บททั้งหมดของ 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る: บทที่ 361 - บทที่ 370

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第361話

「別に認めてないよ。祐一さんが可哀想すぎるからそう言っただけ」奈々美は由奈を頭の先から足元までゆっくりと見回し、鼻で笑った。「祐一さんがまだ入院中だというのに、こんな派手な格好して次の相手を探してるなんて……あなたってほんと抜け目がないね」「私が離婚すると決める前から、あなたは早く別れてって言ってたよね?お望み通り、離婚を進めようとしたら、抜け目がないって?」由奈は肩をすくめて、ふっと笑う。「まあ、どうでもいいわ。言いたいことがあるなら、今のうちに言っておいてね。今日を過ぎたら、もうそんな機会もないでしょうから」「何だって……?」言い返そうとした奈々美の視線が、不意に人混みの奥で止まった。そこにいたのは由莉奈だった。中道家の令嬢のはずなのに、まるで人目を避けるように身を縮めている。情けない、と奈々美は舌打ちする。彼女は由奈の肩を乱暴に押しのけ、そのまま由莉奈のほうへと歩いていった。「由莉奈さん、今日はあなたのためのパーティーなんでしょう?招待客を制限してないとはいえ、あんな女まで紛れ込ませて、ただ飯を食べさせるなんてどういうつもりです?」声は抑えていたが、会場は一瞬で静まり返った。周囲の視線が一斉に由莉奈へと集まる。「え、あの人が中道家の令嬢?」「嘘でしょ。恭子さんに全然似てないし、雰囲気もなんか違うよね」ざわめきに包まれ、由莉奈の顔はみるみる青くなる。パーティーが始まるのを待ち、由奈を人前で恥をかかせ、そのあと自分が助けに入る。そうして皆に見直してもらうという計画だったのに。――それなのに、奈々美が全部台無しにした。由莉奈は黙っていると、自分は無視されたと奈々美は勘違いし、人混みに割り込み、由莉奈の腕をつかんで引きずり出した。「ねえ、聞いてます?どうして無視するんですか?」由莉奈の顔色はますます悪くなる。思わず由奈へ視線を向けた。だが由奈は、グラスの赤ワインを静かに揺らし、助け舟を出す素振りはなかった。仕方なく、由莉奈は唇を噛み、奈々美の手を振り払う。「ち……違うんです」奈々美はその様子を見て、思わず笑った。「中道家の令嬢が、どうしてあの女の顔色をうかがうわけ?まさか脅されてるとか?」「滝沢さん、彼女は僕の妹ではありません。そこまで気を遣う必要はありませんよ」低く落ち着いた声が響いた。
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第362話

奈々美は一歩よろめいて後ずさった。顔から血の気が引き、真っ白になっている。先ほどまで由奈に執拗に絡んでいた姿は、誰もが見ていたため、彼女をかばおうとする者は一人もいなかった。由奈はそっと智宏の袖を引いた。「もういいです。今日お客さんはたくさんいらっしゃいますし、彼女のせいでパーティーの進行を遅らせては他の方には申し訳ないですよ」智宏は頷き、微笑む。「そうですね」そう言って秀明に向き直った。「お父さん、そろそろ始めましょう」秀明が頷くと、すぐに来客たちへ声をかける。人々は自然と散っていき、あちこちでグラスを交わしながら談笑を始めた。その流れから取り残された奈々美は、ただその場に立ち尽くしていた。顔なじみの令嬢たちでさえ、視線を避け、近寄ろうとしない。――こんな屈辱、生まれてから初めてだった。奈々美は思わず今までのことを振り返る。いつから、物事が思い通りにいかなくなったのだろう。由奈を追い詰めようとした時からだろうか、それとも、由奈が反撃し始めた時からだろうか……考えても答えが得られず、奈々美は唇を噛み締め、そのまま会場をあとにした。一方その頃、由奈と智宏はワルツを踊っていた。奈々美が去ったことに気づく者は、ほとんどいない。「さすが僕の妹、ワルツもなかなかですね」智宏が楽しそうに笑う。由奈は彼を見上げた。「もしかして、私はダンス下手だと思ってました?」「まさか。僕の妹は誰よりも優秀ですよ、他の男に渡すのが寂しいくらいです」そう言いながら、智宏は倫也へちらりと視線を送る。曲が変われば、パートナーを交代する時間だ。智宏は軽く由奈の手を離し、倫也へ引き渡そうとした。だがその瞬間、仮面をつけた男が間に割って入り、由奈をさらうように引き寄せた。不意を突かれた倫也は一瞬動きを止め、そのまま男のパートナーを受け止める。二人とも思わず由奈たちのほうを見た。その時、曲が始まり、仕方なく由奈は手を男の肩に置いた。踊っていく中、彼女は男を見上げる。仮面に隠されて顔はほとんど見えない。それでも、体格も、瞳も、輪郭も――祐一に驚くほど似ている。けれど、漂う香りだけが違った。彼が使うはずのない香水だ。視線が合った瞬間、男は何も言わず、淡々と目をそらす。そのまま自然にステップを導き、音楽に合わせて踊り続けた。
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第363話

