一颯もまた、平静を装う余裕を失っていた。彼はすぐさま隣の笑美を睨みつけた。「おい、どういうことだ?いったい誰がバックにいるんだ?」笑美は顔も上げず、冷ややかに返す。「そっちには関係ないでしょ」一颯は眉間に深いしわを寄せた。「笑美、私はキミの兄だぞ。同じ清水家の人間だっていうのに、どうして水臭い真似をするんだ?フライテックの案件は将来性抜群だ。私も出資して、追加パートナーとして参画するつもりだよ」笑美は呆れ果てたような、何とも言えない視線を兄に向けた。一颯は唇を噛み、さらに畳みかける。「いいか、前から言ってるはずだ。優良なプロジェクトに、懸念材料は排除しておくべきだとな。キミが温井と親しいのは知ってる。だが大局を見ろ。彼女をプロジェクトから外せ。この件だけは私の言うことを聞くんだ。キミを不幸にしたくないから言ってるんだぞ」笑美は冷ややかな笑みを浮かべると、バンッ、と箸をテーブルに叩きつけた。「他人が苦労して作った城に、後から入城しようなんて、あまつさえ追加投資?はっ、どれだけ都合のいい夢を見てるんだよ」「笑美、なんだその言い草は」一颯が不機嫌さを隠そうともせずに唸る。「守秘義務があるから詳しくは言えないけど……これ以上、紬をいじめるような真似はしないで。そのうち後悔するよ」笑美はそれ以上話す価値もないとばかりに立ち上がると、去り際に笑いながら一颯の肩をポンと叩いた。「甘い汁どころか、おこぼれだって期待しないことね」実のところ、笑美は知っていたのだ。かつて一颯が、紬に密かな好意を寄せていたことを。だが、紬が結婚して慎の付属品に成り下がって専業主婦に収まったと聞いた途端、一颯の態度は一変した。彼女の粗探しばかりをするようになったのだ。そこから、歪んだ偏見を募らせていった。一颯には理解できなかった。なぜ笑美がそこまで頑なに紬を庇うのか。今の紬になど、何の取り柄もないはずだ。笑美も承一も、どうして喜んで紬などに担がれているんだ?居ても立ってもいられなくなった一颯は、正樹や陸といった知人に連絡を入れ、情報を探り始めた。……フライテックのオフィス。午前中、紬は一度も休憩を取らずに没頭していた。出資が決まってからというもの、処理すべき案件が山積みだったのだ。家の片付けには行かなか
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