水琴は再び入念に手を洗うと、火力を強め、買ってきた肉を鍋に投入する。湯気とともに白い灰汁が浮き上がり、熱い蒸気が顔にまとわりついた。じわじわと額に滲んできた汗を、腕で拭おうとしたその時。不意に、横から伸びてきた手が清潔なティッシュでそっと水琴の額を押さえた。「……あ、ありがとうございます」至近距離にある灼也の温かな気配に、水琴は視線を落としたまま、小さな声で礼を言った。灼也はティッシュをゴミ箱に捨てると、手を拭いて野菜を切り始めた。白く、骨格の際立つしなやかな指先。灼也が握ると、ただの無骨な包丁すら芸術品のように見えてくる。鮮やかな緑色の野菜に添えられた手は、眩しいほどに白かった。水琴はそっとその手元を盗み見た。先ほど汗を拭ってくれた指の感触が、まだ額に残っているような気がして、ふいに頬が熱くなる。茹で上がった肉を鍋から引き上げながら、ぽつりと声をかけた。「そっちのピーマン、洗ってもらえる?」「ああ、わかった」灼也は素直に包丁を置き、ピーマンを水洗いし始める。その隙に水琴は包丁を引き継いで野菜を刻み始めた。だが、意識はどうしても隣の灼也に向いてしまい、つい手元がお留守になっていた。「あっ!」「どうした?」灼也がハッとして手を止める。水琴は指先を強く押さえていた。その隙間から、じわりと鮮明な血が滲み出している。よそ見をして、うっかり指を切ってしまったのだ。「指を……切っちゃって」灼也は急いで手を水で流し、ティッシュを取って傷口にそっと押し当てた。「救急箱はどこだ?」「テレビ台の下に……」灼也は手早くコンロの火を止めると、リビングへ向かった。水琴も血の滲む指を押さえたまま、そのあとに続く。傷自体はそれほど深くないはずだが、指先の神経は鋭敏だ。ズキズキと脈打つような痛みが、心臓まで響いてくるようだった。灼也は水琴をソファに座らせると、自分はその前で片膝をついた。救急箱から消毒液を取り出し、綿棒で丁寧に傷口を消毒し始める。「どうしてこんなに不注意なんだ」その声には、隠しきれない心配が滲んでいた。「ちょっと、よそ見しちゃって……」傷口に消毒液が染みて、ヒリヒリと痛む。思わず指を引っ込めようとしたが、灼也の大きな手でしっかりと握り留められてしまった。「よそ見?」深く、甘く響きのある声が問いかけてくる
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