偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ のすべてのチャプター: チャプター 381 - チャプター 390

444 チャプター

第381話

しかし、正修の姿を目にした瞬間、君江の笑顔はすぐに消え、きりっとした真面目な表情に戻った。二人の前まで歩み寄り、挨拶する。「奈穂ちゃん、九条社長、おはようございます」「おはようございます、須藤さん」正修は礼儀正しくうなずいた。実のところ、君江は今、正修にとても感謝している。奈穂と正修の仲直りに、ほんの少し手助けした――ただそれだけの理由で、ここ数日、彼は自分に三つもの大型プロジェクトを振ってくれたのだ。表向きは須藤グループへの案件だが、正修ははっきりとこう条件を付けた。――この三案件は、すべて君江が単独で責任者を務めること。そして他の人間が関わる場合は、必ず君江の許可を取ること。つまり、進が自分の二人の婚外子を無理やりねじ込む可能性は、完全に断たれた。君江にとっては、まさに思いがけない幸運だった。この三つを成功させれば、会社での発言力は確実に大きくなる。とはいえ――感謝は感謝。でも、正修が怖いのは、また別の話だった。彼の前に立つと、いまだにどうしても……少し背筋が寒くなる。君江は奈穂の隣に並び、ひとつ大きなあくびをした。「今朝ちょっと寝坊しちゃって。でも間に合ってよかった。まだ発表会、始まってないよね?」「まだよ」奈穂は君江の手を軽く握る。「行こう、一緒に入ろう」「うん!」今日の発表会で起こるかもしれない「何か」を思うと、君江はやけに胸が高鳴った。三人が会場入口に着くと、北斗のボディガードたちは奈穂の姿を見た途端、すぐに道を開けた。北斗から、あらかじめ指示が出ていたのだ。――奈穂が来たら、即座に中へ通せ。それに同行者も止めるな。正修が一緒に来る可能性が高いことも分かっている。そして、止めたところでどうにもならないことも。だったら――自分がどれほど愛情深い告白をするか、見せつけてやればいい。そして、かつて自分と奈穂が過ごしたあの五年間が、どれほど幸せだったかを、正修に思い知らせてやる。奈穂が会場に入った瞬間、北斗は彼女を見つけた。正修が隣にいることなど気にせず、北斗は迷いなく歩み寄る。「奈穂……」その言葉を口にした瞬間、全身にぞくりと悪寒が走った。その冷気の出所がどこか、北斗には痛いほど分かっている。だからこそ、必死に視線を横へ向けないようにした。「
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第382話

君江に平手打ちを二発、容赦なく食らわされたあの場面が、いまだに脳裏に焼き付いている。あのときは烈生に止められ、仕返しすることができなかった。だが――構わない。時間さえできれば、この女にはきっちり思い知らせてやる。自分に平手打ちを食らわせた代償を。北斗の凶悪な視線を真正面から受けても、君江はまったく怯まなかった。それどころか、皮肉っぽく笑った。その視線に奈穂も気づいた。奈穂はわずかに眉をひそめ、さりげなく一歩前に出て君江をかばうように立つ。そして冷たく言った。「私たちのことは伊集院社長にご心配いただかなくて結構です。もうすぐ発表会が始まりますし……」ふっと唇を上げる。「それより、ご自身の発表に集中されたほうがいいのでは?」あまりにも美しい笑顔だったせいか、北斗は一瞬見惚れてしまい、その笑みに込められた嘲りに気づかなかった。我に返ったときには、三人の姿はすでに自分の前から消えていた。それでも北斗は、その場に凍りついたように立ち尽くしたまま、頭の中では、さっきの奈穂の笑顔が何度も繰り返される。――彼女があんなふうに自分に微笑んだのは、いつ以来だろうか。突然、スマホの着信音が鳴った。画面を見ると、弁護士からだ。北斗はわずかに眉をひそめる。ここ数日、伊集院グループのある取引で法的トラブルが起きた。その処理を終えた弁護士は、休む間もなく海外へ飛び、北斗と水紀の離婚手続きを進めている。二人が婚姻届を出したのは海外だったからだ。……なのに、なぜ今電話が?水紀と結婚していた過去を思い出すだけで、気分が悪くなる。ちょうどそのとき、スタッフが重要な進行確認に来た。北斗は電話に出て、冷たく言い放つ。「重要な用件でないなら、発表会が終わってからにしてくれ」弁護士は少し迷ったあと、「いえ……特に急ぎではありません。では、発表会後に改めてご連絡します」と言った。北斗は即座に通話を切る。今はとにかく、発表会が最優先だ。彼は気づいていなかった。その頃――水紀は会場の隅に座っていた。視線はずっと北斗に釘付けだ。隙を見て近づこうとするが、隣の高代が腕をしっかり掴んで離さない。「おとなしく座ってなさい。北斗のところへ行かないで。マスコミにも見つからないように。この発表会に連れてきてほしいって頼んだとき、何を
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第383話

