Short
恩を返すために私を見捨てるのね

恩を返すために私を見捨てるのね

By:  アイスクリームCompleted
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
18Chapters
674views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

時任寛人(ときとう ひろと)と伊東結月(いとう ゆづき)は幼馴染で、小さい頃から一緒に育ってきた。 二人が生まれる前から両家同士が婚約を決めたため、きっと結婚するだろうと思われていた。 しかしある日、漁村出身である樋口澪(ひぐち みお)が事故にあった寛人を救った。 その後、寛人は澪に恩返しをするという理由で、彼女のほうばかり構うようになり、結月を散々傷つけ続けたのだった。 それにがっかりした結月は寛人との婚約を解消して、京坂市に行き、萩原家の後継者である萩原颯真(はぎわら そうま)と結婚することにした。 結月がいなくなってはじめて、寛人は自分がどれほど結月を傷つけたかに気づく。 結月を取り戻すため、寛人は京坂市に行ったが、結月が自分ではない人と結婚して、幸せになるのを見届けることしかできなかった。

View More

Chapter 1

第1話

時任寛人(ときとう ひろと)と伊東結月(いとう ゆづき)は容坂市で一番お似合いの二人である。

二人は生まれる前から婚約していて、生まれた時からひとときも離れることはなかった。結月は、二人はこのままずっと一緒にいられると思っていた。

しかし、それは寛人が釣りをしている時に湖に落ちてしまい、漁村出身である樋口澪(ひぐち みお)に助けられるまでのことだった。

寛人の父親、時任哲也(ときとう てつや)は名誉のために、澪やその家族全員を時任家で働かせることにした。また、寛人にこんなふうに言いつけた。

「結月と結婚したいなら、恩返しができるまで、樋口澪をそばに残すんだ!」

結月と結婚するため、寛人は嫌でもそれに応じるしかなかった。そして、恩返しができるまで、彼女が不幸だと感じた時にはいつでも助けに駆けつけると澪に約束した。

それからの三年、澪は常に自分は不幸だと思っていた。

初めての不幸は結月の誕生日の日のことだった。自分はこんな盛大な誕生日会を開いたことがないと言ったから、澪に誕生日会を譲ってやるように、寛人は結月に頼んだのだ。

結月は婚約解消を言い出したが、寛人は打ち上げ数が一万も超える花火で彼女の誕生日を祝った。そして、全ては結月と結婚できるようにするためだと、結月に片膝で跪いて言った。

二回目の不幸は、寛人と結月が一緒に結婚用の家を買うのを見に行った時のことだった。その時澪が自分はこんな豪華な家を見たことがないと言ったから、寛人はその家を澪にあげた。同じ日に、寛人はもっと大きくて、価格の高い家を結月に買ってあげた。そして、もう少し待って欲しいと結月に伝えた。

結月はずっと寛人を待ってあげていた。しかしその後、寛人は二人が結婚するための家、車、結婚後飼おうとしていた犬までも全部澪に渡してしまったのだった。

そしてこのようなことを繰り返し、九十九回目まで来た。

そして寛人がやっと澪への恩返しを終わらせたのだと思っていた。結月は婚姻届を出すために、ずっと楽しみに市役所で寛人を待っていた。しかし、一日も待った彼女を迎えたのは、寛人が一億円も使って、オークションで「一生一人だけを愛する」のを象徴するピンクダイヤモンドを澪に買ったという知らせだった。