突然の停電だった。辺りは一瞬で闇に包まれ、由奈はその場から動けなくなる。ドレスにはポケットがなかったため、スマホも手元にない。さっきまで倫也が隣にいることを思い出し、彼女は声をあげた。「白石先生……?」すぐ近くで物音がし、倫也がスマホのライトをつけた。「ブレーカーが落ちたみたいです。ここで待っててください。外を見てきます」「分かりました、お願いします」由奈は手探りでソファに腰を下ろす。やがて目が暗闇に慣れ、庭のほうから差し込むわずかな灯りが、ぼんやりと室内を照らし出した。そのとき、不意に背後から気配を感じる。「白石先生……?」由奈は声をかけたが、返事がない。立ち上がろうとした瞬間、背後から強い力で引き寄せられた。そして、唇が容赦無く奪われる。頭が真っ白になった。抵抗しようとするが、男の力は強く、息を奪うようなキスが続く。この強引さ。この圧倒的な独占欲。――由奈は嫌なほどよく知っていた。「祐一――」その名を口にした瞬間、男の動きがわずかに止まる。だが、返事はない。由奈は手を伸ばし、相手の仮面を外そうとする。しかしすぐに腕を取られ、再び胸元に閉じ込められた。耳元に熱い息がかかり、低く、掠れた声が響く。「そんなに俺に会いたかったのか?」やはり、彼だ。由奈は力いっぱい彼を押しのけた。ちょうどそのとき、廊下のほうから声が響く。「妹は中に?」「はい、さっきリビングまで連れていきました」智宏と倫也の声だ。次の瞬間、リビングの灯りがぱっと点いた。ドアが開き、智宏が入ってくる。彼の視界に映ったのは、ひとり立ち尽くしている由奈の姿だけだった。由奈は振り返る。だが背後には、もう誰の気配もない。「大丈夫ですか?」どこか放心した様子の由奈に、智宏が歩み寄って顔をのぞき込む。すると、唇まわりのメイクが少し崩れていることに気づいた。由奈はとっさに視線を逸らす。「平気です……ちょっと驚いただけです。それより、停電の原因は分かりましたか?」倫也が答えた。「誰かがブレーカーを落としたみたいです。幸い、大事には至りませんでしたが」――ブレーカーを落とした。由奈は目を伏せる。まさか……祐一が?「あなたのために用意したパーティーだったのに、こんなことになってしまって、本当にすまない」智
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第364話

