大奥様は静奈の異変に気づき、少し慌てた。「静奈、どうしたんだね?急に泣き出して。また誰かにいじめられたのか?」「いえ……違います」静奈は慌てて涙を拭い、首を振って無理に落ち着いた。「ただ、おばあさんが悲しそうなお顔をなさっていたので、私まで辛くなってしまっただけですわ。どうぞ、お気になさらないでください。平気です」彼女はもう、あの写真を見ることができなかった。自分の感情が、抑えきれなくなりそうだったからだ。彰人は傍らに立ち、静奈のその反応を、全て目の当たりにしていた。彼女が兄、遥人の写真を見た瞬間の呆然とした様子。そして、突然こぼれ落ちた涙。そのすべてが言いようのない奇妙さを帯びていた。彼女が……兄を、知っている?その考えが浮かんだ途端、彼はそれを押さえつけた。あり得ない。恐らく、亡くなった自分の両親を思い出しただけだろう。兄と彼女に接点などあるはずがなかった。静奈は大奥様を支えて階下へ降りた。彼女は持ってきた菓子折りを開け、一口サイズにちぎって大奥様の口元へ運んだ。「おばあさん、お好きだと伺っていたお菓子を買ってまいりました。まだ温かいですわ。どうぞ、一口」大奥様は彼女の瞳に宿る気遣いを見て、ついに口を開き、小さく一口食べた。「相馬さんから伺いました。今日一日、何も召し上がっていないと。厨房でお粥を準備させました。熱くありませんから、半分だけでも、召し上がっていただけませんか?」静奈はまるで子供をあやすようにして、大奥様に少しずつ食べさせた。彰人は傍らに立ち、まるで人形の置物のように、そこにいるしかなかった。大奥様は彰人本人よりも、静奈に対してよほど心を許していた。一日座りっぱなしだったせいか、大奥様も疲れが出たようで、早めに自室へ戻られた。相馬は静奈に向かってこっそりと親指を立てた。「若奥様、さすがでございます。若奥様がいらっしゃったからこそ、大奥様も、ようやく少し召し上がってくださいました」静奈は微笑み、何も言わなかった。まさにその時、彰人の携帯電話が鳴った。画面に浮かんだ「朝霧沙彩」の文字が、ひどく場違いに見えた。彰人は脇へ寄って電話に出た。「もしもし」受話器の向こうから、沙彩の声が聞こえた。わざとらしく心配そうな声色だった。「彰人さん、おばあさんのご
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