カツン、と不自然に足音が私の近くで止まった事に、不思議に思う。 この庭園カフェに来たお客さんなら、私の近くにある出入口の扉に真っ直ぐ向かうはず。 それなのに、その止まった足音はお店に入るでもなく、何故か私の座るベンチに近付いてきた。 不思議に思い、私が顔を向けようとした時。 「──茉莉花お嬢、さん……?」 「──え」 過去、とても恋しくて。 彼に名前を呼んでもらうだけで幸せを感じた声が、私の名前を呼ぶ。 ここ最近は彼の事を思い出す事なんて1度も無かった。 苓さんの声に名前を呼ばれる事が多くて、苓さんの声に慣れていた私の耳には、彼の私を呼ぶ声が少し不快に聞こえた。 見なくても分かる。 分かるけど、名前を呼ばれてしまった以上、彼に挨拶を返さなくては失礼。 私はそっと苓さんのマフラーから手を離し、呼ばれた方に顔を向けながら立ち上がる。 「……御影さん。お久しぶりです」 「あ、ああ…。どうして茉莉花お嬢さんがここにいるんだ…?」 御影さんが私のいる方に歩いて来ようとした瞬間、彼の影に隠れていたのだろう。 速水涼子が怯えたように小さく声を漏らした。 「──ひっ」 「涼子……!」 御影さんはハッとしたように表情を変え、私から涼子を守るように立ちはだかった。 「まさか……俺の行動を監視していたのか…?」 「──え?」 「もうこう言う事はやめてくれ。涼子だって茉莉花お嬢さんに怯えている。これ以上俺の周りをうろちょろしないでくれ」 「な、何をいきなり…!」 御影さんの事なんて、全く頭になかった。 苓さんと過ごしている間、御影さんの事なんて思い出しもしなかったのに。 こんな言いがかりはないわ。 だから、私は御影さんに言い返そうとしたのだけど、私が口を開くより先に御影さんが吐き捨てるように告げた。 「茉莉花おじょうさんも執拗い人だ。……まさか、あの時の熱愛記事も、茉莉花お嬢さんがわざと記者にリークしたのか?呆れた女だな……」 「なっ、なんて事を言うんですか!?それは言い過ぎですし、記事なんて私知りません!言い掛かりはよしてください!」 「こうやって俺の周囲を嗅ぎ回っているのがいい証拠だろう。こうやって先回りしても俺は茉莉花お嬢さんなんて好きじゃないし、君と婚約を結び
Terakhir Diperbarui : 2025-11-14 Baca selengkapnya