その瞬間、何度も抑えられてきた失望感が波のように押し寄せてきた。

そろそろ退場すべきなのかもしれない。

結月は輝くピンクダイヤモンドを見つめながら、寛人に電話をした。そして、優しい声で言った。

「寛人、結婚はもうしないよ」

寛人は鼻で笑って、隣にいる人といちゃついた。

「またわがままを言って俺を脅してるんだろ。

おとなしくしてて。恩返しができたらすぐお前のそばに向かうから」

またこの言葉だ。

この三年、結月は数え切れないほどこの言葉を聞いてきた。

それに彼女はもう疲れ果ててしまった。

結月は静かに電話を切って、市役所を離れた。

寛人はただ、もっと高いダイヤモンドを入札して結月にあげるように、手下に言いつけた。

結月は前のように、ヤキモチを焼いて、駄々っ子になっているだけで、澪にあげた物を結月にもあげれば、すぐに機嫌がなおると寛人は思っていたのだ。

しかし、彼は知らなかった。婚姻届を出すことは、結月がこの二十数年の付き合いに免じて、寛人にあげた最後のチャンスだったということを。

結月はもう彼に期待などしない。

結月は家に帰って、すぐ京坂市にいるおばに電話をかけた。

「おばさん、この前おばさんが言ってた政略結婚の話、私、受け入れようと思うの」

おばは感激して、涙を拭きながら、自分を助けてくれる結月に感謝の言葉を送った。

結月は少し彼女を宥めて、電話を切った。そして、ここ数年寛人が自分にくれたプレゼントを整理し始めた。

幼い頃もらったオーダーメイドのバービー人形、中学時代もらった手作りのマフラー、二人が成人して、寛人が結月にプロポーズするために自分で作った指輪。

しかし澪が現れた時から、全てが寛人が結月の機嫌を取るためのものになってしまった。

本来なら全て結月の大事な思い出で、それらを見るだけで寛人との結婚後の生活を想像させるものだったのに。

今となっては、もう全部いらない。

二十数年もの思い出も一緒に、寛人に返すことにしたのだ。

結月は全ての物を段ボールに整理して、アシスタントに渡した。そして、クローゼットから二人の婚約の印となっている物を取り出し、二人の結婚用の家へと向かった。

パスワードは相変わらず、彼女と寛人の誕生日の組み合わせだった。

音を聞いた寛人は部屋から出てきて、結月を見て少し驚いた。

「結月?」

彼は口の端に薄笑いを浮かべた。

「やっぱり俺には怒れないんだよな。ダイヤモンドは気に入ってくれたか?気に入らなかったらまた別のものを買うからね。それから……昨日は婚姻届を出すのにあまり向いていなかったから、また新しい日を選んでもらったよ」