【ライバル会社が送り込んだ妨害工作員じゃないの?】さっきコメントを書き込んだ北斗の大学同窓生は、次々と叩かれ、不満が募った。反論しようとし、北斗の浮気の件を書き込もうとした瞬間――自分がすでにこの配信ルームからブロックされていることに気づく。コメントが送れない。伊集院グループは各ライブ配信に大勢の監視スタッフを配置していた。伊集院グループや北斗に不利な発言が出た瞬間、即ブラックリスト入り。その結果、コメントはほぼ北斗を称賛する声ばかりになっている。君江は奈穂の耳元で小声で言った。「ちょっと後悔してる……早く入りすぎた。今あいつ見てると、吐き気してくるんだけど」奈穂は苦笑する。……自分だって同じだ。もっと遅れて入ればよかった。そのとき。横から大きな手が伸びてきて、奈穂の手をそっと握った。振り向くと、正修と目が合う。胸の奥にあった不快感が、すっと溶けていった。二人は自然に微笑み合う。――だが。その光景は、ちょうど壇上の北斗の目に入っていた。北斗は突然言葉に詰まる。次に何を話すはずだったのか、頭が真っ白になる。会場に、不自然な沈黙が落ちた。幸い司会者が素早くフォローする。軽く場をつなぎ、最後に言った。「皆さま、新製品にも大変ご興味をお持ちかと思います。それでは伊集院社長、引き続き詳しいご説明をお願いいたします」最後の一言だけ、わざと声を強めた。そこでようやく北斗は我に返る。奈穂を深く一瞥し、無理やり気持ちを落ち着かせ、新製品の説明を続けた。ひと通り説明が終われば、通常なら次は数本の新製品プロモーションビデオを流すはずだった。だが――スクリーンは暗いまま。代わりに、会場に流れ出したのは、やけにロマンチックな音楽。北斗はまだ壇上に立っている。その甘ったるいメロディの中、彼の視線はずっと奈穂に向けられていた。君江は思わず身震いする。腕に立った鳥肌をこすりながら、小声でぼやく。「まさか自分が映画の『愛情深いヒーロー』とか思ってないよね?実際はただただキモいんだけど……」隣を見る。奈穂を見るつもりだったのに、目に入ったのは――正修の、底冷えするような陰鬱な表情。……余計にぞっとした。君江は確信している。今の正修、本気で北斗を殺しかねない目をしている。「皆さんもご存じか
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第384話

