LOGIN「ジャンー! ジェフー! お茶でも飲まなーい!?」リビングの窓から顔をのぞかせ、庭で家具の修繕をしていた2人に声をかけた。「はい、行きます!」「丁度喉が乾いていたんですよ!」ジャンとジェフが交互に返事をし、作業の手を止めて屋敷の中へと入ってきた。「はい。いつもご苦労さま、二人は偉いわね。いつも文句一つ言わずに黙々と働いてくれるから助かるわ」2人の前に紅茶を置いた。「え? ゲルダ様?」「一体突然どうしたんですか?」ジャンとジェフが首を傾げる。「ううん、本当にそう思っただけよ」ニコニコしながら言うと、ジェフが警戒心を露わにして私に尋ねてきた。「ゲルダ様……もしや何か考えていますね?」「え? そうなんですか!?」ジェフがギョッとした顔で私を見る。「ええ、実はね……2人にお願いがあるのよ」「い、一体何をさせようとしているんです?」ジャンが紅茶を飲みなが尋ねる。「それはね……」2人の顔にうんざりした表情が浮かんだのは言うまでも無かった――**** 14時を過ぎた頃にハンス、ケン、クリフの3人が荷馬車に荷物を積んで戻って来た。「お帰りなさい、3人共」ドアを開けて迎えに行くと、荷馬車には数個のトランクケースしか入っていなかった。「あら、荷物ってこれだけなの?」あまりにも荷物の量が少ないのでハンスに尋ねた。「ええ、お恥ずかしいですが……家具も全てついている部屋だったので、衣類しか持っていなかったんです」ハンスの顔が赤くなる。「なーんだ、そんなの気にすること無いじゃない。ここは家具付きの部屋があるから安心して暮らせるわよ」「本当ですか!?」「ええ、それじゃ……」するとそこへ畑仕事が終わったブランカが部屋に現れた。「あ、ちょうど良かったわ、ブランカ。ハンスを部屋に案内してくれる?」「はい、分かりました。こちらへどうぞ」ブランカがハンスに声をかけた。「ありがとうございます!」荷物を持ったハンスが礼を述べる。「俺たちも荷運び手伝うよ」「そうだな」ケンとクリフも荷物を持つと、先頭を歩くブランカの後をついて行った。彼らの後ろ姿を見届けると、私はうでまくりした。「さて、パン作りの練習でも始めようかしら」私の最終目的は自分の店……パン屋をオープンさせることだ。ゆくゆくはこの屋敷を一部改装してパン屋を始めたい……こ
「本当に? 本当にいずれ全て話してくれるんでしょうね?」用心深げにケンに確認する。「ええ、勿論ですよ」ハンドルを握りしめながらニコニコ笑顔で答えるケン。恐らく私と話がしたくて自分のタクシーに乗せたことは理解した。それに 見たところ、悪そうな人間には思えない。「ひょっとして……貴方……」言いかけたものの、ケンによって素早くさえぎらる。「すみません、ゲルダさん。今はまだ何も話せないのですが……いずれ全てお話するので、とりあえず忘れて下さい」そんな忘れるなんて……。けれど何故かケンの顔が真剣で、何処か切羽詰まっているように見えたので、私はそれ以上尋ねるのはやめにした――****「ようこそ、お待ちしておりました」モンド伯爵邸ではブランカが出迎えてくれた。「あ、よろしくおねがいします」「お邪魔します」「ありがとうございます」ハンス、ケン、クリフが挨拶する。「それじゃ、皆中へ入ってくれる?」「「「はい」」」3人は声を揃えて返事をした。 リビングへ通すとすぐに私は3人に尋ねた。「あなた達、住まいはどうなっているの?」するとクリフが答えた。「俺は実家暮らしです。両親と妹の4人で住んでいます」「そう? ここにはどの位の時間で来れそう?」「う〜ん……そうですね。歩いても40分位でしょうか……? あ、でも乗り合い馬車の停車場がありましたよね? あれに乗ればもっと早く来れます」「そう? なら貴方は自宅通勤出来そうね? ケンはどうなの?」「俺はアパートメントに一人暮らしです。乗合馬車を利用すればここまで恐らく20分位で来れますね」「それじゃ、最後にハンスはどう?」「はぁ……実は僕、タクシー会社の寮に入っていたんですよ。だからもう出なくちゃいけなくて……」「そう? ならここに住めばいいわ。ここのシェアハウスの手伝いもしてくれれば格安で入居させて上げるから。ところで寮費はいくらだったの?」「はい、5万シリルです。食費は含まれていません」「ならここは食事付きで7万シリルはどう? その代わり、条件としてこのシェアハウスの運営のお手伝いもすること。どう? 悪い話じゃないと思うけど?」「本当ですか!? 実に良い話ですね! 是非ともお願いします!」ハンスは嬉しそうに頭を下げる。「ええ、それじゃハンス。今日からこのシェアハウスの住人よ。
