何で、こんなところにいるのか。 私は信じられない気持ちで、その男性がいる方向へ顔を向けた。 「──御影、さん」 「話したい事があって、家に行くところだった。どこに行く?送って行く」 「……電話を下されば良かったのに。外で会うのは……」 「…茉莉花お嬢さんの番号は削除した。どうせ暇で家に居ると思っていたからな。車に乗ってくれ」 御影さんは、私の予定など気にもせずさっさと車の方に歩いて行ってしまう。 ドアを開けて不機嫌そうに私を待っている姿に、私は彼から視線を逸らした。 「お話なら、ここで。この後予定があるので、御影さんの車では行きません」 「……はっ。そんな演技は無意味だからやめてくれ。時間が惜しい。早く乗って」 「あっ、ちょ──っ」 御影さんは、面倒臭そうに私に近付いてくると、私の腕を掴み、そのまま車に向かって歩いて行く。 御影さんの行動は、何一つ私を鑑みてくれていない。 苓さんと歩いていた時は、歩幅の違いも、歩く速度も、全く気にならなかった。 身長が高い苓さんだって、こうして目の前の御影さんのように歩幅は広いはず。 それなのに、私は苓さんが歩くのが早い、とか触れる手の力が強くて痛い、とか。 そんな風に思った事は1度もなかった。 それなのに、今は御影さんが歩く速度が早くて。 私は小走りになってしまっているし、御影さんが掴んでいる私の腕は、痛みを訴えている。 皮肉にも、御影さんと会って分かる。 苓さんがどれだけ私に合わせて行動してくれていたか。 苓さんがどれだけ優しい人なのか。 ぎちり、と食い込んだ御影さんの指がとても痛くて、私は顔を歪めた。 車に乗せられてしまった私は、御影さんに病院の住所を伝え、窓の外に視線を向けていた。 どうして御影さんが私に会いに来たのか、理由が本当に分からない。 それに、御影さんも車に乗ってからは何も喋らなくて、私たちの間には沈黙だけが落ちていた。 病院まであと少し、という所で。 今までだんまりだった御影さんが徐に口を開いた。 「……昨日の、怪我は大丈夫だったか」 「昨日……?」 御影さんに問われた事が一瞬分からなくて、私は聞き返してしまうけど、真っ直ぐ前を見
最終更新日 : 2025-11-19 続きを読む