会場で、北斗は奈穂を見つめ、さらに続けた。「かつて、私は一時の迷いで過ちを犯し……一番愛していた女の子を失ってしまいました。彼女と別れてから、私は一瞬たりとも苦しまなかった日はありません。もし許されるなら……どうか、もう一度だけチャンスをほしい。過去のすべての過ちを、きちんと償わせてほしいんです」彼は深い愛情を込めて奈穂を見つめていたが、奈穂は彼を見る気すらなく、うつむいてスマホを見ていた。彼女の部下が、ちょうどメッセージを送ってきたのだ。すべて準備が整った、と。奈穂の口元がわずかに上がった。北斗よ、そんなに大勢の前で「愛情深い男」を演じたいの?新製品発表会まで利用して、自分を愛情深い男として演出して私を不快にさせて、ついでに新製品も売り込むなんて。じゃあ、あなたにとっておきの贈り物をしよう。ちゃんと受け取りなさい。北斗はまだ壇上に立って、偽りの情熱を熱弁していた。真相を知らない多くの観客は、彼の演技に感動していた。コメント欄も彼を称賛し続けていた。【もし私が彼女さんだったら、絶対にすぐに許すわ!】【元々イケメンなのに、こんなに情が深いなんて、もっとカッコよく見える!】【でも、前に過ちを犯したって言ってたけど、どんな過ちなの?】【そんなのどうでもいいわ、この顔と、この深い愛情に満ちた様子を見れば、どんな過ちでも許せる!】最後に北斗の視線が奈穂から正修へと移ると、その瞳に挑発の色が浮かんだ。「私と奈穂は五年も付き合っていた。二人の間には、かけがえのない思い出がたくさんある。本当に彼女を愛している。どんな瞬間も、心の中にいるのは彼女だけだ。彼女は、私にとって何より大切な存在なんです」北斗の口調には懐かしさがにじんでいた。「奈穂、君は……もう一度チャンスをくれ、俺のもとに戻ってきてくれないか?」彼の言葉が終わるやいなや。現場の多くのカメラが何か指令を受けたかのように、一斉に奈穂へと向けられた。配信画面に、彼女の息を呑むほど美しい顔が映し出される。コメント欄は一瞬静まり返り、一気に大騒ぎになった。【美しい!生きているうちにこんな美女を見られるなんて!】【これが伊集院社長が言う「ナホ」さんですか?】【わあ、すごく綺麗!伊集院社長とすごくお似合い!イケメンと美女、早く仲直りして!】【伊集
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第385話

北斗は密かに歯を食いしばった。怒りと嫉妬が胸の奥で渦巻き、今にも彼自身を飲み込んでしまいそうになる。これほど重要な場で、これほど多くの人の前で、あれだけ必死に、愛情深い言葉を語ったのに。ここまでやったのに、それでも――奈穂は、ほんの少しも情けをかけてくれないのか?たしかに自分は彼女を傷つけた。だが、五年間だ、五年も付き合っていたのだ。自分がこれほど彼女を愛していることを、これほど情けないほど頭を下げているのに、少しは汲んでくれてもいいじゃないか。許してくれてもいいじゃないか。それなのに――奈穂は自分の目の前で、正修の手をあんなふうに強く握るなんて。そして正修が奈穂を見つめ、口元に優しい笑みを浮かべているのが見えた。……もう耐えられない。北斗は再びマイクを取る。「奈穂。俺は自分の手で一本の動画を編集した。そこには、俺たちの思い出がすべて詰まっている。あの頃、どれだけ幸せだったか、それを思い出してほしい。そして、ここにいる皆さんにも、配信をご覧の皆さんにも、私たちの幸せな時間を一緒に見届けてほしいんです」そう言って、スクリーンを見るよう合図した。かつて奈穂と撮った写真や映像。丁寧に切り貼りして作った、思い出のムービー。彼女に過去の幸せを思い出させるために。そして――正修にも見せつけるために。自分たちにも、確かに幸せな時間があったのだと。だが映像が流れるはずの大きなスクリーンは――突然、完全に真っ黒になった。北斗は眉をひそめ、横にいたスタッフに事情を尋ねようとしたが、スタッフもまた呆然とした表情を浮かべていた。その時、会場に突然、はっきりとした録音音声が響き渡った。「水紀、もうやめろ。ここは俺の家だぞ」一同が呆然とする中。北斗の脳内だけが、ぶわっと真っ白に弾けた。――俺の声だ。しかも、「水紀」と呼んでいる。いつの録音だ?……このあと、何を言う?「どうして?あの女に見つかるのが怖いの?」水紀の声。「兄さん、何を怖がってるの?私たちこそ、ちゃんと籍を入れた合法的な夫婦じゃない」「君を元夫のDVから助けるためじゃなければ、俺は君と籍を入れることはなかった。奈穂は俺と五年も一緒にいてくれたんだぞ。彼女は俺の恋人で、これから俺の本当の妻になるんだ。君の問題がす
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第386話

