葵はその場に立ち尽くし、顔をこわばらせていた。一方、隆は凪を連れて特別席に座ると、後ろからどよめきが起こった。「本当に西村さんと一緒に前の席に座ったわ。彼女が黒崎夫人に間違いないわ!」「なによこのパーティー!特別席はほんの少しだけで、私たちをわざと立たせてるのかしら?」「なに言ってんのよ。前の席に座れる人たちは、私たちとは住む世界が違うの。後ろに立たせて顔を見せてくれるだけでも、ありがたいと思わなきゃ」葵も、その人たちと一緒に後列に立っていた。それにひきかえ、凪は、堂々と最前列に座っている。どうして。同じ父親を持つのに、どうして凪だけがいい思いをするの。葵は誰かの胸で思いっきり泣きたかった。振り向くと、大輔の視線が凪に注がれているのが見えた。信じられない思いで目を見開く――あの女は、そんなに魅力的なの?大輔は葵の視線にはまったく気づかず、さっきのヒソヒソ話を聞いて、はっと我に返った。なるほど、あの女が本当に凪だったのか。まさか、あんなに口酷い一面があるなんてな。感情を揺さぶられたことで、大輔は凪をさらにおもしろいと感じ、ますます彼女から目が離せなくなっていた。後ろでは、直美と渉も、さっきの謎めいた女性が、まさか空の妻だとは思ってもいなかった。渉が今回ここに来たのは、黒崎グループとの共同プロジェクトを取りつけ、口うるさい親戚たちを黙らせたいからだ。彼は丁重に歩み寄り、黒崎グループのY市モールのプロジェクトについて話そうとした。「あの……黒崎夫人でしたね。先ほどは大変失礼いたしました。どうかお許しください」しかし、直美が一足先に口を開いた。口元には穏やかな笑みを浮かべている。さっき渉の服を汚したと自分を責めたてた時の、怒りに満ちた表情とはまったく違っていた。見事なまでに猫をかぶる女だ。凪はただつまらないと感じ、黙ったまま返事をするつもりはなかった。その様子を見て、渉は、「黒崎夫人」が直美を無礼だと思ったのだろうと考えた。彼はとっさに直美の手を押さえつけ、自分がうまく取り入って、「黒崎夫人」とのパイプを作ろうとしたのだ。まさか直美が渉の手を振りほどくとは思わなかった。彼女の瞳には、狂気がかすかに宿っていた。目の前の女に、夫が外で愛人を囲っていることを知らせさえすれば、凪
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