「はい。餞別」 「これは……?」 別れ際、桜がメモ用紙を手渡してきた。そこには、国の名と住所のような文字。 「柚がいる国と住所」 桜の言葉に奏は目を見開いて驚いた。 「いいのか?」 「ええ。貸しにしといてあげる」 「ちゃっかりしてる」 「ふふ」 ふざけながら言う姿は、見合い相手というよりは悪友といった感じに見えた。こういう形で出会っていなければ、いい友達になれたかもしれないと思うと少しだけ残念に思った。 「これからどうするの?」 「まずは両親と話をする」 「それは骨が折れそうだわね」 「覚悟の上だ」 もう覚悟はできている。これ以上、あの人たちの従順な人形でいるのは辞める。 桜は奏の眼を見て「クスッ」と微笑んだ。そこには、つい先ほどまで死んだような目をしていた奏はもういない。 (いい表情になったわ) 本当は、このまま彼と結婚してもいいかな。とも思っていた。そうすれば、柚は兄である煌と一緒になれる。それは、兄の願いでもあり桜の願いでもあった。だが、それは私たち兄妹の願いであって柚の願いではない。 それに、ずっと苦労してきてきた親友の恋は応援したいという思いもある。 (あの子、頑なに認めてないけど) 未だに彼の事を忘れようと突き放している。頑固なところは今も昔も変わらない。このまま意地を張ったまま煌の元へ行くのか、それとも自分に素直になるのか…… この後の結末は分からない。私はレールから外れるけど、いつでも彼女らの分岐点にはなれる。 「柚に振られたら、私との結婚真剣に考えてくれる?」
最終更新日 : 2025-11-20 続きを読む