「じゃあ、なんであの時あの子に告白したの?しかも五年も付き合って、あちこちで仲の良さを見せつけて。友達だってみんな、彼女があんたの本命だって知ってたじゃない……」「小悪魔め。この五年間、俺が君をどれだけ大事にしてきたと思ってる?ん?奈穂にバレないように、君との関係を隠すのに、どれだけ苦労したか分かってるのか?」「なにそれ。あのバカ女、私たちのことなんてこれっぽっちも気づいてなかったよ?お兄さん、もう彼女と別れてよ。こんなコソコソした関係、もう嫌なの。彼女は正式な恋人でしょ?じゃあ私は何?もしバレたら、みっともないじゃん……」水紀がそう言い終えても、北斗は何も答えなかった。そして――あの夜。そこまで聞いたところで、奈穂はもう耐えられなくなり、録音を止めた。けれど、それだけで十分だった。北斗のあの偽りだらけの「愛情深さ」を、完全に崩すには。ステージに立つ北斗の顔色は、すでに真っ青だった。まさか自分と水紀の会話が録音されているなんて。しかもそれが――会社の新製品発表会の壇上で、奈穂に「愛している」と告白している、その瞬間に流されるなんて。全身の血の気が引くような感覚に襲われる。奈穂が今どんな顔をしているのか、見たかった。だが――怖くて、目を向けられなかった。その頃、会場は一瞬で大混乱に陥った。報道陣は我先にと電話をかけ、「特ダネだ!」「トップニュースにしろ!」と怒鳴り散らす。招待客たちは皆、軽蔑の眼差しを北斗へ向けている。ライブ配信のコメント欄も、信じられない勢いで流れていった。【え、なに今の!?録音!?伊集院の声だよね!?聞き間違いじゃないよね!?】【本人確定でしょ。女の方は知らないけど、ミズキって呼ばれてた】【誰って、浮気相手でしょ。そりゃ水戸さんが別れるわけだよ。浮気じゃん!】【そうよ、録音で聞いた彼らの会話からすると、あの時まだ水戸と伊集院は恋人同士だったのに、伊集院がこのミズキって女とここで密会してたなんて、最低すぎる】【いや、こっそり入籍までしてたらしいよ】【は? それでよく「心にはナホしかいない」「ナホが最も大切な人だ」とか言えたな?】【キモすぎる。さっきまで褒めてた自分殴りたい】【クズ男と浮気相手、まとめて消えてくれ】【どのツラ下げて復縁迫ってんの?さっさと消え
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第387話

その場にいた幹部の一人が、ついに我慢できなくなった。壇上へ駆け上がり、北斗の腕を乱暴に掴み、歯を食いしばる。「社長、一体どういうことなんですか!今すぐちゃんと説明してください!」北斗の顔から血の気がすっと引いていた。口を開き、弁解しようとした、その瞬間――数人の記者がマイクやカメラを手に、一斉に押し寄せてきた。興奮で我を忘れたように、マイクがほとんど北斗の顔に突きつけられる。「伊集院社長、この録音はどういう内容なんですか?説明をお願いします!」「録音の男性はご本人ですよね?女性は誰ですか?伊集院社長の浮気相手ですか?」「先ほど「ナホが一番大切な女性だ」とおっしゃっていましたが、録音の発言とは完全に矛盾しています。どう説明されますか?」「お二人が破局した理由は、伊集院社長の浮気が原因ですか?」「今回の発表会は、「一途な男」というイメージ作りで新商品の売上を伸ばすための演出だったのでは?」質問はどれも容赦なく鋭い。北斗の頭は真っ白になり、まったく言葉が出てこない。隣の幹部が肘で小突き、彼はようやく我に返った。唇を震わせながら、必死に自分を落ち着かせる。そして――言い訳を始めた。「この録音は……」最初に浮かんだのは、「偽物だ、合成だ」と言い張ることだった。だが、裏でこれを流した人間がいる以上、本物だと証明する方法などいくらでもあるはずだ。しかも頭の奥に、これらの会話の記憶が、確かに残っている。正直に言えば――水紀と関係を持っている時、こういう甘い言葉は、普段から口にしていた。今さら「捏造だ」などと言えば、証拠を突きつけられてさらに致命傷になるだけだ。必死に頭を働かせている間にも、記者たちは次々と質問を浴びせ続ける。やがて彼は、ようやく絞り出すような声で言った。「説明はできます……あの女とは……俺は、ただ彼女を助けただけです」――隅で水紀は北斗を見つめ、頭が真っ白になった。まさか、こんな事態になるなんて。自分が浮気相手だという自覚はある。それでも、記者たちに「浮気相手」と連呼されるたび、胸が締めつけられる。だが、何よりも辛かったのは――北斗の、今の呼び方。録音の中では、あんなに甘く「水紀」と呼んでいたのに。今はただの――「あの女」。それだけ。笑ってしまうほど、残酷だった。自分
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第388話