結月は静かに彼の話を聞いて、自分の背後にあるいくつもの段ボールを指でさして話した。

「物を返しに来たの」

それを聞いた瞬間、寛人の笑顔が固まった。そして彼は眉をひそめた。

寛人が何かを言う前に、澪は素足で二階から降りて、彼の腰に抱き着いた。

結月の目はぴくっと痙攣した。

澪が着ているシャツは、結月が大学入試を受けた後、アルバイトをして寛人に買ってあげたプレゼントだった。

結月にとって初めてのアルバイトの経験で、唯一の経験だった。

寛人はプレゼントをもらった時、喜んだわけではなく、結月が皿洗いをしてガサガサになった手を見て、胸が痛くなって泣いた。

彼はシャツを箱に大事にしまい込んだ。そして、一生結月を悲しませないと約束したのだ。

しかし今、そのシャツは澪が着ているし、寛人もまた澪のことで数え切れないほどに結月を悲しませた。

澪はこの時ようやく結月がここにいることに気づいたようで、顔で寛人の背中をさすって、恥ずかしそうに言った。

「お客さんがいるなら早く言ってくれればよかったのに。もう、私、こんな姿じゃ笑われちゃうわ」

寛人は眉をひそめて、澪の手を握り、引き離そうとした。

しかし、澪はわざと敵対するように、もっと力を入れた。

結月に、澪は自慢げに見えた。

結月は目線をそらして言った。

「物を返しに来たの。良かったら、婚約の印を私に返してちょうだい」

結月はそう言って、時任家の代々嫁に伝わる宝石のペンダントを渡した。

寛人は一瞬固まった。わざと結月を怒らせるように、彼は澪の手を握りしめて、冷笑した。

「今都合よく見えるかな」

結月は胸が苦しくなり、無意識に箱を持つ手に力を入れた。

自分は諦める準備を完全にできたと思っていたが、この光景を見るとやはり心が締め付けられた。

結月と寛人が初めて澪のことで喧嘩になったことが思い出される。寛人は結月に跪いて、すべてはもっと早く恩を返して彼女と結婚するためだと神に誓っていた。

しかし、いくら返しても、澪への恩は返しきれないようだ。

寛人は澪のために、何度も結月を見捨てた。二人の結婚の日時も何度も遅延された。

今日という日になって、雪崩を起こす最後の一塊の雪がやっと降り注いできたのだった。

彼女はやっとこの恋を手放せる。

結月は深く息を吸って、そのペンダントを机に置いて言った「都合がいい時に、送って来てくれればいいわ」

結月は真剣に婚約解消の話をしたいと思っていたのだ。

しかし、澪が寛人の服の下に手を入れ、寛人の体が一瞬固まるのを見て、吐き気がした彼女は、すぐに向きを変えてその場を去っていった。

「待ってくれ!」

寛人は結月を呼び止めて、口を開き、脅すように言った。

「結月、本当に俺との婚約を解消するのか?」

結月は足を止めて、動揺しない声で言った。

「そうよ」

寛人は鼻で笑った。

彼は結月のそばに行って、重ねた段ボールを蹴りつけた。

「婚約を解消するなら、こんなゴミを残す必要もないだろう?」

寛人は結月の目をじっと見つめた。結月はきっと、今回も前の九十九回の時と同じように、涙目で「私の機嫌を取ってくれれば、仲直りしてもいいよ」と言うはずだと、寛人は思っていた。

