歩実は、由奈宛てに誇示を込めたメッセージを何通も送った。だが、三十分が過ぎても返事はない。それでも、気分は悪くなかった。目的は、十分に果たせたのだから。そのとき、スマホが鳴った。画面に表示された名前を見て、歩実はわずかに眉をひそめる。陽子からだった。苛立ちを隠さず、通話に出る。「……急ぎの用件じゃないなら、連絡しないでって言ったはずでしょ?」「長門先生、あんた、とんでもないことをしてくれましたね!」電話口の陽子には、もはや以前のへりくだった態度はなかった。そこにあるのは、露骨な怒りと恨みだけだ。「私が池上家の人間に手を出しても、滝沢社長は気にしないって言いましたよね?でも今、私は加藤家に見捨てられて、挙げ句の果てに、夫から離婚を切り出されてるんですよ!あの時あんたの話を信じた私が、どうかしてた!」歩実の表情が、一瞬で強張った。「……それ、どういう意味なの?」胸騒ぎを覚え、声がわずかに低くなる。「今、どこに?」「どこって、そんなの決まってるでしょ!実は昨日、滝沢社長に捕まったんです。もう、逃げ回る生活はうんざりですよ!あんたみたいな妄想に囚われて、自己陶酔してる人に関わった私が不運でした。二度と連絡してこないで」そう言い捨てると、一方的に電話を切った。歩実は、しばらくその場に立ち尽くしたまま動けなかった。視線が、何かを捉えた瞬間――顔色が真っ青になる。病室のドアが、静かに開いた。祐一が無言で中に入ってくる。その眼差しは冷え切り、陰りを帯びていた。「……祐一?」歩実は必死に動揺を押し殺し、ぎこちない笑みを浮かべる。「どうして来たの?」祐一は答えず、彼女の手元に隠されたスマホへ視線を落とした。「誰からの電話だ」淡々とした声が、逆に怖い。歩実は俯いて笑う。「ただの友達よ。入院したって聞いて、心配してくれただけ」そして顔を上げ、縋るように言葉を重ねた。「ねえ祐一、しばらく健斗に会ってなくて……すごく会いたいの。退院したら、少し一緒に過ごしたいわ」――健斗は、彼女に残された最後の切り札だ。祐一が健斗をどれほど大切にしているのか、彼女は知っている。たとえ自分に対して怒りがあっても、いずれは収まるはずだ。かつて、あれほど愛してくれたのだから。祐一はベッドサイドの花束に目をやり、無造作に花弁に触れた。「…
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