会場はホテルの向かい側で、距離はさほど遠くはない。翌日、紬が起きた時には体調はかなり良くなっていて、喉がナイフで切られるような痛みはなくなっていたが、それでも念のためにもう一度薬を飲んだ。交流会の後には、レセプションが予定されている。イベントは、15時から21時頃まで──昼時、ドアベルが鳴った。ドアを開けると、紬は意外にも目の前に立つ柊の姿を見て、驚いた。「顔色がすごく悪いけど、どうした?」柊は紬を見るなり、眉をひそめた。彼女はまだ化粧をしておらず、唇の色も薄い。「具合が悪いのか?薬は飲んだか?病院に連れて行こうか?」彼は、手を伸ばして紬の額に触れようとした。紬は、彼の目に滲む純粋な心配の色を読み取った。それでも一歩後ずさり、彼の視線を避けた。「何かご用?」柊は松永グループの次期後継者であり、この種の会合に参加するのも珍しいことではない。紬の、そのよそよそしい様子に、柊は眉間にしわを寄せ、長い間を置いてから、手にしていた箱を差し出した。「気に入るかどうか、見てみてくれ。今日のイベントは格式が高いから、君にもちゃんとしたアクセサリーが必要だと思ってさ。これは、君に似合うよ」紬は、その高級ブランドのロゴに目をやった。「いらないわ」彼女は、唇を引き結んだ。柊は有無を言わさず、それを彼女の手に押し込んだ。「まだ子供の頃と同じで、何を強がってるんだ。僕が来たのは、君のお母さんの三回忌のことを聞きたくてな。もし盛大にやるなら、事前に教えてくれ。一緒に行くから」紬は少し驚いた。柊が、まだ覚えていてくれたとは思わなかった。彼女の母は一昨年亡くなり、今年がちょうどその三回忌にあたる。慎でさえ、このことを心に留めているかどうか──「じゃあ、また会場で」柊は携帯に目を落としながら、習慣的に手を上げて彼女の髪を撫で、背を向けて去っていった。彼女には分かった。柊の真心には、どこか打算が混じっている。だから、彼女も本気にはしない。紬はドアを閉め、箱を開けて一瞥した。三日月と星をかたどった、ダイヤモンドのネックレスだった。彼女は小さい頃から宇宙に興味があり、関連書籍を読む傍ら、天体望遠鏡を買って、夜空の月や星を観察していた。どうりで、柊が似合うと言ったわけだ。自分の好みを、覚えていてくれたのも珍しい─
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