智宏はじっと由莉奈を見下ろし、その眼差しには疑念が濃く滲んでいる。通報しようとスマホの通話ボタンに指をかけたその瞬間、由莉奈は慌ててベッドから転げ落ち、床に膝をついたまま彼の足元へ這い寄る。「お願いします、通報しないでください!今の話、本当なんです、あれが毒蛇だなんて知りませんでした!普通の蛇だと思ってて……!」秀明は目をぎゅっと閉じ、やがて静かに問いかける。「……なぜ、そんなことをした?」「わ、私は……」由莉奈は泣きじゃくりながら言葉を継ぐ。「みなさんに見捨てられたくなかったんです。元に家に戻されるのが嫌で……蛇で由奈さんを驚かせて、それで私が助けるふりをすれば、きっと中道家に置いてもらえるって……でも、あれは毒蛇だなんて本当に知らなかったんです。箱も怖くて開けてません。私だって蛇は苦手ですから……」それでも智宏の表情は動かない。「そんな話、信じると思いますか?」追い詰められ、由莉奈は言葉を失う。そのとき、倫也が静かに口を開いた。「彼女は嘘はついていないでしょう」智宏が眉を寄せる。「なぜそう言えるのですか?」「もし自分で毒蛇を用意していたのなら、わざわざ自分が噛まれるような状況は作らないはずです」倫也は淡々と、理詰めで続けた。「毒蛇だと分かった瞬間、会場は混乱に陥っていました。でも彼女は……」倫也は床に崩れ落ちている由莉奈を一瞥する。「自分が持ち込んだ蛇だと気づいていない様子で、ただ騒ぎを見ているだけでした。結果として、自分が噛まれてしまった。そこまで愚かな計算をするとは考えにくい」それは由莉奈への皮肉も含んだ言い方だったが、当の本人はそれどころではなく、必死に頷く。「そうなんです!本当に何も知らなかったんです!」その様子を見つめていた由奈が、静かに問いかけた。「その蛇は、誰からもらったんですか?」由莉奈は唇を噛み、視線をさまよわせる。「……長門さんからです」「長門歩実ですか?」「はい、あの人です!」由奈は小さく笑った。「では、この前の交通事故も……彼女に唆されたんですか?」その一言で、由莉奈の顔色がさっと変わる。沈黙が、何より雄弁な答えだった。秀明は愕然とした表情で彼女を見る。「まさか……あの交通事故まで君が関わっていたのか?由莉奈さん、それは未遂でも殺人だぞ!」「ごめんなさい…
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第365話

真由美は、娘の不安に気づいていた。表情を少しだけ和らげ、奈々美の手の甲にそっと自分の手を重ねる。「でも、悪いことばかりじゃないわ。あの人は、今でもあなたのお義姉なんでしょう?祐一さんと離婚していないなら、今のうちに関係を良くしておけば――」「またそれ?」奈々美は手を振り払った。さすがに我慢の限界だった。「無理に決まってるでしょ?今までうまくいかなかったのに、中道家のお嬢様になった途端、頭を下げて機嫌を取れっていうの?」真由美は言葉に詰まる。「奈々美、私はあなたのためを思って――」「どうだか。自分のためでしょ!」奈々美は立ち上がり、朝食も取らずにそのまま二階へ向かった。残された真由美も、箸を乱暴に置く。苛立ちで胸がいっぱいだった。一方その頃。歩実は、由莉奈が拘留されたというニュースを見て、ようやく事態を悟った。由莉奈のことだから、どうせ自分のことまで吐いたに違いない。もう江川市にはいられない。そう判断した彼女は、すぐにアンデル教授へ電話をかけ、海外研修の枠を申請した。そのときアンデル教授は、恭介と茶を飲みながら雑談していた。電話の内容を聞き、意外そうに眉をひそめる。「あなたの実力なら、その枠は必要ないはずですが。むしろ私は、いずれ私の仕事を任せたいと思っているんです」歩実は一瞬、言葉を失った。目の奥に光が走る。「……私が、教授の後任ですか?」「ええ、気が進みませんか?」「いえ……」歩実は拳をぎゅっと握る。目の前にあるのは、ずっと望んできた名声と地位。ここで逃げるのか?すべてを捨てるのか?――そんなこと、できるはずがない。現実的に考えれば、自分にはまだ守りがある。アンデル教授が自分の味方であり、由莉奈にも確かな証拠はない。警察も簡単には動けないはずだ。歩実はゆっくりと息を整え、はっきりと言った。「お受けします」……同じ頃。由奈のもとにも、恭介からメッセージが届いていた。案の定、由莉奈が捕まった途端、歩実は逃げる準備を始めたらしい。――やっぱり。あの人は、上にのぼる機会を絶対に手放さない。自分の読みは外れていなかった。由奈はコーヒーをテイクアウトし、店を出る。ホテルへ戻ろうと歩きながら、ふと顔を上げた。道路脇に停まっている一台の車が目に入る。見覚えのあるナンバー――祐一の車
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第366話

