「それもそうだよね。私もあんな美人に生まれたら、今ごろはアイドルと付き合ってるかもしれないよね」看護師たちは冗談を交えながら話し、廊下を通り過ぎていく若い女性には、まったく気づいていなかった。女性はどこか上の空のまま病室の前まで来た。中では、兄と母親が父のベッド脇に付き添っている。だが、二人とも彼女の存在に気づく様子はない。居場所を失ったように、彼女は壁にもたれかかり、スマホのアルバムを開く。そこに並んでいるのは、ほとんどが倫也が医科大学で講義をしているときの写真だった。――必死に勉強して医科大学に入ったのは、全部この人に近づくためだったのに。ふと顔を上げると、壁に貼られている当直医の写真と経歴紹介が目に入る。彼女はすぐにその中から、由奈の写真を見つけた。きちんとした証明写真にすぎないのに、そこに映っている由奈の顔は肌が白く、目鼻立ちも際立っている。凛とした気品がありながら、清楚さの奥にどこか艶も感じさせる顔立ちだった。何かを思いついたように、彼女はスマホで由奈の写真を撮影し、そのまま文章を添えてネットに投稿した。翌日。倫也が担当している患者、中村吾郎(なかむら ごろう)の手術は、朝一番に組まれていた。倫也と裕人は病室で主治医と治療方針について話しており、本来であれば由奈を執刀医にする予定だった。だが、その話を聞いた患者の娘、中村詩音(なかむら しおん)が、真っ先に声を上げた。「私は反対です」彼女の母、中村多江(なかむら たえ)は驚いて娘を見る。「詩音、いきなりどうしたの?」詩音は唇を噛み、視線を落としたまま小さく言った。「ネットで……みんな言ってるの。あの女医……まともな医者じゃないって。だって、あんなに若くてきれいな執刀医なんて、どこの病院にもいないじゃない。どうせコネで入ったんでしょう」多江自身も、なぜ娘がそこまで言うのか分からなかった。だが、由奈があまりにも若いのは事実だ。若い執刀医――実績云々以前に、経験不足だったらどうしようという不安が、どうしても頭をよぎる。主治医は困ったような表情で言った。「それは誤解です。池上先生は、うちの病院に来る前、海都市ではすでに科のリーダーを務めていました。確かに彼女は若いのですが、手術の経験は十分にあります」「でも、お母さん……お父さんの命を賭けるわけにはいかない
더 보기