しかし、結月はただ頷いた。「そうね、もう残す必要もないし。

邪魔だと思うなら、私がここに残した物も全部捨てればいいよ」

寛人は骨の関節が鳴るまで、拳を強く握りしめた。

しばらく経って、彼は怒った口ぶりで言った。

「俺がまだお前の物に触れると思うのか?自分で全部片付けろ。取り忘れた物があるから取りに来たいという理由で俺と仲直りしようとするなよ」

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters

Comments

user avatar
松坂 美枝
クズというかアホ男と別れて主人公がワンコ御曹司と結ばれて幸せになった話 アホゆえにカモられて主人公が離れてから焦りだすアホ まあ主人公以外失わずにやっていけてるしいいんじゃない ワンコ御曹司がひたすら可愛かった
2025-10-20 11:20:04
1
default avatar
蘇枋美郷
よく知りもしないクズ女に騙されて、婚約者をとことん虐めて追い詰め逃げられたバカ男。主人公はよくあそこまで我慢したよ。とっとと見切りをつけて政略結婚を選んだら、甘々ワンコ御曹司で幸せ掴めて良かった♡あずきちゃんのオヤツ欲しい演技シーンもっと読みたかったわww
2025-10-20 18:19:53
0
18 Chapters
第1話
時任寛人(ときとう ひろと)と伊東結月(いとう ゆづき)は容坂市で一番お似合いの二人である。二人は生まれる前から婚約していて、生まれた時からひとときも離れることはなかった。結月は、二人はこのままずっと一緒にいられると思っていた。しかし、それは寛人が釣りをしている時に湖に落ちてしまい、漁村出身である樋口澪(ひぐち みお)に助けられるまでのことだった。寛人の父親、時任哲也(ときとう てつや)は名誉のために、澪やその家族全員を時任家で働かせることにした。また、寛人にこんなふうに言いつけた。「結月と結婚したいなら、恩返しができるまで、樋口澪をそばに残すんだ!」結月と結婚するため、寛人は嫌でもそれに応じるしかなかった。そして、恩返しができるまで、彼女が不幸だと感じた時にはいつでも助けに駆けつけると澪に約束した。それからの三年、澪は常に自分は不幸だと思っていた。初めての不幸は結月の誕生日の日のことだった。自分はこんな盛大な誕生日会を開いたことがないと言ったから、澪に誕生日会を譲ってやるように、寛人は結月に頼んだのだ。結月は婚約解消を言い出したが、寛人は打ち上げ数が一万も超える花火で彼女の誕生日を祝った。そして、全ては結月と結婚できるようにするためだと、結月に片膝で跪いて言った。二回目の不幸は、寛人と結月が一緒に結婚用の家を買うのを見に行った時のことだった。その時澪が自分はこんな豪華な家を見たことがないと言ったから、寛人はその家を澪にあげた。同じ日に、寛人はもっと大きくて、価格の高い家を結月に買ってあげた。そして、もう少し待って欲しいと結月に伝えた。結月はずっと寛人を待ってあげていた。しかしその後、寛人は二人が結婚するための家、車、結婚後飼おうとしていた犬までも全部澪に渡してしまったのだった。そしてこのようなことを繰り返し、九十九回目まで来た。そして寛人がやっと澪への恩返しを終わらせたのだと思っていた。結月は婚姻届を出すために、ずっと楽しみに市役所で寛人を待っていた。しかし、一日も待った彼女を迎えたのは、寛人が一億円も使って、オークションで「一生一人だけを愛する」のを象徴するピンクダイヤモンドを澪に買ったという知らせだった。その瞬間、何度も抑えられてきた失望感が波のように押し寄せてきた。そろそろ退場すべきなのかもしれない。
Read more
第2話
寛人は結月が悲しみを抑えきれず泣き出すのを待っていた。結月が少しでも名残惜しい様子を見せるなら、寛人は嫌でも結月を慰めようと思っていた。しかし、結月は何も言わずに、ただ自分の生活した痕跡が残されたところに行って、少しずつ整理し始めた。ここは結月と寛人が結婚後に暮らすための家で、カップル用の物がたくさん置かれている。それらの中には二人が幼馴染として小さい頃から、結婚を計画するまでの全ての記憶が残されているのだ。結月は無感覚状態でそれらを全て一つずつ取っていった。ふと、シーツが乱れているのが視界に映り、結月は吐き気を抑えるために手で口を覆った。それは彼らがいちゃついた痕跡で、寛人が結月を裏切った証拠だ!彼らの関係はここまで進んでいたわけだ。おかしいことに、結月は今更それに気づいたのだった。結月はすぐに気持ちを切り替えて、全ての物を捨ててしまった。その間、リビングにいる寛人と澪はわざと結月に聞かせるように、時おり淫乱な声を出した。結月はただ聞こえないふりをして、無表情で自分の物を全部整理し、また優しくドアを閉めた。ドアが閉める前に、寛人の声が中から伝わってきた。「結月、どんな要求でも一度聞いてくれると言ってたよな。