由奈は窓の外へ顔を向けた。「説明はいらない。あの人が誰だろうと、興味ないから」祐一は小さく「そうか」と答える。何か言いかけたそのとき、口の中に血のような味が広がった。彼はさっと顔を背け、ハンカチで口元を押さえて咳き込む。由奈は思わず眉を寄せた。だが、何も聞かない。祐一はすぐに落ち着きを取り戻し、何事もなかったように言った。「どこに泊まっているんだ?麗子に送らせよう」「……いい。すぐ近くだから」由奈は、彼が握りしめているハンカチを一瞬見つめ、視線をそらす。そしてドアを開けて車を降りた。振り返ると、祐一がまだこちらを見ていた。その顔には、相変わらず余裕のある穏やかな笑み。由奈は唇をきゅっと結び、そのまま歩き出した。麗子が車に戻ると、祐一が薬を数錠取り出すのを見て、すぐにミネラルウォーターを差し出した。彼は薬を飲み、水で流し込む。麗子は少し迷いながら口を開いた。「社長、奥様に本当のことをお伝えしなくていいんですか?」「必要ない」祐一は窓の外を見つめたまま言う。ガラスに映る顔は、血の気がまったくない。「たとえ俺が死んでも、彼女は気にしない。言ったところで、自分を苦しませるだけだ」その言葉を聞き、麗子は何も言えず、黙り込んだ。……由奈は心ここにあらずのままホテルへ戻る。ロビーに入ったところで、三郎と倫也の姿が目に入った。「池上先生!」三郎は由奈を見つけると、慌てて駆け寄ってきた。次の瞬間、その場にひざまずく。「ちょ、ちょっと……」由奈は驚いて駆け寄り、慌てて彼の体を起こした。「石川さん、何をしているんですか?」「お願いします……」三郎の目には涙がにじんでいる。「由莉奈は、俺のたったひとりの娘なんです。今までのことは全部、あの子をきちんと教育できなかった俺の責任です。欲をかいて、身の丈に合わないものを求めたのも……全部、俺が悪い」声を震わせながら、必死に言葉を続ける。「受け取った金は、一部を由莉奈が持ち出しましたが、残りの一億四千万には手をつけていません。すぐに滝沢社長へお返しします。足りない分も、どんな仕事でもして必ず返します。だからどうか……娘を訴えないでください。まだ二十歳なんです。あの子の人生は、これからなんです!」尊厳も体裁もかなぐり捨て、ただ娘のために頭を下げる父親。由奈の表情は複雑だっ
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第367話

由奈の笑みは、その瞬間ぴたりと止まった。わずかに顔をそらしながら、低く言う。「……どうして急に、あの人の話をするんですか」倫也は表情を崩さないまま、静かに続けた。「あの夜、仮面をつけていた人間は滝沢社長でしたね?」由奈の瞳に、一瞬だけ驚きが走る――まさか、倫也も気づいていたとは。由奈の表情を見て、倫也は自分の推測が当たったと悟ったが、何事もなかったかのように視線を外した。「ずいぶんと一途なんですね、あの人も」それだけ言うと、由奈の横を通り過ぎ、ホテルのロビーへ入っていった。由奈はその場に立ち尽くしたまま、彼の背中を見送る。エレベーターの扉が閉まるまで、ずっと。――いったい、どうしたんだろう。いつもの彼らしくない。胸の奥に、説明のつかない違和感だけが残った。……翌日、倫也は用事があると言って江川市へ戻ってしまった。あまりにも急な出発で、由奈は少し拍子抜けしたが、それ以上深くは聞かなかった。その後、由奈は海都市にもう二日ほど滞在し、智宏たちと穏やかな時間を過ごした。今年の休暇は残り少ないため、そろそろ江川市へ戻ろうと決めた。出発前の朝、由奈は秀明と智宏とともに別荘で朝食をとっていた。食卓には温かな空気が流れている。秀明は由奈の皿に料理を取り分けながら言った。「あと数日で、私たちは栄東市へ戻る予定だ。君はどうする?一緒に帰るか、それとも江川市へ戻るのか?」由奈は少し考えてから答える。「先に江川市へ戻ります。休みが長くなりすぎましたし、先生からナノ治療プロジェクトも任されているので、そろそろ顔を出さないと」秀明は無理に引き留めることはせず、穏やかにうなずいた。「向上心があるのはいいことだ。ただ、無理はするな。困ったことがあれば、いつでも智宏に頼りなさい。あいつは暇だからな」「お父さん、それはひどくないですか?」智宏が不満そうに口を挟む。「妹が見つかった途端、僕が何もしていないみたいな言い方をして」秀明はちらりと息子を見た。「妹を探すこと以外で、君が真面目に働いたことがあったか?会社を任せようとしても嫌がるし、まさか妹に継がせるつもりか?」智宏は肩をすくめ、由奈に視線を向ける。「妹が継ぎたいなら、僕は全然かまわないけど」由奈は箸を置き、慌てて首を振った。「無理です。手術ならできますけど、会社経営なんて
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第368話

