All Chapters of 忘れられた初恋、君を絶対に手放さない: Chapter 21 - Chapter 30

65 Chapters

第18話

結花の手術は10時間以上にも及んだ。 途中予期せぬ事態もあったものの、手術は無事成功。手術室の扉が開き、結花の顔を見た時は本当に嬉しかった。とはいえ、油断は出来ない。暫くは集中治療室での経過観察になり、面会も感染症の懸念から遠慮して欲しいと言われてしまった。 窓越しから見る結花の姿は沢山の管に繋がれて痛々しいが、顔色は随分良いように見える。 息をしている幸せ、生きてくれる喜びを感じながら彼女の回復を祈った。 「高瀬さん」 「あ…」 振り返ると奏が疲れた表情をしながら立っていた。 「結花を助けてくれて本当にありがとうございました」 深々と頭を下げて礼を言うが「当然の事をしたまでです」と遠慮がちに言われた。 そのまま面談室へ通され、手術中に何があったのか、どんな処置をしたのか詳しく教えてもらったが、正直頭にあまり入ってこなかった。 病院の一室とはいえ、隔離された部屋に奏と二人きりなんて……別に邪な気持ちがある訳じゃない。この場でそんなもの持つ方がおかしい。今は先生と患者の関係。奏だって、先生としてしっかり対応してくれている。 頭ではそうは思っていても、心臓の音が聞こえてしまわないか心配になるほど煩い。 「――以上ですが、何かご質問は?」 「大丈夫です……」 質問もなにも、こちらは任せるしかない。 「では、ここからは医者ではなく『藤原奏』として個人の話をしようか」 「え?ここで?」 「ここで話さなきゃ君は逃げそうだからね」 ジッと見つめてくる奏の瞳は全く笑っていない。チラッと扉の方に視線を送るが、鍵はかかっていないように見える。 どうしよう……逃げようと思えば逃げれるけど…… 「悪いけど、も|う
last updateLast Updated : 2025-10-07
Read more

第19話

柚は目の前で項垂れる奏を目にして、段々と怒りが込み上げてきた。(散々私を貶した癖に、自分が被害者面?ふざんけんじゃないわよ) 奏と別れてから私は一人で生きて行くために強くなった。苦労や挫折も知った。今の私があるのは全て結花がいたからで、この人《奏》の存在があったからじゃない。 ギリッっと唇を噛みしめ、鋭い目付きで奏を見た。「今まで騙していたことは謝罪します。でも、生きて行くのには仕方なかったこと」 「僕を頼れば良かっただろ!?」 感情が爆発したかのように声を荒げた。「僕は君の何だったんだ!?君が死んだと聞いて、僕は……!!」 悲し気な瞳を向けながらグッと拳を握りしめている。こんな奏を目にしても、怒りの感情が強くて胸が痛まない。自分がこんなに薄情な人間だとは知らなかった。「死んだことにしてまで僕から離れたかったのか?」 「……」 「ずっとだ……ずっと、七年間君を探していた!自分の子供がいたことすら知らなかった。知らされなかった……!それがどんなに残酷なことか分かるか!?」 「……」 「なんか言えよ!!」 怒りで自分を抑えられらない奏は、吐き出すように怒鳴りつけてくるが、柚は黙って奏の目をしっかりと見据えている。 シーンと静まり返り、重苦しい空気が立ち込める。「……貴方だって……」 「は?」 消えりそうな声が奏の耳に届いた。「貴方だって私の気持ちを分かっていないじゃない!」 「何を――」 「卒業式の日、私との関係は遊びだと言ったじゃない!その時の私の気持ちなんて分からないでしょう!?」 「ッ!!」 奏は『卒業式の日』という単語を聞き、ハッとした。 確かにあの時そんな事を言った様な気がする。けど、それはまだ学生でガキだった自分が周りに揶揄われるのが嫌で、口からでまかせを言ったに過ぎない
last updateLast Updated : 2025-10-08
Read more