まだそれを守ってくれるのか?」ドアを閉めようとした手が一瞬止まる。十八歳、大学入試が終わった後、二人は一緒に登山に行った。体力不足で、途中で崖から落ちそうになった結月を助けるために、寛人は骨折した腕の痛みをこらえながら、無理やり結月を引っ張り上げた。結月を慰めるために、まるで何も起こらなかったかのような態度をしていた。その後、結月はどんな要求でも一度聞くと寛人に約束したのだ。あの時、寛人は結月に一生幸せでいてくれればそれで十分だと言ったが、結月は彼自身の願いを考えてくれと返したのだった。しかし、寛人は結月さえいれば他に何の願いもないと言った。今、寛人は結月に何をして欲しいのだろうか。視線を部屋の中に移した結月が見たのは、優しく澪の額にキスする寛人だった。彼は口を開いて言った。「澪は南坂市で売っている鯛焼きが食べたいそうだから、買ってきてくれ」結月は寛人をじっと見つめて言った。「わかったわ」その願いまでも、澪に関連したものなのか。しかしこれでいいのだ。これでお互いに
Read more
第3話
退院した二日目が寛人の母親、時任薫(ときとう かおる)の誕生日だった。結月は二度と時任家と関わりを持ちたくなかった。しかし、薫は誕生日会に来るように、何度も結月にお願いをしたのだ。結月がいなければ、誕生日会を開く意味もないと言っていた。薫は小さい頃から結月に優しかった。結月の両親が亡くなった後も結月を自分の娘みたいに接してくれたのだ。それに、婚約解消のことも確かに寛人の両親にしっかり話すべきだと結月は思った。情にもろい結月は結局薫のお願いに応じることにした。薫はにぎやかなのが好きだから、誕生日会は盛大に開かれた。時任家の大邸宅に入った結月はすぐに何をするのも不便そうにしている寛人や彼の身体を支えている澪が見えた。澪は非難するような口ぶりで言った。「寛人ったら、私を守るために命がけになっちゃって。結月こそが寛人の婚約者なのに。こんなことをしたら、結月を怒らせてしまうよ」二人の周りにいる招待客たちはみんな気まずそうな顔をして、屋敷に入ってくる結月の様子をうかがっていた。寛人も結月の姿が見えた。彼は澪を振り払って結月に話しかけようとしたが、結月が自分に目もくれないで、一人で隅っこへ歩いていくのを見て、くっついてくる澪は好きなようにさせて、自分はまた座り直した。二人の共通の友達は見過ごせなくなり、寛人を責めた。「寛人はもうすぐ結月と結婚するだろう。こんなことをしたら結月は悲しむぞ!」寛人は結月を一瞥して、鼻で笑った。「結婚?俺はもうあいつにふられたよ。結婚なんてもうしないよ」その一言が波紋を呼ぶことになった。年配者たちまで寄ってきて、結月に事情を尋ねだした。「二人は生まれた時から離れたことがなかったでしょう。どうしてここまで喧嘩することになったの?」「寛人は生死の境に、自分の命をかけて結月を守ってあげたでしょう。結月も、寛人にお守りをもらうために、9999段もある階段を一段上るたびに頭を地面につけて神様に敬意を表すようなことまでできたのよ。何があってもちゃんと話し合えばきっと和解できるわよ」「そうよ。ここ容阪には二人ほど仲良しな幼馴染はいないよ。誤解があったらすぐに解いたほうがいい!」結月は澪が首につけているお守りを見て、目をそらした。それは寛人が交通事故にあった後、神様に守ってもらうために、階段で99
Read more
第4話
婚約解消の話が周知の事実となり、薫は寛人がこれ以上澪と一緒にいたら、もう二度と結月と仲直りができないと思った。だから無理矢理に結月につくよう寛人に言いつけた。そうして、澪は一人になってしまった。ある御曹司、辻井翔(つじい かける)が酔いが回ってきて、どうしても澪と友達になりたいと言い、うるさく付きまとってきた。周りはみんな、さっきのことを目にしたものだから、誰も助けようとしなかった。澪は目が赤くなり、今にも泣き出しそうになっていた。その時、寛人が急に現れて、拳で翔の顔に殴りかかっていった!翔は殴られて倒れそうになり、激怒した。「時任!結月ならまだいいが、こいつに手を出してもダメだってか?結月は婚約者だろう、こいつはお前の何だってんだ?」寛人は彼をじっと見つめて、また結月を一瞥した。そして答えた。「彼女は俺の女だ」結月が動揺しないのを見て、寛人は唇をすぼめて、急に澪を引っ張ってくると、激しいキスした。キスをし終わると、澪はふらついて寛人の懐にもたれた。寛人は周りを見回して、力強く言った。「澪をいじめる奴がいれば。俺は絶対に許さないぞ!」澪に味方する寛人を見て、さっきまで澪を非難している人たちはみんな二人を囲った。結月は我慢できず、トイレに駆け込み、必死に唇を嚙んで大粒の涙を流した。泣き疲れた結月は、自分は体の調子が悪いから、まだ後日、話をすると謝罪のメッセージを薫に送った。メッセージを送って、結月は深く一息吸い、ドアを押して外を出た。しかし、外に出てすぐ誰かに腕を捕まえられた。それはさっき寛人に一発殴られた翔だった。翔は悪気のある笑みで、結月を上から下までじろじろ見つめた。「俺は本当はあの澪よりも、お前のほうが好みなんだぜ。ただ以前のあいつはお前のことを宝物のように大事に守ってたからな。俺もあいつの機嫌を損ねることはできないしさ。でも今は違う。あいつは他の女を守ることにしたんだ。お前が良ければ、俺がお前をもらってやってもいいぞ」結月は眉をひそめた。「嫌よ。ここは時任家の影響力が強い所だから、変な真似はしないほうがいいわよ」その話を聞き、翔はさっきみんなの前で寛人に殴られたことを思い出した。刺激を受けたかのように、無理矢理結月にキスしようとした。結月は激しく抵抗しながら、手を