和恵は、ゆっくりと目を閉じた。孫の命がかかっている。今、何を最優先にすべきか――そんなことは、誰に言われるまでもなく分かっていた。しばらくのあいだ、彼女は何も口にしなかった。だがその沈黙こそが、すでに答えだった。……翌日。智宏は由奈を空港まで送っていった。車は駐車場に停まり、駿介がトランクから荷物を降ろしてくれる。智宏も車を降り、由奈のそばへ歩み寄った。「本当に、江川市まで人をつけなくていいんですか?」由奈は思わず苦笑する。「大丈夫ですよ。お兄さんったら心配性ですね」智宏は眉間にしわを寄せたままだ。「それは心配しますよ、長門さんがまだ江川市にいるんでしょう?」由奈は軽く笑ってみせる。「由莉奈さんが拘束されたことは、もう彼女も知っているはずです。しばらくは私に手出ししてこないと思います」智宏はうなずいた。「向こうに着いたら、必ず連絡してください。もし一人で解決できないことがあれば、川口さんを頼るように」その名前を聞いた瞬間、由奈ははっとする。「あ……いけない。川口さんの奥さまの誕生日パーティーに招待されていたのに、すっかり忘れていました」智宏は安心させるように微笑んだ。「大丈夫ですよ。あなたが僕たちと一緒にいることは、向こうも承知しています。お祝いは、僕のほうで用意しておきます」由奈の表情がぱっと明るくなる。「ありがとうございます。お兄さんも、気をつけて帰ってくださいね」別れを告げ、車が遠ざかっていくのを見送る。由奈はスーツケースを押し、出発ロビーへ向かおうと歩き出した。――そのときだった。突然、黒服の男たちが現れ、彼女の行く手をふさいだ。由奈は思わず足を止めた。男たちの背後から、麗子がゆっくりと現れる。「奥様。旦那様がお呼びです。一度お戻りください」彼女は「社長」ではなく、「旦那様」と言った。由奈は眉をひそめる。「……将平さんが、ですか?」「はい」由奈は首を横に振る。「休暇は終わりました。私は江川市へ戻ります。滝沢家のことには、もう関係ありません」そのまま通り過ぎようとするが、麗子が一歩前に出て道をふさぐ。由奈は困惑して彼女を見る。「申し訳ありません。旦那様から、必ずお連れするよう命じられています」そう言うと、麗子は声を少し落とした。「……社長の命を救うためだと思ってください
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第369話