第20話

 朝倉遥乃は生きていた……率直に嬉しい。ずっと探していたんだ。嬉しいに決まっている。だが、それと同時に彼女は僕の事を酷く憎んでいるという事実も判明した。 彼女が最後に向けた瞳には憎みと恨みが込められていた。(違う……違うんだ!!) 本当は君を愛していたんだ!今更言い訳にもならないだろうが、これだけは分かって欲しかった…… 言葉で言ったところで伝わらないのは分かっている。特に、裏切られたと思っている男の言葉なんて聞く耳も持たないだろう……「どうしろって言うんだ!」 手元にあったコップを手に取ると、壁目掛けて投げつけた。ガシャンッという音共に破片が飛び散る。「──クソ!」 そのままテーブルに突っ伏し、自分の手を眺めた。 奏は病院を出る前に結花の元へ寄っていた。まだ目の覚めていない結花の頭を優しく撫でて一言「頑張れ」と伝えた。 まさか、結花が自分の子供だった事は本当に驚いた。だが、何故だろう…すんなり受け入れられた自分もいる。 それと同時に生まれる時に立ち会えなかった無念や、彼女が大変だった時に傍にいれなかった悔しが怒りとなって込み上げてくる。 彼女がここまでやってこれたのも、神谷煌の存在が大きかった……それは、この間二人の仲を見て確信している。 彼女は彼の事をどう思っているのだろうか……尊敬する兄?頼りになる上司?それとも…… 色んなことがいっぺんに頭を巡り、目眩がする。 そっと床に転がるスマホを手に取る。自然と柚の名前に手が動く。 声が聞きたい。少しでもいい……そう思うが、拒絶されるのが怖くて最後のボタンが押せない。「──はっ」 自分がこんなに臆病で弱い人間だと知らなかった。と自嘲しながら天を仰いだ。 ***「おはよう」 煌は会社に出勤してきた柚に声をかけた。「おはよう」 いつもの様に笑顔で
last updateLast Updated : 2025-10-09
Read more

第21話

「もう!遅くなっちゃったじゃない!」 「すまん!まさか、急にトラブルに巻き込まれるとは思わなかった!」 言い合いしながら病院に向かって急ぐ二人。時計は面会の時間を刻々と狭めている。 終業終わり直前に煌の部署でトラブルが起きた。何とか解決出来はいいのの、面会の時間は待ってくれない。 髪を乱し、スーツのジャケットを脱ぎ捨て病院へ急ぎ、着いたのは面会時間ギリギリの15分前。 息を整え、額に浮かぶ汗を拭いながら結花の元へ。 沢山の管に繋がれた結花を目の当たりにした煌は、込み上げてくるものがあったが、自分よりも母親である柚の方が余っ程辛いだろうと、柚の肩を抱き寄せた。 大きな手に抱かれ、安心するように身を委ねていると「高瀬さん」と声をかけられた。「かな──……藤原先生」 奏の目が見れず、そっと視線を外す。「結花ちゃんは今薬で眠っている所です。状態も安定していますし、週明けには集中治療室を出れると思いますよ」 笑顔で説明してくれるが、柚の方はどこかよそよそしい。 柚の誤算としては、彼は娘の担当医という事。いくらこちらが拒絶しようと、定期的に顔は合わさなければならない。 あれだけ啖呵を切ってしまった手前、どんな顔をすればいいのかも分からない。  二人の間に妙な空気が漂っているのをいち早く感じ取った煌は、柚を抱き寄せ奏に笑顔をむけた。「そうですか。主治医の先生から言われたら安心だな」 「え、えぇ」 話を振られた柚はぎこちないながらに返事を返した。 ピッタリと寄り添う二人を奏は表情を崩さず黙って見ている。だが、手元を見れば握っている拳が微かに震えているのに気が付き、煌の口角が吊り上がる。「さあ、もう面会時間も終わるし帰るか。今日も家に来るだろ?」 わざわざここで言うことないのに、わざと奏に聞こえるように問いかけてくる。 牽制か、それとも戒めか…… どちらにせよ奏としては面白くない。しかし、病院という場で言い合いは避けたいのだろ
last updateLast Updated : 2025-10-10
Read more

第22話

「あいつと何かあったのか?」 「え!?」 病院を出た柚は、宣言通り煌の家を訪れていた。 もっとも、その場しのぎだと思っていたのは柚だけで、病院を出たところで腕を掴まれ、あれよあれよとタクシーに押し込められて今に至る訳だが…… 「随分とよそよそしい感じがしたからな」 コンビニで買って来た弁当を食べ終え一息ついていると、ワイングラスを手に煌が問いかけてきた。 「……別に何もないわよ」 グラスを受け取りながら応えると「よいしょ」と隣に座って来た。手際よくワインを開けると、綺麗な赤色のワインがグラスに注がれる。 「お前らの事に俺が口出すべきじゃないとは思ってるが、そんな眉間に皺を寄せてちゃ心配にもなるだろ?」 「……」 「柚は一人で抱え込む節があるから余計心配なんだ」 優しく諭しながらワインを一気に呷っている。 「それとも、自分で抱えなきゃならない程、俺は頼りないか?」 空になったグラスを置き、真剣な眼差しで見つめてくる。急に部屋の空気が変った気がして、柚に緊張が走る。 「なあ、教えてくれ。俺には何が足りない?」 距離を詰められ、体勢を崩した柚はドサッとソファーに倒れ込んだ。体を起こそうとするが、煌が覆い被さるように上に乗って来て逃げることも出来ない。 「ちょ、飲みすぎ……」 「ああ、そうかもな。それなら何があっても酒のせいに出来るしな」 笑顔を引き攣らせ茶化すように言うが、煌の瞳は獲物を捕らえる狼のように光ってる。こんな煌は知らない。と流石の柚にも焦りの色が出てくる。 いつもの妹を守る優しいお兄ちゃんの雰囲気は一切ない。初めて感じる煌の男としての姿を目の当たりにしてドキドキと鼓動が早くなる。 それ
last updateLast Updated : 2025-10-13
Read more