Read more
第5話
もう少しで結月の家に到着するという時に、寛人から運転手に電話がかかってきた。結月は人の通話内容を盗み聞きする習慣はないから、顔の向きを変えて、聞かないようにしていた。しかし、寛人の声はあまりにも焦っているようで、避けようにも避けられず結月の耳に届いた。澪が急に胃が痛くなったから、今すぐ澪を病院に送れと寛人は運転手に命令していた。運転手は結月を一瞥して、恐る恐る言った。「でも、若奥様は今日ショックを受けられたそうで、先に若奥様を家まで送るように奥様に言いつけられておりますが」結月は少し眉をひそめた。寛人との婚約が決まったこの数年間、時任家の人はみんな結月を若奥様と呼ぶように命令されていた。結月は恥ずかしくてそう呼ばないで欲しかった。しかし寛人は眉を吊り上げて、結月への愛を隠さなかった。「俺は絶対に結月と結婚するよ。結月と結婚できなかったら、死んだほうがましだよ」しかし今、彼は冷たい声で運転手を叱っている。「お前は時任家の運転手だ。よその人間なんてかまうな」結月はバッグのショルダーを握りしめる手が白くなるほど力を込めた。よその人間ね。今の自分、よその人間になっている。結月は運転手を困らせたくないから、自分を路肩に降ろしてと伝えた。寛人がうるさく催促したせいだろう。運転手は一秒だけ躊躇して、すぐ結月を降ろすと、また車を出して去っていった。結月は路肩に沿ってゆっくり歩いた。今夜少し酒を飲んだから、薫の前の誕生日のことが思い出された。みんなが一緒に囲んで座って、結月が寛人と結婚したらどんなふうになるだろうか、どんな子供が生まれるだろうかと、結月をからかっていた。あの日あまりにも楽しかったからか、結月は酒をたくさん飲んだ。そして夜中に胃が痛くなってのたうち回っていた。あの日運転手はちょうど休みだった。天気も悪いから、タクシーも拾えなかった。寛人もちょうど車を運転するのを家から禁止されていたから、家族に心配されないように、彼は結月を背負って病院に行った。一年後の今、寛人は澪のために、結月を道端に捨てられるようになっていた。結月は鼻をすすって、マフラーをもっときつく巻いた。結月が家に着いたとき、体は凍るほどかじかんでいた。結月はドアを開けようとしたが、ふと誰かに目を隠された。そして少し笑って
Read more
第6話
寛人との腐れ縁を断ち切り、結月は離れる準備をし始めた。結月は容坂には家族がいないから、離れる前に家を売る必要がある。両親が残した家のほかに、家はもう一つあった。それは寛人からもらった結婚した後に住む新居で、二人で所有権を持っている。結月は寛人と相談して、その不動産権利書から自分の名義を消してしまおうと考えた。これから寛人が再婚しても面倒なことを避けることができる。結月はスマホを取り出して、寛人にメッセージを送った。メッセージを送って随分時間がたったが、ずっと返事がない。結月が容坂にいる時間はもう残り少ない。遠くから戻ってきてこの件に対処したくないから、結月は寛人の近況を知って、直接彼に会いに行くために、彼のインスタをチェックした。しかしインスタをタップすると、結月はブロックされている表示があらわれた。結月は少しモヤモヤしていた。薫を通して寛人と連絡を取りたかったが、寛人はあの夜からずっと家に帰っていないことがわかった。結月は深く息を吸って、澪にメッセージを送った。【寛人と大事な話があるから、私のメッセージに返事するように寛人に伝えてちょうだい】すると澪はすぐにある住所を送ってきた。それは寛人の持っているリゾート山荘で、二人の秘密の場所でもある。友達も遊びに行きたいと言ったことがあるが、寛人はあそこは結月との二人だけの場所で、二人以外誰も足を踏み入れてはいけないと言って拒絶したのだ。それが今、澪も行けるようになったのか。あそこはもう二人だけの秘密の場所ではなくなったのだ。結月は無理やりその思考を停止させて、車を出し、そのリゾート山荘へと向かった。ここは静かな場所だったが、今は非常に賑やかで、見知らぬ人もたくさんいる。結月が小道に沿って中に入ると、ちょうど澪が片膝をついて寛人の顔にキスするのが見えた。「私と友達をここに誘ってくれてありがとうね」寛人は頭を傾げてそれを避けようと思っていたが、結月を見た瞬間にその動きを止めた。澪が寛人の顔にキスするのを見た瞬間、ふと、ここを自分好みに内装してくれる寛人に感謝の気持ちを伝えるために、結月はここで初めて寛人にキスしたことを思い出した。それはお互いに人生で初めてのキスだった。それから寛人はキスの心地よさを知り、結月を喜ばせるたびにそのご褒美として、しつ
