出張の辞令は、あまりにも唐突だった。一介の広報部員でしかない自分が、いったい何の用務で慎と同行しなければならないのか、紬にはどうにも腑に落ちなかった。しかも——車の前に立った瞬間、思わず首を傾げた。「……車で行くの?」あんなに遠方だというのに、車で?慎はいつものスーツ姿ではなく、黒を基調としたシックなカジュアルウェアを纏っていた。トランクにスーツケースを押し込みながら、何食わぬ顔で答える。「ああ。ついでに沿道の視察も兼ねてな」何かがおかしい。紬は訝しんだ。だが、代表がそう言うのなら、疑問を差し挟む余地などない。半信半疑のまま、彼女はおとなしく助手席に収まった。慎がサングラスを差し出してきた。「眩しかったらかけろ」受け取ってよく見ると、慎が胸元に下げているものとまったく同じデザインだった。なぜか、胸がトクリと跳ねる。「……もしかして、わざわざ用意してくれたの?」「まとめ買いだ」「…………」見事な玉砕である。もう何も言うまいと、紬は口をつぐんだ。それでも、目的地まで車で向かうというのはやはり引っかかり、しばらく迷った末に思い切って尋ねた。「体力的に、大丈夫?」慎がちらりと視線を向けてきた。その眼差しには、どこか含みがある。「……俺の何を疑っているんだ?」「……っ」言葉の裏にある意味に気づいたのは、一拍遅れてからだった。慌てて言い直す。「ち、違うの、そういう意味じゃなくて——その、私、卒業の一ヶ月前にやっと免許を取ったばかりで、まだ若葉マークも取れてないよ。長距離で疲れても、代わりに運転できないから……」耳まで真っ赤に染まっているのが、慎には丸見えだったに違いない。少しからかっただけで、これほどいい反応を返す。まだ本気を出してもいないというのに。慎はハンドルを緩やかに切りながらルームミラーをちらりと確認し、口角をわずかに上げた。「居眠り運転でもしたら、最悪お前を道連れに溝へ落ちるだけだ。運を天に任せるということだな」「……」そんなことを言われて、目を閉じられるわけがない。眠くて死にそうになっても、ひたすら見張り続けるしかなかった。案の定、道中の八時間、慎はずっと気づいていた。紬がひとときも気を緩めず、まん丸に見開いた目でただ前方を見据え、シートベルトを両手で握りしめたま
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