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80話

Author: 籘裏美馬
last update Last Updated: 2025-11-19 08:36:15

どすん!と大きな音が鳴り、びっくりした私はソファから身を起こす。

苓さんがソファから落ちてしまったのでは──。そう思った私は、苓さんに声をかけようとしたけど、私が声を発するより先に苓さんが口を開いた。

「きょ、今日はありがとうございました茉莉花さん。足の怪我、ちゃんと手当てを受けてくださいね。その…っ、俺はここで失礼します!また!」

「あっ、苓さ──」

苓さんは勢い良く頭を下げると、部屋の扉から素早く外に出て行ってしまった。

私は苓さんが出て行ってしまう姿をぽかんとしながら見送るだけしかできなくって。

苓さんが帰り、途端静かになった自分の部屋で1人きりになった瞬間、恥ずかしさがこみあがって来た。

「わ、私は…っ、さっきまで苓さんと…っ」

苓さんとこの部屋でしていた事を思い出し、ぶわわっと顔が真っ赤になる。

それに、苓さんは冗談のつもりでキスを強請った、と言っていた。

もっと危機感を持って、と私に言いたくて。

それなのに、私は本当にキスしてしまって──。

はしたない、と。

苓さんに呆れられていないだろうか、と不安になる。

けど──。

私は、自分の唇にそっと触れた。

「苓さんが、もう1回、って…キスしたもの…」

何度も何度も、唇が重なり合った。

あの夜のような深いキスじゃなかったけど。

可愛らしい音を奏でて、何度もついばまれて──。

そこまで思い
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Comments (1)
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知佳子
茉莉花と苓の関係がもどかしい 早く恋人関係になればいいのに 一話ずつの内容が少ない。 せめて行数を詰めて内容を多くしてほしいな もう少しテンポよく話を進めて欲しい やっと元婚約者の執着がはじまるのかな?
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