Read more
第7話
結月は目線をそらした。寛人がまるで透明人間であるかのように、結月は返事もしないで、彼を見もしなかった。薫は眉をひそめている息子を見て、また、黙り込んだ結月を見た。彼女はため息をついて話した。「結月さんよ。彼女は……」寛人は薫の話を遮って、結月を見て言った。「京坂市に行くのか?確かに、お前は尚子(なおこ)おばさんに会いに行きたいって言ってたな。でも今回はさすがにひどい傷を負ったから、しばらくは出かけないほうがいいよ。もうしばらく待って、俺が仕事を全て片付けたら、お前と一緒にあっちでしばらく住むから」結月は急に可笑しく思った。結月はずっと前から、京坂に行って尚子おばさんに会いたいと寛人に言っていたのだ。そして寛人も一緒に行くと約束をした。しかし、その約束はどうして果たされなかったのか?自分はずっと漁村で暮していて、世間知らずで一人で外に出る勇気もないから、どこに行っても付き添ってくれる人がいる結月がすごく羨ましいと、澪が憧れた眼差しで言っていた。だから寛人は澪にこの広い世界を教えてやるため、こっそりと京坂市に行くチケットをキャンセルして、澪と一緒に海外で半月も遊んでいたのだ。あの日、結月は深夜まで空港で待っていた。寛人が事故に遭っていないか、心配で何度も電話をかけた。しかし、空が傾き始めた頃に、結月はインスタで彼と澪の写真を見たのだ。二人の居場所は海外のある空港だった。そして彼女の気持ちが冷めきった今、寛人は一緒に行くと言ってきた。でも残念なことに、結月はとっくに期待しなくなっている。結月は深く息を吸って、寛人に全てをはっきり話そうとした。結月は親戚に会いに行くわけではない、結婚しに行くんだと。そしてしばらくではなく、これからはずっと京坂で暮らすし、用事がない限り容坂市にはもう戻ってこないと。しかし「一緒に行かなくていいわ」しか言ってないのに、寛人は嘲笑した。「俺と一緒に行かなくてもいいだと?じゃあ、誰と一緒に行くんだ?あの日お前にプレゼントをあげたイケメン君か?一人で行くとは言うなよ。お前ドジだからな、チェックインの時間まで間違える。そして泣きわめいて俺に迎えに来させるんだろう」それを聞いた結月は呆れた。本当に寛人など必要ないと言いたかった。結月には元婚約者に自分の結婚式に参加させる趣味はないのだ。しかし
Read more
第8話
寛人は約束通りに結月の病室に現れることはなかった。彼はデリバリーでケーキを頼んだ。しかもそれは結月の嫌いなイチゴケーキだった。結月は見もしないで、薫の言いつけで、世話をしに来てくれた使用人に分けた。そして荷物を整理し続けた。30分前、結月は澪のインスタを見た。翔は澪が病院にいるのを知って、また付きまといに行ったが、寛人がちょうど現れたから翔の願い通りにはならなかった。澪は掠り傷を作っただけなのに、寛人がどうしても澪に一週間も入院させるから悪い人に隙を見せたと、寛人に甘えて愚痴を言っていた。でも寛人が澪のヒーローになって守ってあげたし、大好きなケーキも買ってあげたから、やはり寛人を許すと書いてあった。下には寛人が片膝で跪いてケーキの包装を解いているの写真が添付してあった。結月はいいねを押して、澪と寛人を一緒にブロックした。使用人は結月が持っているバックを持って言った。「伊東さん、手続きは済みましたし、車も着きました。もう出発できますよ」結月は頷いた。エレベーターが八階に着いたとき、その階から乗る人がいて、エレベーターのドアが開いた。結月はエレベーターのちょうど向かい側にある病室で、澪が笑って寛人の顔にキスするのが見えた。結月はただ静かにそれを見ていた。心には何の動揺もなかった。結月は退院した一週間後に京坂市に行って政略結婚をする予定だった。何度も拒絶されたが、薫はどうしても結月に送別会を開こうとした。おまけにドレスやジュエリーも用意してくれたのだった。結月は拒めず、離れる時間を少し延ばして、宴会が終わってすぐ空港に向かうしかなかった。送別会当日、結月と一緒に育った友達はみんな来たが、寛人だけがなかなか来なかった。待ちくたびれた人がいて、意味ありげに結月の耳元で囁いた。「この前婚約を解消するって言ったのに、寛人さんは相変わらずあの漁村出身の女と一緒にいたから、あなた達二人はもうお終いだと思っていだよ。でもまさかね、いろんなことがあっても、あなた達二人はやっぱり離れないんだ。これが神様から授かった縁ってやつかな?」相手が何を言ってるのかわからず、結月は眉をひそめた。結月が聞いても、向こうはただ目くばせをして何も言わなかった。答えは出ないし、結月は考えないようにした。結月は自分の世話をしてくれた年配たち
