明里は目を丸くした。「私に手伝えることがあるの?」樹は黙り込んだ。明里も急かさず、視線を落としてテーブルクロスの模様を指でなぞりながら待っている。しばらくして、樹がようやく重い口を開いた。「俺と胡桃のこと、知ってるか?」明里は顔を上げた。「あなたと胡桃……何のこと?」「彼女はあなたに何も言っていないのね」明里は首を横に振った。「ええ、何も」具体的な話は聞いていないが、胡桃と樹の間に、ただならぬ空気が漂っていることは察していた。樹は溜息交じりに言った。「親友のあなたには話しているとばかり思っていた」明里は慎重に言葉を選んだ。「黒崎先生、あなたと胡桃のことに、私が立ち入るべきことではないわ。胡桃が教えてくれなかったということは……」「彼女が言わなかったからこそ、俺からあなたに話したいんだ」樹は真剣な目を向けた。「それとも、あなたは俺をただの雇われ弁護士、離婚のための道具としか見ていなくて、友人とは思っていないのか?」二人は数回しか会っていない。友人と言うには、いささか距離があった。だが、恩ある樹にここまで言わせてしまっては、無下にはできない。樹はさらに言った。「何より、あなたは胡桃の親友なんだ。この件を手伝ってくれるのは、あなたしかいないんだ」明里は観念して訊ねた。「分かったわ。で、何のお話なの?」「胡桃を口説きたいんだ」明里は、やっぱり、と思った。かねてから樹の胡桃への態度は特別なものだった。特にあの食事会の時、彼が胡桃に向ける熱っぽい視線や、胡桃の彼に対する少し棘のある態度から、二人の間に何かがあることは明白だった。明里は微笑んだ。「胡桃は魅力的な女性だし、あなたが好きになるのも無理もないわ。ただ、黒崎先生も十分に優秀な方だから、恋愛ごときに私の助けなんて必要ないでしょう?」「告白したが、断られた」樹は苦々しげに言った。「彼女は……結婚しない主義だと言っていた。それは本心なのか?それとも……俺を断るための口実でしかないのか?」明里は答えた。「そう言っていたことは何度かあるよ。でも、それが本心からの独身主義なのかまでは分からないわ」樹は黙り込んだ。明里は続けた。「黒崎先生が告白したということは、あなたの目には、胡桃はそれほどの価値がある女性だと映っているのね」「当然だ」
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