こうするしかない。そうすれば私はようやく、時生の支配から完全に抜け出せる。たとえリスクが大きくても。もう、ほかに方法はない。澄江が言った。「わかったわ。今すぐ連絡してみるから、そのときはあなたから話してちょうだい」ほどなくして澄江は玄吾に電話をかけ、スマホを私に渡した。事情を簡単に説明すると、玄吾は少し迷ったあと、こう言った。「実は、新薬を人体に使用するには、倫理審査委員会の承認を受けたうえで、正式な臨床試験を行わなければなりません。私たちの研究はまだ動物実験に成功した段階で、治験の承認も得ていないんです。この状態でお母さんに投与することはできません」「わかりました。ありがとうございます」私はそれ以上、説得しようとはしなかった。自分のために誰かがリスクを負い、将来や名誉を犠牲にするようなことはさせられない。電話を切ると、澄江が尋ねた。「引き受けてくれたの?」私は玄吾の話をそのまま伝えた。澄江も物事の分別がつく人だった。「確かに、法や規則に反することはしてはいけないわね」私は彼女を安心させるように言った。「もうかなり遅いですし、先に休んでください。私ももう少し考えてみます。きっと何か方法はあるはずですから」そうして澄江は使用人に付き添われ、自分の部屋へ戻っていった。私は二人の子供の部屋をのぞいた。二人ともぐっすり眠っていた。幸せそうな寝顔だった。けれど私は、なかなか眠ることができなかった。深夜になって、紗奈から切羽詰まった様子で電話がかかってきた。彼女もまだ起きていて、ネット上の私への批判を少しでも覆そうと、ずっとネット工作の手配をしてくれていた。だが、どうやら優子の狂気を甘く見ていたらしい。「あの女、本当に最低!子供まで巻き込むなんて!」紗奈に急いでSNSを見るよう言われた。すると、ある人物が「園児の保護者」を名乗り、「幼稚園の前で昭乃が娘を迎えに来るのをよく見かける」と暴露していた。そのせいでコメント欄は再び炎上し、その保護者の投稿もものすごい勢いで拡散されていた。【ねえみんな、この子ってもしかして昭乃と時生さんの隠し子なんじゃない?】【絶対そうでしょ!じゃなきゃ優子が絶望して自殺しようとするわけないじゃん。あんなに優しい人なのに、あれだけひどい中傷を受けてるんだから!】
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