第23話

次の日、激しいインターホンの音で起こされた。 「なんだなんだ!?誰だ、こんな朝早くから!」 煌は苛立ちながら玄関へと急いだ。 柚も寝ぼけ眼の頭で時計を見れば、まだ早朝と呼べる時間帯。こんな時間にやって来るのは──…… 「あぁ、柚もいたんだ」 「おはよう、桜」 思った通り、煌の妹の桜だ。 慣れたようにリビングに入ってくると、上着を脱ぎ捨て、持っていたカバンを床に無造作に置くと、ソファにドカッと腰掛けた。 「お前なぁ~、来る前には連絡入れって何度も言ってるだろ!?」 頭を掻きながらリビングに戻って来た煌は、呑気に座っている桜に文句を言うが、しれっとした顔をしている。 「別にいいじゃない。どうせ家にいるんだから」 「そんなの分からないだろ!?」 「へぇ?留守にする用があるの?早朝まで?」 「ッ!」 (ないんだ……) 柚は3人分のコーヒーを入れながら、口篭る煌にそっとツッコミ入れる。 「──で?何しに来たんだ?」 「実の妹が来たのに随分な態度ね。まあ、柚がいたなら仕方ないわね」 淹れたてのコーヒーを口に運びながらクスクスと楽しげな桜だが、煌の方は険しい顔のまま。 「特に用事は無いんだけどね。不精な兄がしっかり生きているかの確認」 「お前の世話になるほど、俺は不精じゃないぞ」 憎まれ口を叩く桜だが、煌は怒ることはしない。自分を心配して来てくれた者に感謝こそするが非難することはしない。 2人とも不器用な人間だから、素直な言葉が出てこないだけ。それを知っているから、こちらは黙って見ているだけ。 「それより、柚が週末にここにいるって珍しい
last updateLast Updated : 2025-10-14
Read more

第24話

煌の様子にいち早く気がついたのは桜だった。 他の男を気にする柚が気に入らない。けど、それを指摘する権利は自分は持っていない。とまあ、こんな所だろう。 (早く自分の気持ちを伝えればいいのに) 柚は鈍感な子だから、はっきり伝えないと気持ちは伝わらない。それは兄である煌も当然承知しているはず。それなのに、気持ちを伝えられないは、この関係が壊れるのを恐れての事だろうなと察しはつく。 (そんな事をしてるから、横から掻っ攫われるのよ) 昔から柚のことを想ってきた兄を見てきたからこそ、文句の一つも言いたくなる。 「柚はさあ、お兄ちゃんと藤原さんとどっちが大切なの?」 「え?」 唐突に聞かれ、思わず目を白黒させてしまった。煌が慌てて「桜!」と声をかけるが、その程度で止まるような彼女じゃない。 「別にいいじゃない。例えよ例え」 その顔は完全に揶揄っている。 「答えなくていいぞ柚」 「お兄ちゃんは黙ってて」 そんな2人の言い合う声が耳に入る。 どちらが大切か……問いかけられた言葉が渦のようになって頭を駆け巡り、走馬灯のように昔の記憶が流れ込んでくる。 「……煌……かな」 「え?」 ボソッと自然と出た言葉に柚自身も驚いて口を塞いだが、その言葉を煌は聞き逃さなかった。 「へぇ?お兄ちゃんか。良か
last updateLast Updated : 2025-10-15
Read more