しかし――さきほどの録音を聞いた後では、北斗の言い訳を信じる者など、もはや誰一人いなかった。会場はざわめきに包まれ、配信コメントも相変わらず罵倒の嵐だ。【いやいや、言ってること無茶苦茶でしょ。DV元夫から助けるために入籍?誰がそんなの信じるの?】【助けるのに水戸さんを騙す必要ある?関係持つ必要ある?それに録音聞いたら分かるじゃん。あの五年間ずっと浮気してたんでしょ】【浮気は浮気だろ。言い訳がダサすぎて笑える】【しかもイチャつきながら水戸さんの悪口言ってたよね……胸糞悪すぎ。水戸さんほんと可哀想……】記者たちも容赦なく、次から次へと質問が飛び交う。北斗の額から流れ出た冷や汗は、シャツをびっしょりと濡らしていた。そのとき――彼は突然、まっすぐ奈穂を見た。「奈穂……俺の言ってることは本当だ!俺はただ同情して助けただけなんだ!最初から最後まで、心にいるのは君だけだ!だからこそ、こんな大事な場所で告白したんだ!それに……もう彼女とは離婚協議書も交わしてる。今は何の関係もない!」その視線に気づいた記者たちが、また一斉に奈穂のほうへ押し寄せる。取材しようと殺到した――だがどこから現れたのか、黒服のボディガードたちが壁のように立ちはだかり、誰一人、彼女に近づけない。それでも強引に突破しようとした数人がいた。その瞬間、奈穂の隣に座っていた正修が、ただ冷たく彼らを一瞥しただけだった。すると彼らはたちまち、頭から足先まで凍りつくような寒気を感じた。足が地面に釘付けになったように、動けなくなった。「水戸さんは、すでに伊集院北斗とは別れています」正修が冷たく口を開いた。「今日、無理に過去の話を蒸し返したのは伊集院北斗です。嘘ばかり言っているのも彼です。彼が何をしたかは、彼自身が最もよく知っています。何か質問があるなら、彼に直接聞いてください。無関係な人間を巻き込まないでください」言い終えた瞬間――配信コメント欄は悲鳴のように一気に沸騰した。【きゃあああああ、かっこいい!!】【さっき伊集院をイケメンって褒めた自分がバカみたい。このイケメンと比べたら伊集院は低レベルすぎる!】【さっきの人の言うことは本当だったんだね。二人は今、婚約者同士なんだ】【婚約者を守ってるのカッコよすぎる】【伊集院、言い訳はやめてよ
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第389話

