マルタの道は石畳の敷かれた細い路地。その両側を太陽の光を浴びて輝く蜂蜜色の建物が、どこまでも続いている。街全体が同じ石材で、同じ色調で統一されているのだ。圧倒的なまでの統一感と、歴史の重み。 だが統一感の中に、鮮やかな個性が宝石のように散りばめられていた。建物のファサードに取り付けられた、赤や青や緑の、木製のバルコニー。同じ形は一つとしてない。それぞれがそこに住む人々の暮らしを、物語っている。 街全体という一つの巨大なコンセプト。その中に、無数の小さな物語が息づいている。 私はデザイナーとして、町全体の調和にただただ心を奪われていた。◇ ヴァレッタの街は、どこまでも続く急な坂道でできていた。 石畳の道を帆波は楽しそうに歩いていたが、足取りが少しずつ重くなっていく。「ママ、だっこ……」 私の手を小さな力で、きゅっと引っぱる。私が「もう少しよ」と言い聞かせようとした時のこと。 一歩先を歩いていた湊さんが、立ち止まって振り返った。彼はにこりと笑うと、帆波の前に屈みこむ。「おいで、帆波ちゃん。パパの特等席が空いたよ」 彼は娘を抱き上げた。急に視界が高くなった帆波は、きゃっきゃと嬉しそうな声を上げる。 湊さんの腕の中からなら、街の景色がよく見えるのだろう。帆波はすぐに新しい発見をした。「パパ! あかい、まど!」 彼女が指差す先には、蜂蜜色の建物の壁から突き出た木製の出窓があった。窓は鮮やかな赤色に塗られている。「本当だ。きれいだね。あっちには、緑の窓もあるよ」「ほんとだー!」 私たちの横をカッポ、カッポと軽快な蹄の音を立てて、観光用の馬車が通り過ぎていった。「おうまさん!」 帆波が小さな手を振る。私はその二人の後ろを、少しだけ離れて歩いていた。 夫の広い背中と、その腕の中で揺れる小さな娘。蜂蜜色の壁に落ちる二つで一つの影。その光景が私の胸を満たした。 私たちは広場に面した、赤いパラソルの立つカフェで休憩する
Last Updated : 2025-12-30 Read more