真っ先に声をかけてきたのはハンスだった。「ええ、お待たせ。貴方たちを迎えに来たわ。ついでにタクシー3台も一緒にね」「本当に助かります……今月まだ3人しかお客を乗せていなかったので、家賃も払えなくなりそうで不安だったんですよ」クリフが胸をなでおろす。「俺は4人ですよ。本当にタクシーを利用する客がこんなにいないとは思いませんでした」ケンがため息をついた。すると――「おうおう、お前らか? 俺のゲルダ様を誘惑しようとしている男たちは。何だ? 1人を除き、ガキどもじゃないか?」まるで私の用心棒にでもなったかのようなガラの悪い態度で3人の若者たちを睨み付ける馬鹿ウィンター。「ちょっと! 何失礼なこと言ってるのよ!」私は慌ててウィンターを睨み付けた。「けど、ゲルダ様! こいつら全員ゲルダ様に色目使ってきてますぜ!?」「はぁ~!?」誰が色目を使っているだって!? 3人の若者達は呆気にとられた様子でウィンターを見ている。「あの~ゲルダ様。この人、何者ですか?」ハンスがウィンターを見ながら尋ねてきた。「うん、良い質問ね。彼は……」すると私が言い終わる前にウィンターは余計なことを言った。「俺か!? 俺はゲルダ様の下僕であり、将来の夫候補のウィンターだ!」「「「えぇ~っ!?」」」のけぞる3人の若者。「ちょっと! 何寝ぼけたこと言ってるのよ!!」私はウィンターを怒鳴りつけた。「いい!? 私にだって選ぶ権利位あるのよ! でもウィンターだけは絶対にお断りですからね!」「そ、そんなぁ~ゲルダ様……」何とも情けない声を上げるウィンターは無視し、私は3人の若者達に向き直った。「それじゃ、社長の処に挨拶に行ってくるからね」「「「はい」」」彼等は返事をし……何故かウィンターまでついて来ようとする。「……ちょっと。一体何の真似かしら?」「え? ですから俺も付き添いに……」「そんな事はいいから、貴方は早く園芸店へ行って肥料を買って帰りなさいっ! さもなくば……」「ひぃっ! わ、分りました! 分りましたから……どうか追い払わないで下さい!」そしてウィンターは逃げるように園芸店へ向かって駆けだして行った。「ふぅ……全く、鬱陶しい奴め……」長い髪をかき上げて、ため息をつくと私はタクシー会社の社長の元へ向かった――****「お待ちしておりま
ウィンターを伴ってタクシー会社を目指す為に辻馬車に揺られていた。馬車の窓から外を眺めていると、不意に向かい側に座るウィンターが声をかけてきた。「ゲルダ様」「何よ」「あのジョシュアって男……いけ好かないです。追い出しませんか?」「はぁ!?」突然の言葉に驚いてウィンターを見る。「ちょっと、何言ってるのよ? 寝ぼけるのも大概にして?」「別に俺は寝ぼけてなんかいやしません。ちゃーんと起きてますって」「大体何で追い出さないといけないのよ? 彼はシェアハウスの住人で、お客様なのよ? 彼は貴重な私達の収入源だと言うことを忘れていない?」むしろ追い出すべき人物は目の前のウィンターが適任だ。「だって……あいつ、俺のゲルダ様に色目なんか使って……ほんっとに自分の年齢を考えて行動しろって言ってやりたいですよっ!」「年齢……」それをならむしろ年齢を考えろと言われてしまうのは私の方だろう。前世と今世の年齢を合わせれば67歳のおばあちゃんになるのだから。ん? そう言えば今、ウィンターは何と言った?「ちょっと! そう言えば……ウィンター。今、私のこと何て言った? 『俺のゲルダ様』って言わなかった?」するとウィンターは開き直ったかのように頷く。「ええ、言いましたよ? 俺のゲルダ様」「ちょっとっ待ちなさい! 私がいつウィンターの物になったのよ? いい? 私はね、『皆のゲルダ様』なんだからね!?」腕組みをして言い放ってやった。そう、私はシェアハウスのオーナー。『皆のゲルダ』なのだから。そんな私をウィンターが呆れた目で見ていたのは言うまでも無い――****「どうもありがとうございました」タクシー会社の前で辻馬車を下ろしてもらった。「い、いえ、またのご利用をお待ちしております」御者は目的地がタクシー会社だというのが嫌だったのだろう。まるで逃げるように馬車を走らせて行ってしまった。そして背後からは待機中のタクシードライバー達の突き刺さるような視線……。「う〜ん……やはりタクシー会社に辻馬車で乗り付けたのはまずかったかしら……」「気にすることはありませんぜ? 文句があるやつは俺が片っ端からのしてやりますよ」ウィンターが指をポキポキ鳴らす。「ちょっと、物騒なこと言わないでくれる。私達はここに喧嘩しに来たわけじゃないんだから。……というわけで、ウィンター
