「合理的なら応じよう」潤は言った。「だが、お前にやましいことがないのが前提だ」「やましいことなんてあるわけないでしょ?」明里は彼と議論する気にもなれなかった。「財産分与にこだわらないのは、ただあなたの資産は私には関係ないと考えたからよ」「明里」潤は彼女を見つめた。「夫婦とは何か、分かっているのか?」もちろん、明里は知っていた。しかし、潤との結婚生活では、夫婦の本当の意味など見いだせるはずもなかった。彼女は言った。「もしかしたら、私たちの始まりは間違いだったのかもしれない。もしやり直せるなら……」明里は潤と結婚したばかりの頃を思い出していた。あの頃は夢を抱いていた。彼と触れ合うことに少し恐怖を感じながらも、結婚生活には希望で胸を膨らませていたのだ。今思えば、あの恐怖の理由は、きっと劣等感だったのだろう。二人の家柄は、あまりにも違いすぎた。潤が普段接するのは、皆名家の令嬢ばかりだった。それにひきかえ、彼女には容姿以外に取り柄などない。誰が見ても、明里が玉の輿に乗ったと思うに違いなかった。それでも、彼女が常にびくびくとして、細心の注意を払っていたのは、ただ彼を愛していたからに他ならない。愛しているからこそ不安になり、気に入られないのではと怖くなったり、そして愛されないことに憎しみが生まれてしまうのだ。そうやって彼らの結婚生活は一歩ずつ、終わりへと行きついてしまったのだ。しかし明里も今は、ようやく吹っ切れた。彼女は早くこの結婚生活を終わらせて、自分の人生をやり直したいと切に願っていた。これからは物理と化学の研究に没頭するのだ。自分が愛する専門分野に身を投じるのだ。これからはもう二度と、恋というものに縛られたり、傷つけられたりすることはないと彼女は心に誓った。いや、あるいは何年も経てば、価値観が合い、自分を尊重し、大切にしてくれ、一途に愛してくれる男性に出会えるかもしれない。だが、潤との間に……もうこれで終わりだ。明里は潤を見つめ、言った。「もしやり直せるなら、私はあなたに出会いたくなかった」そう言うと、彼女は背を向けて歩き出した。ドアの前まで来て、明里は振り返った。「一番腕の立つ弁護士に頼むよ。離婚協議書ができたら、すぐに届けさせるから」そう言って、彼女は振り返ることなく去っ
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