第25話

 今日は結花が集中治療室を出て、個室へと移る日なので、朝から病院へやって来た。 ……あれから桜もは連絡を取っていない。わざわざ連絡をするような用事もないし、何を話していいのか分からない。「ママ」「結花!」 ベッドの上で笑顔を向けてくる結花に駆け寄り頭を撫でてやる。「よく頑張ったわね」 ようやく触れることが出来て、目頭が熱くなるのが分かる。結花は得意げな顔をしながら微笑んでいて、この笑顔が消えなくて本当に良かったと心の底から思った。 個室へ移ると、しばらく会えなかった時間を埋めるように結花との会話を楽しんだ。この時間だけは奏の事も忘れられた。 コンコン…… 暫くすると、部屋をノックする音が聞こえた。「高瀬さん。これからのことをお話しておきたいのですが、構いませんか?」 顔を出したのは主治医の奏。その顔を見て、一気に現実へと引き戻された。「ええ、大丈夫です」「それですか。では、こちらへ」「ちょっと行ってくるね」 結花に声を一言声をかけ、前を歩く奏の後を黙って付いて行く。昔と比べて大きく逞しくなった背中が柚の視界に入る。 そっと無意識に手が伸びる。「高瀬さん?」 ハッとして、伸びていた手を慌てて引いた。(私は何を……!) 誤魔化すように手を絡ませて顔を俯かせていると、怪訝な顔をした奏が覗き込んできた。「どうした?」「な、何でもない!」「そうか?……では、こちらへ」 促されるように部屋に入り、主治医としての奏の話に耳を傾けた。「懸念していた合併症などもなく、経過は順調です」「良かった……」「結花ちゃんの頑張りのおかげですよ。十分に褒めてあげてください」「ええ」 専門用語などは分からないが、奏が気を利かせて私にも分かり易く説明してくれた。とりあえず、今の所
last updateLast Updated : 2025-10-16
Read more

第26話

「ちょ、離して──!」 抱きしめられた柚は、奏の腕の中で必死にもがき、離れようとするが彼はそれを許してくれない。「今離したら君は僕の元から逃げてしまうだろ?」「何言ってるの!?」「僕はもう君を離したくない。……ねぇ、何をしたら許してくれる?何をしたら信じてくれる?」「ッ!!」 耳元で熱い息がかかる。甘く縋る声に頭が痺れる。「……大声出すわよ?」「出せばいい。それで君の気が済むならね」(──ッ!)「藤原先生?ちょっといいですか?」 本当に大声を出してやろうかと考えていた所で、奏を呼ぶ看護師の声が聞こえた。 その声に柚はホッと安堵するが、奏は返事を返さずその場を動こうとはしない。「呼んでるわよ」「……」「藤原先生ー!?」 その間にも看護師の呼ぶ声が聞こえる。「ねぇ、聞いてるの!?」 奏はギリッと歯を食いしばり、柚を抱きしめると乱暴に唇を重ねてきた。口の中をなぞるように舌を絡めてくる。執拗に貪るようなキスに息が苦しくなる。 鼻で息をすれば、甘い香りが脳を刺激して麻痺してくる。駄目だと分かっていてるのに、身体が奏を受け入れようとしてしまう。「先生?こちらですか?」「!!」 看護師の声でハッと正気に戻った。その足跡は徐々にこちらに向かってきている。その音は奏の耳にも届いているはずなのに、抱きしめている腕の力は緩まない。「ちょっと!やめ――」 逃れようとするが、成人男性の力に敵うはずもない。奏は、こちらの事などお構いなしに頬や首筋に口を付けていく。「ああ、先生こちらにいらしたんですか?……あ、すみません。面談中でした?」「いえ、大丈夫ですよ。もう終わりましたから」 間一髪の所で解放された。 火照った顔の私を隠すように前に立ち、平然とした顔で対応してく
last updateLast Updated : 2025-10-17
Read more

第27話

結花の前で気持ちを落ち着かせる為に、一息ついてからドアを開けた。笑顔の結花と目が合い、何事もなかったように柚も微笑み返した。 「ママ」 「なに?」 「先生と何かあった?」 「え!?」 ベッドの横にあった椅子に座るなり、険しい顔で問い詰められた。 「何言ってるの?何もないわよ」 「ウソ。ママは嘘つくの本当に下手ね」 誤魔化すように言うが、クスクスと笑いながら指摘されてしまい思わず言葉に詰まった。 この子は幼い頃から私の気持ちの変化に鋭い所があった。血の繋がった親子特有の勘とでもいうのだろうか。それにしても鋭過ぎる……と思いながら結花を見た。 「ママは先生の事好き?」 「なッ!」 「はははっ、私は先生の事好きだよ。格好いいし、優しいし。それに、ママの事を大事にしてくれそう」 「……」 残念ながらその考えは間違いだと言えなかった。 惨めに捨てられたなんて知ったらこの子はどう思うんだろう……自分を助けてくれた尊敬する医者が実は自分の父親で、間接的に自分も捨てられていたなんて知ったら…… ギュッと腕を握り、必死に言葉を探した。 「あ、でも煌君がヤキモチ妬いちゃうかな。ねぇ、ママはどっちが好き?」 「はぁ?」 何故ここで煌の名前が出てきたのか分からないが、要らない誤解を生んでいる事は分かった。 「あのねぇ、煌も先生もママより素敵な人がいるわよ。くだらない事言ってないで身体を休めなさい」 溜息を吐きながら、結花をベッドに寝かし布団をかける。 「ええ?」と不満そうにしながらも、大人しく布団に入って
last updateLast Updated : 2025-10-20
Read more
PREV
1234567
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status