LOGIN時任寛人(ときとう ひろと)と伊東結月(いとう ゆづき)は幼馴染で、小さい頃から一緒に育ってきた。 二人が生まれる前から両家同士が婚約を決めたため、きっと結婚するだろうと思われていた。 しかしある日、漁村出身である樋口澪(ひぐち みお)が事故にあった寛人を救った。 その後、寛人は澪に恩返しをするという理由で、彼女のほうばかり構うようになり、結月を散々傷つけ続けたのだった。 それにがっかりした結月は寛人との婚約を解消して、京坂市に行き、萩原家の後継者である萩原颯真(はぎわら そうま)と結婚することにした。 結月がいなくなってはじめて、寛人は自分がどれほど結月を傷つけたかに気づく。 結月を取り戻すため、寛人は京坂市に行ったが、結月が自分ではない人と結婚して、幸せになるのを見届けることしかできなかった。
View More容坂の友人から寛人のことを聞いて、結月は少し驚いていた。まさかすべてが澪の罠で、彼女も最後は自分自身をはめることになり、こんなことになったとは思いもしなかった。みんなが嘆いた。【あーあ、運命のいたずらって本当に怖いな。樋口さえいなかったら、幼馴染の結月と颯真が結婚して、どれほど幸せになっただろうね】【もう言わないでよ。私はこれが一番いい結果だと思うよ。結月は萩原社長と結婚してから、すごく幸せになったでしょう。結月を悩ませるようなこともないし、萩原社長も誰かに偏ることなく結月しか愛してないわよ】【今の結月の唯一の悩みが、萩原社長が甘えん坊過ぎることなんでしょうね。聞いて。この前私がちょうど出張で京坂市に行くことになったから、結月に会いに行ったんだけどね。結月と一時間も話せてないのに、萩原社長が甘えてきて、結月がいないとご飯も喉を通らないから、結月に早く家に帰ってきてキスしてほしいって言ってたのよ】それを言われて、話題はすぐに颯真へと移った。赤ちゃんにミルクを飲ませて、部屋に戻ったその張本人の颯真は結月がスマホを見てニヤニヤするのを見て、思わず聞いた。「何笑ってるの?またイケメンユーチューバーを見てるのか?」彼はそう言い、呟いた。「何がそんなにいいんだよ。俺のほうがスタイルがいいのに」結月は吹き出した。「見てないよ。友達とおしゃべりしてたの」颯真は一瞥して、気にしないふりをして聞いた。「誰と?何の話をしてたの?」颯真に隠すつもりはないし、彼のことをからかいたかった結月はすぐ答えた。「あの時任寛人のことよ。彼は樋口を牢獄に送ってから、すべての感情を殺して、仕事だけに集中してて、凄腕のワンマン社長になったんだって」よく知っているその名前を聞いて、颯真の目線は少し恨めしくなった。颯真は結月と結婚できたから、もう寛人のことでヤキモチを焼かないはず。しかし、もし彼がずっと結月を大事にしていたら、颯真は結月と結婚できなかったかもしれない。そう思うたびに、颯真はこっそりとヤキモチを焼いていたのだ。しかし、彼は結月に小っちゃい男と思われたくないから、おおらかなふりをして「ふーん」と答えた。結月は眉を上げて、心の中ではカウントダウンをし始めた。やっぱり、五秒後、颯真は寄ってきた。「結月は最近そういう社長が好きなのか?実は俺も
結月は寛人たちがどうなっているかなど、全く知る由もなかった。颯真は家族が知らないうちに、こっそり尚子の家に行って、結月の部屋のドアをノックした。緊張で眠れていない結月はベッドの上で横になっていた。ドアをノックする音がすると、尚子が自分に何かを言い聞かせようとしていると思った。しかし、ドアを開けたら、外に立っていたのは颯真だった。彼は結月をじっと見つめた。愛情が彼の目から溢れ出るくらいだ。彼の眼差しがあまりにも情熱を伝えてくるので、結月は手を伸ばして、彼の目を覆った。「何でここに来たの?あと数時間後には新婦を迎えにここに来るはずでしょう?ちゃんと休んでよね」颯真は結月の手を取り、優しくキスした。「あまりにも結月に会いたかったから、眠れないんだよ」京坂市に来たばかりの結月なら、きっと颯真のことがチャラくて、ろくな奴じゃないと思っていただろう。しかし今、結月が颯真と目を合わせれば、心はただ甘く溶かされてしまう。「うん、私もだわ」結月は簡単に感情を表すような人間ではない。彼女はそう言い、顔がすぐに赤くなった。颯真は心に秘めた愛情を抑えきれず、結月を抱きしめ、何度もキスをした。結月も彼のキスに応えた。空が傾き始めた頃、颯真はようやく名残惜しそうに萩原家に帰っていった。そして、新婦を迎える行列と一緒に、彼の妻を迎えに行った。一方、招待状をもらった寛人の両親も京坂市にやって来た。寛人を結婚式会場に連れて行って、彼に結月が他の人と結婚するところを見せたいから、調べた住所に寛人に会いに行った。こうすれば、寛人もふざけるのをやめて、おとなしく家業を継ぐだろう。しかしドアを開けた瞬間、横たわっている息子を見て、薫は悲鳴を上げた。そして、すぐ急いで寛人を病院まで運んで行った。病院に行く途中、寛人は目を覚ました。唇が青白くなった彼はぼうっとして、車の窓越しに萩原家の結婚式の生放送を流しているスクリーン画面を見た。颯真が結月を抱きしめ愛情を抑えきれず、何秒ごとに結月にキスするのも、二人が指輪を交換して誓い合い、抱き合ってキスする様子も、寛人は全部見えた。お金があろうとなかろうと、物事が順調に進もうが不運にみまわれようが、病める時でも健やかな時でも、二人は一生お互いの手を放さないのだ。それは寛人が何度も練習して、結婚式で
