裕之の姿は、テレビの画面越しに見かけることの方が多かった。朱美に思いを寄せる男の数は、裕之を想う女たちの数をはるかに凌いでいた。小規模な結婚式とはいえ、仕事上の付き合いでどうしても招待せざるを得ない客もいる。田島明生(たじま あきお)も、そのひとりだった。五、六年前、明生が独り身になってからというもの、彼女に対して猛烈なアプローチを繰り返してきた。田島家と河野家は代々親交があり、ふたりは幼馴染と言ってもいい間柄で育ったのだ。だが、若かりし頃の朱美の心には、すでに深く愛する人がいた。その彼がこの世を去ってから、彼女は世界中を飛び回るようになった。一方の明生は家柄の釣り合う相手を娶り、ほどなくして一男一女に恵まれた。その後、朱美は明里を授かった。しかし、その子が忽然と姿を消し、どれほど手を尽くしても行方は知れなかった。絶望の中、朱美は自らを痛めつけるように、あてもなく異国の山野を彷徨い歩いた。やがて心に平穏が戻り、彼女が実業界へと足を踏み入れると、自然と明生と顔を合わせる機会が増えていった。明生はいつしか朱美の魅力に取り憑かれ、自身がまだ妻帯者であるにもかかわらず、幾度となく想いを打ち明けてきた。しかし朱美は、彼に対して微塵も惹かれることはなかった。度重なる執拗な言い寄りに辟易し、彼女はついに冷たく言い放った。「私のことが好きだと言うなら、奥さんとお子さんはどうするおつもり?」「妻とは別れるさ。あいつを愛したことなんて、一度たりともなかったんだ」朱美は冷ややかに笑った。「自分の子供まで産んでくれた奥さんに、よくそんな簡単に離婚なんて言えるわね」実のところ、朱美はかつて裕之にも、同じことを聞いたことがあった。「もしも奥様が生きていらして、そのときに私と出会っていたら、あなたは離婚していた?」裕之は数秒ほど沈黙し、静かに首を振った。「しなかっただろうな」「なぜかしら?」「彼女への愛情はなかったかもしれない。だが、俺には責任がある。結婚という誓約にも、妻にもだ。たとえどれほど君に強く惹かれたとしても、俺はきっと理性を総動員して、自分を律したはずだ」決して模範解答ではないかもしれない。それでも、明生という薄っぺらい男を見たからこそ、朱美には痛いほど分かった。裕之という男に宿る、抗いがたいほど深く誠実な魅力が。
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