藤原家は藤原グループとして知らぬ者はいないと言えるほどの名家だ。 奏の勤めている病院も藤原グールプの一つで、奏の父親も有名な外科医で、母親は会社をいくつも経営する敏腕社長だ。 そんな家庭に生まれた奏は、生まれた瞬間から親が決めたレールを歩き続けてきた。 親が決めた習い事をやり、親の決めた学校へ進学し、親の決めた職業へ就いた。 名家と呼ばれる家に生まれた者の運命だと思って受け入れていた。  遥乃に会うまでは──…… 「えぇ?奏くん家って全部親が決めてるの?進学や仕事も?」 「そうだね。生まれた時から僕の人生は決められてる。まあ、うちはこれが普通なんだと思ってる」 ある日の放課後、家に呼んだ時に進学の話になり、つい自分の生立ちを話してしまった。 遥乃は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに表情を戻し眉を下げた。「……辛くない?」 「え?」『可哀想』だの『金持ちは違う』とは言われてきたが、僕を心配する言葉をかけたのは遥乃が初めてだった。「あ、ごめんね!奏くんの人生を否定してる訳じゃないの!ただ、自分が本当にやりたい事を見つけた時、親の期待と自分の意思……どっちを取っても辛いだろうな……って」 自分のこと様に語りかける遥乃の言葉を黙って聞き入ってしまった。正直、そんなこと考えた事なかった。というより、本当にやりたい事なんてこれから先見つかる事があるのだろうか……「それに……」と言いかけて「なんでもない」と誤魔化した。「なに?」 「ううん。ごめん、気にしないで」 「そう言われると、余計気になるんだけど」 笑って誤魔化そうとした柚に詰め寄り、壁際まで追い詰めると覆い被さるように壁に手を置き柚を見下ろした。「ねぇ、教えてよ」 「ッ!」 困ったように視線を逸らすが、それすらも許さないと顔を固定され、
 Last Updated : 2025-10-23
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