それからの日々、寛人は生きる屍のように過ごした。彼は容坂に帰らず、ただ薫からもらった京坂にある家に引きこもって、毎日結月の写真を抱えて、何度も結月に謝り、自分の愛を訴えていた。澪は行くところがないという理由をつけて、ずっと寛人に付きまとっていたが、彼はそれに構う気力もなかったのだ。澪は奥歯を砕くほど歯を食いしばったが、成す術がなかった。結月と颯真が式を挙げる前夜、寛人は結月に会いに行ったが、会うことはできなかった。そして彼は家に帰ってすぐ結月の写真を抱えて涙を流した。これが最後のチャンスだと思い、澪はすべてをここに賭けた。彼女は寛人の酒に薬を入れただけでなく、結月が普段着そうな服を着て、寛人を抱いて、彼を許してあげると言った。自分が夢にも見ていた姿が目の前に現れたのを見て、寛人の思いは抑えきれなくなった。彼は澪を力強く抱きしめ、囁き続けた。「ごめん結月。俺はもう二度と結月を悲しませないよ。俺が澪を追い払ってやる、見えない所まで追い払ってやるからな。今後一生結月に優しくするから、もう結月を悲しませたりしない。結月、すごく会いたかったよ」澪は俯いて寛人を見つめた。その目は憎しみで満たされている。しばらくすると、澪は手を伸ばし、寛人の頭を撫でた。そして、結月の声を真似て、彼女は口を開いた。「大丈夫だからね、寛人。許してあげるわ。寛人のこと、愛してるよ」彼女はそう言い、寛人の唇にキスをした。しかし、澪は心の中でこう考えていた。寛人、伊東結月は一生あなたを許さないし、あなたは一生私から逃げられないよ、と。しかし、二人の唇が重なってすぐ、寛人はパッと澪を押しのけた。その両目を怒りで赤くさせた寛人は手を伸ばして、澪の首を絞めて言った。「俺が一生結月に恨まれるように、彼女に成りすまして誤魔化そうとするなんてな。お前は……お前は死んじまえよ!」局面がこんなに早く逆転するのに驚いた澪は寛人を見つめた。彼女は寛人がここぞという時に限って結月ではなく澪であると判別できる理由がわからなかった。澪の目には涙がたまった。彼女はもがきながらヒステリックに叫んだ。「全部あんたのせいだよ!あの女は寛人を捨てて、他の人と結婚するわよ!寛人が私に肩入れするもんだから、私は寛人に好かれたと思っちゃったの!彼女がもう寛人を捨てたんだから、私は自分のた
澪が寛人を見つけたとき、寛人は買ってきたものを萩原家の入り口にこっそり置いていた。全部置いて離れようとした寛人に、結月は中から出てきて、そこにあるものを全部持って帰って返品するように、彼を呼び止めた。寛人は無理して笑顔を見せながら言った。「大丈夫だよ結月、心配しないで。父さんが俺の口座を凍結したけど、俺にはまだ貯金があるから、心配しないで」結月は眉をひそめて、何かを言おうとした。しかしその時、澪が陰から駆けつけて来て、結月を指差して大きな声で罵り始めた。「やっぱりそうだよね。寛人のことが好きじゃなくなったのも、寛人のことをあきらめたのも、全部噓だったんだよね?わざと寛人の世界から姿を消したのも、また寛人から注意を引くためだったんでしょ?」結月は眉をひそめて、無表情で彼女を見た。しばらく会わなかった間に、澪は大分やつれていて、性格も悪くなっていた。何かがあればすぐに泣いて寛人に愛嬌を振りまき、寛人が甘やかしてくれるのを待って、自分の目的を達成させる澪とは違う人間になっていた。寛人は緊張して、結月の顔色を伺った。彼は恥ずかしく思った。寛人は低い声で彼女を叱った。「何でここに来た?俺を尾行したのか?早く帰れ!」寛人にこんなふうにされるのは初めてで、澪の目はすぐに涙で潤んだ。「寛人、一生私のことを守ってくれると言ったでしょう。なのにこの女がいなくなってから、寛人も彼女を追って京坂に来たわ。私一人で容坂にいるの、すごく寂しいよ。すごく怖いよ。寛人、本当に私を見捨てるの?」騒ぎになってるのが聞こえて、萩原家の年配者らも様子を見に外に出てきた。結月は一歩退いた。彼女はまるで前科をみんなに知られてしまったような気まずさを覚えた。颯真はそれを悟って、自ら結月の手を握り、慰めるように彼女に微笑んだ。そして萩原家の家族らと一緒に、目の前で起きている茶番劇をまじめに観賞し始めた。寛人からの返事をもらえず、澪はより大きな声で泣き始めた。結月が男の人と手を繋いでるのを見て、この人物が噂の政略結婚の相手だろうと、澪は思った。寛人と同じくらい優秀で、いや、実は寛人よりも優秀に見える颯真を見て、澪は悔しがった。彼女は振り返って、結月の前で跪いて、泣きわめいた。「伊東さん、お願いだから寛人を私に返してください。寛人がいないと私本当に死んで
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