「奈穂、君……」北斗の胸が引き裂かれそうに痛んだ。自分の目の前で。これだけ大勢の前で。奈穂は、迷いなく――正修の隣に立った。完全に彼の味方として。「五年の思い出がどうとか、もう口にしないで。聞いてるだけで吐き気がする」彼女の声に滲む嫌悪は、隠しようもなかった。だが、北斗の頭はすでに混乱状態だった。思考より先に、言い訳が口をついて出る。「俺が悪かったのは認める!でももう彼女とは離婚協議書を交わしたんだ!最初は本当に助けるつもりだったんだ!誘惑したのはあいつの方で……俺は一時の気の迷いで……本気で君を裏切るつもりなんて――」その必死な弁解を聞きながら、奈穂は、ただ――馬鹿らしくてたまらなかった。確かに水紀は浮気相手だ。でもこういう裏切りが、女一人のせいで起きるとでも?目移りして浮気したくせに、責任だけ他人に押し付ける。一番最低なのは――どう考えても北斗本人だ。もう、北斗と話す気力すらなかった。そのとき、会場の隅から、突然耳をつんざくような、甲高い叫び声が響いた。「北斗!このクズ男!」あまりにも鋭く、悲痛な声。全員の視線が一斉にそちらへ集中した。叫んだのは――水紀だった。この時、高代はすでに水紀に押し倒され、激しく咳き込んでいる。水紀は高代が我に返って自分を捕まえるのを恐れ、席を離れると、北斗の方へ大股で駆け出した。「な、なんで君がここに……!?」水紀の姿を見た瞬間、北斗の瞳孔が大きく揺れ、冷や汗がさらに増した。なぜ水紀が発表会現場にいる?この女は、事態をさらに悪化させるだけだ!水紀は北斗の前に駆け寄り、目を真っ赤にして叫んだ。「北斗、何回私に全部の罪を押し付ければ気が済むの!?あんたそれでも男!?私が誘惑した?は?違うでしょ?水戸奈穂に隠れて浮気するスリルを楽しんでたのはあんたでしょ!?二股かけていい気になってたのはあんたでしょ!?なんで全部私のせいにするのよ!」メディアは水紀の言葉を聞いた瞬間、彼女が録音の女性であり、北斗が口にする「ミズキ」だと即座に悟った。彼らは再び口々に水紀に質問を浴びせた。「なぜ二人の関係を壊したんですか?」「恋人がいると知っていて関係を続けたんですか?不道徳だと思いませんか?」「いつから関係が始まったんですか?詳しく教えてくださ
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第390話

「水紀!」北斗は心底憎くてたまらず、もう一度水紀を平手打ちにしたかったが、幸いそばにいた幹部が必死に彼を押さえた。もし今ここで北斗が皆の前で女性に手を上げでもしたら、さらに事態が悪くなる!一方。奈穂の隣で、君江はその様子を面白そうに眺めていた。思わず小声で囁く。「ねえ、見て。悪人同士で噛みつき合ってるみたい。滑稽すぎない?」奈穂はくすっと笑った。正直、水紀がここに来るとは思っていなかった。でも、君江の言う通りだ。互いに責任を押し付け合い、醜く罵り合う二人。その姿は、哀れを通り越して、もはや滑稽だった。そのとき、奈穂の反対側に座っていた正修は、水紀を見た瞬間、無言でスマホを取り出し、メッセージを送った。【例の人物を連れてこい】記者たちは水紀が口を開いたのを見て、すかさず群がる。「つまり本当に浮気関係だったんですね?どうやって水戸さんを騙していたんですか?」「入籍は事実ですか?離婚協議書も?」「水戸さんと伊集院社長が別れたのなら、なぜお二人は付き合わなかったのですか?伊集院社長が後悔して水戸さんとよりを戻そうとしていたから?それとも最初からあなたを妻にするつもりはなかったから?」「浮気相手だったことを反省していますか?水戸さんに謝罪する気は?」――謝罪。その言葉を聞いた瞬間、水紀の怒りが再び爆発した。は?奈穂に謝る?なんで自分が?水紀は荒い息を数回吐くと、急に顔を上げ、大声で言い放った。「なんで私が彼女に謝らなきゃいけないのよ!?さっき聞いたでしょ!?私と北斗は入籍してるの!合法の夫婦よ!浮気相手なんかじゃない!浮気相手って言うなら、それは――」「ふざけないで!」水紀が言い終わる前に、君江は立ち上がり、怒りに震えながら水紀の言葉を遮った。水紀は言い終えていなかったが、この厚かましい女が逆ギレしようとしているのは明らかだった。親友をそんな風に言うなんて、君江は許せなかった。君江は鋭い口調で言った。「いい加減にしなさいよ、頭大丈夫?最初に告白したのは北斗。奈穂ちゃんは一度断ってる。それでも半年以上口説き続けて、やっと付き合い始めたの。学校中が知ってた話よ。正式に恋人になったことも、みんな知ってた。北斗だって、周りに『奈穂が彼女だ』って公言してた」奈穂は激昂する君江を見て、慌て
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