だが――このところ正修が見せてきたやり口を思い出すたび、背筋が寒くなる。もし武也が裏で手を回してくれなければ、今ごろ自分は会社の資金繰りに追い詰められ、どんな惨状になっていたか分からない。とはいえ、武也がどれだけ助けてくれても、九条家と真正面から敵対するところまでは、さすがに自分のために動くはずがない。もし自分が九条家や正修に手を出せば――真っ先に自分を止めに来るのは、むしろ武也のほうだろう。悔しくないわけがない。だが今の自分にとって最優先なのは、復讐でも対抗でもない。会社を立て直すこと。そして――奈穂を取り戻すこと。正修への対抗策なんて……考えるとしても、もっと後だ。「分かってるなら、さっさと動けばいいでしょう?」「秦さん、分からないことがあります」北斗は眉間に皺を寄せた。「秦さんは九条正修に気持ちがあるんじゃないのか?なのに、どうしてそこまで俺に彼を攻撃させたがる?」「あなたに説明する義務はないわ」「それは構わない。俺も興味はない。だが、本気で九条正修や九条家に喧嘩を売るとなれば、こっちは全部を賭けることになる。下手をすれば、最後は何もかも失う。……いや、それ以上の目に遭うかもしれない」北斗の声が、次第に冷たくなっていく。「秦さんはそれを想定してないのか?それとも気にしてないのか?俺に前線で戦わせて、自分は美味しいところだけ持っていくつもりだろう??」脳裏に、かつて信三に言われた言葉がよみがえる。――秦家は甘くない。やつらと組むということは、とても危険なことだ。今まさに、その通りだった。自分が正修と潰し合い、どちらが弱っても、秦家はその隙に利益をかすめ取るだけ。電話の向こうで、音凛はしばらく沈黙した。彼女自身、分かっている。北斗が正修に勝てるはずがないことくらい。だが、全力でぶつかれば、多少なりともダメージは与えられる。その隙に自分が動けばいい。北斗や伊集院グループがどうなろうと、知ったことではない。むしろ機会があれば、そのまま飲み込むつもりですらある。利益に限界などないのだから。……とはいえ。北斗も馬鹿ではない。今日の自分の催促が、露骨すぎた。見抜かれないはずがない。しばらく考えた末、音凛は淡々と口を開いた。「つまり、もう私と同盟を組む気はないってことなの?
Read more