「ゲルダ様〜俺が悪かったですから許して下さいよ〜」辻馬車を降りて銀行へ向かう私の後を何故かウィンターがついてくる。「ちょっと! 何でついていくるのよ! 貴方は園芸店に行って肥料を買ってくるんじゃなかったのっ!?」「いや〜そうなんですけどね、ほら。さっき大金を引き出すから気をつけないとって言ってたじゃないですか? だから護衛……むごっ!」私は咄嗟にウィンターの口を塞ぐと腕を引っ張って、路地裏へと連れて行った。そして辺りをキョロキョロ見渡した。「よし、ここなら人の気配は無いわね……」ここならウィンターに伝えておきたいことを言える。すると何を勘違いしたのか、ウィンターが妙な事を口走った。「こ、こんな人気の無い路地裏に引っ張り込むなんて……ゲルダ様は大胆な方ですよね……?」そして何故か顔を赤らめて私を見下ろす。「はぁ〜っ!? 何訳の分からない事言ってるのよ? いい? とにかくあんな町中で大金を引き出すとか言わないでよっ! いつ、何処でどんな人間に聞かれるか分からないでしょう!? もっと考えて喋りなさいよ!」「ですから護衛をしますって言ってるんですよ」ウィンターはケロリとした顔で言う。全く……最近のウィンターは私が何を言っても堪えないのか、ニコニコする一方である。「……仕方ないわね。それじゃ銀行に行って現金を引き出した後は別行動よ」「それじゃ危ないですって! 銀行にいた人間が後をつけるかもしれないじゃないですか!?」全く……ああ言えばこう言う……。「分かったわよ……それじゃタクシー会社までよ。その後はちゃんと園芸店に行って肥料を買って屋敷に戻るのよ?」「え? タクシー会社の帰りだって危ないんじゃないですか?」「それなら大丈夫よ。私はタクシーに乗せてもらって帰るんだから」「え”? そうなんですか!? まさか早速今日から男をはべらすんですか!?」ぷちっ私がその言葉に再び切れたのは言うまでも無かった――**** 銀行を出た私とウィンターはタクシー会社目指して歩いていた。「しかし、400万シリルも引き出すとは……中々太っ腹ですね?ゲルダ様は」大金をショルダーバッグに入れて歩く私にウィンターは話しかける。「太っ腹とかそういう問題じゃないわよ。何しろこのお金はこれからタクシー3台の買い取りと、3人の若者たちを引き抜くための必要経費なん
「ではゲルダさん、仕事に行ってきますね」ジョシュアさんが笑顔で私に手を振る。「はい、行ってらっしゃい」リビングで洗濯物を畳んでいた私は手を止めてジョシュアさんに挨拶した。ジョシュアさんが嬉しそうに部屋を出ていくと、両端から視線を感じる。「な、何よ……」「何だかすっごく良い雰囲気ですね〜」アネットがからかうような口調で言う。「そ、そんなことないんじゃない?」すると……。「ああ、そうだ。アネット、いい加減なこと言うな!」何故かリビングで玉ねぎの皮むきをするウィンターが口を挟んでくる。「何よ! ウィンター! 大体なんでリビングで玉ねぎの皮なんか剥いてるのよ。洗濯物に玉ねぎ臭がうつるでしょう? あっちでやんなさいよっ!」アネットが文句を言った。「別にちゃんと仕事してるんだからどこでやったって構わないだろう? 大体換気のために窓だって開いてるじゃないか、ほらっ!」ウィンターが指した先には窓があり、大きく開け放たれて外で家財の修繕をしているジャンとジェフの姿が見える。「2人とも……仲がいいわねぇ……」「「はぁ!? 何処がですか!!」」私の言葉に、アネットとウィンターが同時に声を上げた――****「それじゃ、タクシー会社に行ってくるわね」外出着に着替えた私はアネットとブランカに声をかけた。「はい、行ってらっしゃいませ」「行ってらっしゃい、ゲルダさん」2人に見送られながら外に出て驚いた。何と帽子を被ったウィンターがニコニコしながら扉の前に立っていたのだから。「お待ちしてましたよ、ゲルダ様」「な、何でウィンターがここにいるのよ!? 仕事は? 畑仕事はどうしたのよ!」するとウィンターが肩をすくめた。「ええ、それが畑仕事をやろうと思っていたら肝心の肥料が無くなってしまったんですよ。ゲルダ様もこれから町に行くんですよね? 俺も買い物があるので2人で一緒に出掛けましょうよ。別々に出かけるより一緒に辻馬車に乗ったほうが路銀も浮くでしょう?」尤もらしい話をするウィンター。「……全く、仕方ないわね。でも町に着いたら別行動よ? 私は忙しいんだから買い物に付き合ってられないんだからね?」「ええ、それでも構いませんから。さ、早く行きましょうぜ」ウィンターはニコニコしている。……全く何がそんなに嬉しいのだか……。「分かったわ、行きましょう」







