「いくら? 十倍払う。だからそのドレスを譲ってほしい」晴人は本気で大金を叩きつける気でいるようだった。メイク担当者が言う。「ドレスのお値段は一億二千円です。でも、お金の問題というより、持ち主の方が……」一億二千円? 十倍って、十二億円!?私は慌てて晴人を止めた。「やめようよ。店内にドレスはいくらでもあるんだし、人の好きなものを無理に取らなくても」「気に入ったんだろ?」晴人は真剣な目でこちらを見つめる。「君が好きなら、十二億円でも構わないよ」あまりの勢いに、私は苦笑しながら一語ずつ強調した。「わ、た、し、は、好、き、じゃ、な、い」ちょうどその時、メイク担当者の視線が入口へ向き、突然とびきり丁寧な声を出した。「時生様、優子さん!」私と晴人は同時に振り返る。優子と時生が前後して店に入ってきた。私たちを見つけた瞬間、二人とも明らかに一瞬固まった。特に時生は、複雑な目をして、しばらく私をじっと見つめていた。優子がふわりと笑って言う。「まあ、偶然ですね。昭乃さんも来てたんですね? こちら……彼氏さんですか?」私が答える前に、晴人がさっと私の腰を抱き寄せ、「ええ、そうですよ。よくお気づきですね、優子さん」と言い終えると、そのままわざとらしく甘えた声で私に問う。「ねえ、あのドレス買って今夜着ようか?」メイク担当者が困った顔で優子に言った。「優子さん、晴人様が十倍の値段でも買いたいとおっしゃってまして……その、どうされます?」優子の表情に一瞬、動揺の色が走る。晴人がそこまで私のために出すと思っていなかったのだろう。すぐに彼女は弱々しく時生を見上げた。「時生、昭乃さんが気に入ったなら、譲ってあげてもいいよ。私、何を着てもそんなに変わらないし」ずっと黙って成り行きを見ていた男が、ようやく口を開いた。「ダメだ」たった三文字で、圧倒的な男の威圧感が伝わってくる。そして支配者のような冷たい声でメイク担当者に命じた。「優子を試着室に連れていけ。時間を無駄にするな」「かしこまりました。こちらへどうぞ、優子さん」優子はメイク担当者の後ろについて歩き、試着室に入る直前、意味深な視線をこちらへ投げてきた。その口元の薄い笑みは、まるで私を嘲っているようだった。優子が奥へ消えると、時生はゆっくりと私た
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