由奈は祐一の手元を見つめたまま、すぐには動かなかった。千代は胸の奥に込み上げた怒りをどうにか飲み込み、息を整えてから息子に問いかける。「祐一はどう思うの?」祐一は無言でおかずを口に運び、静かに言った。「池上家には育ててもらった恩がある。ここで止めたら、彼女が薄情だって言われるだけだ」千代は眉をひそめる。「じゃあんた自身は?由奈がいなくてもいいの?」祐一の視線がゆっくりと由奈に落ちる。「俺も一緒に行く」その言葉に、由奈は目を見開いた。「何を言ってるの?」千代の顔色がさっと変わる。「その体でまだ無理をする気?これ以上振り回されてどうするのよ!」祐一は肩をすくめた。「今すぐどうこうなる病気じゃない。ずっと病院にいるのも退屈だし、気分転換だと思えばいい」あまりに軽い口調に、千代の顔はみるみる青ざめる。鋭い視線が由奈に突き刺さった。由奈はそれを受け流し、淡々と言う。「私は付き添ってほしいなんて頼んでない」「ああ、そうだな」祐一の声は低く、静かだった。「俺が勝手に行くだけだ。何かあっても、君のせいにはしない」「祐一!」千代の声が裏返る。目に涙が滲んでいた。自分の息子が、想いを返してもくれない女のために母親と対立する。腹が立たないはずがない。「俺の体が大事か、それとも母さんの反対が大事か?」祐一の一言に、千代は言葉を失った。彼はゆっくりと続ける。「ずっと入院してるほうが回復にいいとは限らない。それに、治らない病気でもないんだろ?」千代はしばらく立ち尽くし、やがて深く息を吐いた。「私が許しても意味はないわよ。お父さんに話してちょうだい」「ああ、ちゃんと話すよ」千代はバッグの持ち手を強く握りしめ、由奈を一瞥する。「もし祐一に何かあったら、私は絶対にあんたを許さないから」由奈は何も答えなかった。重い足音とともに千代は部屋を出ていき、ドアが強く閉まる。しばらく経っても、怒りがまだ空気に残っていた。由奈は祐一を見つめる。「お母さんを怒らせる必要はなかったでしょ。あの人はあなたを心配してるだけ。それに、その体で江川市に行って何ができるの?」背を向けようとした瞬間、祐一の手が彼女の腕を掴んだ。「池上家のことには、俺にも責任がある。行かなきゃいけないんだ」数秒、由奈は黙り込む。やがてそっと手を引き抜い
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