Read more
第9話
送別会がまだ終わってないのを確認して、寛人は部屋に戻り着替えると、直接屋上のガーデンへと向かった。準備が全部終わり、彼は結月を屋上に連れてくるようにと健にメッセージを送った。しかし、向こうはずっと返事をくれなかった。寛人が眉をひそめて顔を上げると、ちょうど空を掠めていく飛行機を目にした。心の中で不安が募っていく。待ちきれない彼は、屋上でサプライズを用意したと結月にメッセージを送った。しかし、その画面にはブロックされている表示が出てきた。結月を屋上まで連れてきてくれると約束した健も曖昧なメッセージを送ってきて謝った。【寛人、すまないな。家に急に用事ができたから先に帰るよ。その、プロポーズはまたいつか改めてしたらどうかな?】それと同時刻、結月は窓の外の雲を見て、ゆっくりと息を吐いた。さようなら、自分が小さい時から育った場所。甘い記憶も苦い記憶も、結月と寛人の間の感情も全部ここに葬ったのだ。彼女には新しい生活や新しく愛する人ができる。そして結月と寛人は、もう二度と会うことはない。……寛人は屋上で一時間も待った。待ちきれなくなった彼は結月を探しに下の階へ降りていった。プロポーズがばれてもいい、また日を改めて結月にプロポーズすればいいのだ。どうせ結月は自分を拒まないし。そう考えて、寛人は少し安堵し、指輪が入っている箱をもう少し力強く握り締めた。寛人は下の階についた。みんなは帰ってしまって、薫だけがリビングに座っていた。彼女は自分と芙美とが一緒に撮った写真を見て、小さい声で謝っていた。自分がちゃんと息子のしつけができなかったから、結月は傷ついて遠くに離れていってしまった。両家同士が決めた婚約も結局は果たせなかった。すると寛人の不安は更に募っていった。彼は一歩前へ進み尋ねた。「母さん、何で急に芙美おばさんとの写真を取り出したんだ?結月は?どこに行った?今日は家で何かの宴会をするんじゃなかったっけ?」薫は涙を拭いて、寛人を見上げて静かに言った。「結月さんはもう行ったわよ、京坂市に」寛人はほっとして、母親の隣に座り、笑いながら彼女を抱きしめた。「京坂市に行ったのか。母さん、そんなに名残惜しいのか。結月はもう帰ってこないわけじゃないし。でも、尚子おばさんに何かあったのかな。宴会が終わるまえに行ってしまっ
Read more
第10話
寛人はまるで夢から覚めたような様子で、すぐにチケットを買って空港へ向かった。途中、澪は電話をかけてきて、彼に尋ねた。「こんなに遅いのに京坂市に行くの?誰と一緒に行くつもり?伊東さんと?」寛人は眉をひそめて、澪がなんで自分の行方にそんなに詳しいのかと詰問したかった。しかしそれを尋ねようとした瞬間、彼は思い出した。澪は安心感もないし、友達もいないから、いつでも寛人の居場所が知りたいのだと言っていた。だから寛人は自分のスマホに位置を定める追跡アプリをダウンロードしていた。澪のスマホにもそれと同じアプリがある。その他にも、彼は口座の消費記録が澪に送られるように設定していたのだ。それで後悔の気持ちが波のように押し寄せてきた。寛人はスマホを握りしめ、冷たい口調で言った。「お前とは関係ないよ」彼はそう言い、電話を切った。そして位置を定めるアプリをアンインストールして、澪の口座を凍結するように銀行に電話をかけた。最後は口座の消費記録も自分のスマホに届くようにしてしまった。すべてを済ませて、彼は裏アカウントに切り替え、結月のもう一つのLineのアカウントを探した。澪が初めて不幸せに感じた時、結月と寛人は今までになかった大きな喧嘩をした。結月もその時初めて寛人をブロックした。二人が仲直りした後、寛人は数十もの裏アカウントを作って、結月にブロックされても連絡できるように、それを裏道にしていたのだった。結月もそれに影響されて、裏アカウントを一つ作っていた。そのアカウントは寛人以外、誰ともフレンド登録していない。二人は約束したことがある。いつか、二人に本当に和解できないようなトラブルが起こったら、このアカウントを使って、お互いに最後に弁明や謝罪をするチャンスをあげようと。結月は……自分を許してくれるだろうか?寛人は確信できなかった。それでも長い文章を書いた。二人が一緒に育っててきた感情から、その後澪のことで結月を無視したことについての謝罪までだ。彼は結月と面と向かって話がしたいから、最後は結月の住所を尋ねた。メッセージを送ってから随分と時間が経ったが、向こうからの返事はなかった。何かに憑りつかれたように、寛人は結月のタイムラインを見始めた。彼は結月の日記のような記録を読み始めた。【9月7日、寛人が起きたの。私すごくうれしい。
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status