由奈と麗子が病室の前まで来ると、ちょうど扉が開き、千代が中から出てきたところだった。麗子が軽く頭を下げ、挨拶する。千代の視線がゆっくりと由奈へ向けられる。「祐一のことは、もう聞いているわね」その声は淡々としていたが、どこか疲れがにじんでいる。「あんたが何を思っていようと構わない。ただ……少しでいいから、あの子のそばにいてあげてちょうだい」由奈が答える間もなく、千代はバッグを手にその場を離れた。麗子もボディーガードにいくつか指示を出すと、静かに去っていく。廊下に残された由奈は、しばらく扉を見つめたまま動けなかった。やがて小さく息を吸い込み、意を決してドアを押し開ける。応接スペースから、一人の男性が姿を現した。悠也だ。由奈の姿を目にした瞬間、彼は目を見開く。「い……池上先生?」由奈は以前、彼と何度か顔を合わせたことはあるが、特別親しいわけではない。悠也は児童心理カウンセラーで、祐一の数少ない友人の一人だと聞いている。由奈は軽くうなずいた。「斉藤先生、お久しぶりです」悠也は一瞬、言葉を失った。以前見かけた彼女は、どこか遠慮がちで、祐一や義理の両親の前ではとりわけ控えめだった。正直に言えば――きれいではあるが、印象の薄い人。それが彼女に対する第一印象だった。しかも祐一が、そういうタイプの女性を好まないことも知っている。だが今、目の前に立つ彼女は違っていた。物静かなのは変わらない。それでも、揺るがない芯のようなものが感じられる。悠也は気を取り直し、笑みを浮かべた。「お久しぶりです。江川市で働いていると聞きました。今日は……祐一のお見舞いですか?」「将平さんに呼ばれて来ました」悠也は一瞬きょとんとする。――将平さん?夫の父親を、なぜ名前で呼ぶのだろう。悠也はしばらく呆然と立ち尽くしたが、由奈は気に留める様子もなく、そのまま部屋の中へと足を踏み入れた。……祐一はベッドの背にもたれ、本をめくっていた。足音に気づき、顔を上げる。そして由奈を見た瞬間、数秒だけ動きが止まった。「……両親が君を呼んだんだろう」彼は静かに本を閉じる。「無理に応じなくてもよかったのに」由奈は一歩近づく。「どうせあなたの意思だったでしょ?」祐一の指先が、わずかに止まる。しばらくして、かすかに笑った。「君の中で
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第370話

祐一のことを「祐一兄ちゃん」と呼ぶということは、彼女がこの前祐一の話に出てきた、千代の姪なのだろう。由奈は、その存在を以前千代から聞いたことがある。確か、名前は松本紬(まつもと つむぎ)。だが、実際に会うのはこれが初めてだった。祐一の視線が、紬に握られている由奈の手へと向けられる。軽く咳払いをすると、やや厳しい口調で言った。「紬、いい加減にしろ」紬はすぐに由奈の後ろへ隠れる。「助けて、お義姉ちゃん。祐一兄ちゃん、怖いんだもん」由奈は困ったように微笑んだ。「えっと……せっかく松本さんが来てくれたんですし、祐一とゆっくりお話ししたらどうですか?」「それもいいけど」紬は首をかしげる。「お義姉ちゃん、どこか行くの?私も一緒に行く!」「わ、私は……ちょっとお手洗いに」「お手洗いなら、部屋の中にあるよ?」由奈が答えに詰まり、視線を逸らす。すると紬は、何かを察したように目を輝かせた。「あ……私がいるから照れてるんだ?もう夫婦なんだから、恥ずかしがらなくていいのに」「紬」祐一が眉をひそめる。紬は肩をすくめた。「はーい、もう言いませーん」その隙に、由奈は寝室を出た。廊下に出ると、少し離れた場所でボディーガードたちがこちらを監視しているのが分かる。逃げるのは難しいだろう。荷物も財布も、すべて彼らの管理下にある。由奈は洗面室へ向かい、スマホを取り出した。智宏の番号を表示させる。だが、発信ボタンに触れかけた指が止まった。実の兄と両親に再会はできた。けれど、心の距離が縮まったとは、まだ言いきれない。――自分のために、両家を敵対させるべきなのだろうか。深く息を吐き、結局メッセージを送ることにした。【飛行機に乗りました】送信したあと、今度は病院の上司に電話をかけた。やむを得ない事情があって、しばらく戻れないと伝える。「池上先生、君は川口さんの紹介で、白石先生の教え子でもあるけど、赴任したばかりで長期休暇となると……周りへの印象はよくないよ」その言葉の意味は明らかだった。コネで入ったと思われている以上、少し目立った行動でも噂の的になる。由奈は目を伏せた。「本当に申し訳ありません。できるだけ早く戻ります」「分かった……院長と相談してみるよ」「ありがとうございます」通話を終え、由奈は洗面室を出た。「お義
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