時任寛人(ときとう ひろと)と伊東結月(いとう ゆづき)は容坂市で一番お似合いの二人である。二人は生まれる前から婚約していて、生まれた時からひとときも離れることはなかった。結月は、二人はこのままずっと一緒にいられると思っていた。しかし、それは寛人が釣りをしている時に湖に落ちてしまい、漁村出身である樋口澪(ひぐち みお)に助けられるまでのことだった。寛人の父親、時任哲也(ときとう てつや)は名誉のために、澪やその家族全員を時任家で働かせることにした。また、寛人にこんなふうに言いつけた。「結月と結婚したいなら、恩返しができるまで、樋口澪をそばに残すんだ!」結月と結婚するため、寛人は嫌でもそれに応じるしかなかった。そして、恩返しができるまで、彼女が不幸だと感じた時にはいつでも助けに駆けつけると澪に約束した。それからの三年、澪は常に自分は不幸だと思っていた。初めての不幸は結月の誕生日の日のことだった。自分はこんな盛大な誕生日会を開いたことがないと言ったから、澪に誕生日会を譲ってやるように、寛人は結月に頼んだのだ。結月は婚約解消を言い出したが、寛人は打ち上げ数が一万も超える花火で彼女の誕生日を祝った。そして、全ては結月と結婚できるようにするためだと、結月に片膝で跪いて言った。二回目の不幸は、寛人と結月が一緒に結婚用の家を買うのを見に行った時のことだった。その時澪が自分はこんな豪華な家を見たことがないと言ったから、寛人はその家を澪にあげた。同じ日に、寛人はもっと大きくて、価格の高い家を結月に買ってあげた。そして、もう少し待って欲しいと結月に伝えた。結月はずっと寛人を待ってあげていた。しかしその後、寛人は二人が結婚するための家、車、結婚後飼おうとしていた犬までも全部澪に渡してしまったのだった。そしてこのようなことを繰り返し、九十九回目まで来た。そして寛人がやっと澪への恩返しを終わらせたのだと思っていた。結月は婚姻届を出すために、ずっと楽しみに市役所で寛人を待っていた。しかし、一日も待った彼女を迎えたのは、寛人が一億円も使って、オークションで「一生一人だけを愛する」のを象徴するピンクダイヤモンドを澪に買ったという知らせだった。その瞬間、何度も抑えられてきた失望感が波のように押し寄せてきた。そろそろ退場すべきなのかもしれない。
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