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29話

作者: 籘裏美馬
last update 最終更新日: 2025-10-24 19:25:01

スマホの画面には【御影直寛】の文字が表示されて、私は一瞬固まってしまった。

どうして、こんな朝早くに。

まさか、もう熱愛記事に気がついたのだろうか。

それとも、他の事だろうか──。

私が動揺している間に、御影さんからの電話は切れた。

電話が切れてしまった事に、私はほっとしてしまう。

けど、それも束の間。

「──ひっ」

再び、私のスマホに御影さんから着信が入る。

なんで、どうして──。

今まで、こんな事は1度だってなかった。

そもそも、御影さんから私に連絡がくるなんて事も、ほぼなかったのだ。

私から御影さんに連絡ばかりして、時折返ってくる御影さんからの連絡に一喜一憂して…。

御影さんから連絡がきただけで、その日一日とても幸せに過ごせていた。

裏で、御影さんが何をしていても。

私と婚約を結びながら、裏で涼子と夜を過ごしていたとも知らず、私は御影さんの返信1つだけで馬鹿みたいに喜んで。

私は、鳴り続けるスマホをぎゅっと握り締める事しかできない。

もう、御影さんの電話1つで喜ぶ事はできなくなってしまった。

私がいつまでも電話に出ない事で、御影さんもやっと諦めてくれたのだろう。

ようやく電話が鳴り止み、私はほっとしてリビングのテーブルにスマホを置いた。

次の瞬間、自宅のインターフォンが鳴った。

「──っ!?」

嫌な事を思い出す。

先日も、御影さんが家にやってきたのは記憶に新しい。

「でも…前回は虎おじさまのパーティーの件があったから、私の家に来たけど…今回は特に何も用はない、わよね…?」

熱愛の記事が出たのは、今さっきだ。

それを見たとて、御影さんがわざわざ私に釈明をしにくるはずがない。

そう考えつつ、私はインターフォンのモニターを確認する。

すると、そこには。

「御影さん……」

またもやいるはずのない人物がそこに立っていて、私はその場で硬直してしまう。

その間にも、立て続けにインターフォンが鳴り、私ははっとして辺りを確認する。

こんな、首元が広がっている服を着ていたら、痕が見えてしまう。

きょろきょろと周囲を確認し、私は羽織る物を手にしてからインターフォンに対応した。

「今日は随分遅い起床だったのか…?」

「そう、ですね」

「体
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