて優子の前に突き出した。「昭乃にやらせればいいんです。ほら、この二杯目は社長と奥さまへ――末永くお幸せに!」私は時生を見つめた。彼は氷のように冷たい表情を浮かべ、恐ろしいほどだった。けれど、彼は何の反応も示さない。代わりに優子が、愛らしい笑みを時生に向けた。「やめておこう。昭乃さんを困らせたくないわ」「困るなんて!」大輔はなおも媚びて言った。「昭乃にとっては幸運ですよ。大スターの優子さんに会えて、時生社長と同じ卓を囲めるなんて!」時生の冷たい視線に貫かれながら、私は目を閉じ、お酒を一気に飲み干した。焼けつくような痛みが腹の奥で暴れ出す。持病のある胃が、火に焼かれるように苦しい。「
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