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第34話(21)

「何言ってるんだ。ぼくが襲撃を受けたかもしれないんだろ。そんなぼくと、長嶺組の大事な跡目を同じ部屋に泊まらせるなんて、できるはずがない。お前がどうしてもと言い張るなら、ぼくから組長に連絡するぞ」「残念。オヤジは行事に顔を出していて、電話は通じないよ。先生のことも、まだ耳に入ってないかもしれない。オヤジがいない以上、先生のことで指示を出せるのは俺。その俺が、先生の側にいたいんだから――」「ますます、ここに泊めるわけにはいかないっ。何があるかわからないんだから、早く本宅に戻れっ。いざとなれば、会長に連絡するぞ」 千尋が拗ねたように唇を尖らせたので、和彦は奥の手を使うしかなかった。 大きくため息をつき、視線を伏せる。力ない声でこう訴えた。「――……一人になって、落ち着きたいんだ。今のぼくは、お前にまで気をつかえる余裕はない。ぼくを心配するなら、お前はお前の身の安全を考えてくれ。それと、お前を支えている人たちのことも。お前一人の身じゃないんだぞ」「それは先生だって同じだろ……。でも、一人になりたいという気持ちはわかる。先生の心配が減るというんなら、今晩は帰る」 素直な千尋を騙したような罪悪感の痛みを押し隠して、和彦は小さく頷いた。** 精神的にも肉体的にも疲弊しているのだが、この夜はまったく眠れる気がしなかった。 テレビのニュース番組を漫然と眺めてから、電源を切る。千尋の話を聞いたせいだろうが、ホテルの一室に身を置いていると、外では凄まじい嵐が吹き荒れていながら、自分だけが何も知らずぼんやりしているのではないかと、焦燥感のようなものが生まれる。 ベッドに横になろうとして気が変わり、部屋に備えつけの冷蔵庫から缶ビールを取り出そうとしたが、結局、冷たいお茶を選んでいた。 グラスにお茶を注いでいると、ナイトテーブルの上に置いた携帯電話が鳴る。今は誰かと話すのはひどく億劫だと思ったが、表示された相手の名を確認すると、無視するわけにはいかない。『――起きていたか』 夜更けであろうが、普段の落ち着きも艶もまったく失っていない賢吾の声は、
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第34話(22)

 御堂について、そこまで言い切られるというのも、複雑な心境だ。正確に表現するなら、嫉妬だ。御堂と直接会って話すことで、この感情を自分の中で上手く処理できたと思っていたが、甘かったようだ。それとも、今という状況のせいだろうか。「……信頼、しているんだな」『それもあるが、俺はあいつの性格がわかっている。――昔からのつき合いだから、秋慈はよく知っているんだ。俺がキレると、どれだけ面倒で厄介なことになるか。それに自分が巻き込まれることもな。だからそうならないよう、手を回す。つまり、そういうことだ』 とりあえず納得はできる答えだったが、和彦は別のことが気になり、つい呟いていた。「あんたでも、キレることがあるのか……」『蛇の怒りは冷たくて陰湿だ。みっともないから、先生には見せたくねーな』「ぼくも……、そんな怖いもの、見たくないな」 物騒な大蛇を背負う男相手にこんなことを言えるのも、オンナの特権なのだろうなと、和彦は密かに苦笑を洩らす。 ここで賢吾が、電話の向こうで誰かと抑えた声音で話すのが聞こえた。こんな時間だというのに、まだ周囲に人がいるようだ。「仕事中だったのか」『先生が気にするな。俺がどうしても、先生の声だけでも聞いて安心しておきたかったんだ』 この瞬間、胸の奥から強い衝動が湧き起こり、和彦は早口にこう告げた。「もう安心しただろ。切るからな」 慌てて電話を切って起き上がると、グラスに注いだお茶を一気に飲み干す。 ごく自然に、賢吾の顔が見たいと願った自分に、ひどくうろたえていた。それと同時に、心細さを自覚する。 少し前まで当然のように享受していた、怖い大蛇に守られる安堵感が恋しかった。**** 翌朝、うつ伏せの姿勢で目を覚ました和彦は、起き上がろうとして顔をしかめる。肩だけでなく、体のあちこちが軋むように痛んだからだ。原因は考えるまでもなく、昨夜の車の衝突のせいだ。動けないほど痛みがひどいわけではなく、筋肉痛のようなものだ。
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第34話(23)

「勝手に入ってきたのが気に食わないなら、昨夜のうちに、同じ部屋で泊まっていたほうがよかったか? そうしてもよかったんだが、繊細なあんたのことだ。気が休まらないだろうと思って、遠慮したんだが」 これまで、寝込みを襲われる形で南郷にされた行為が蘇り、和彦は身を震わせる。何もかも見透かしたように南郷が見つめてくる。その視線から逃れるように顔を背け、出勤の準備をする。「今日はクリニックを休んでおとなしくしていてもらいたい、というのが、本音だ」「予約が入っているので無理です。ぼくに怪我もないですし、おとなしくしている理由がありません」「あんたが狙われたというのは、けっこうな理由だろ」「それは……、ぼくにはわかりません。総和会の車に、たまたまぼくが乗っていただけなのかもしれませんし」 和彦の空しい抗弁を、南郷は鼻先で笑った。「本当にそう思うか、先生?」 南郷との会話は、いつでも神経がささくれ立つ。和彦は、もう話す気はないと、唇を引き結ぶ。 早く南郷との二人きりの空間から逃げ出そうと、アタッシェケースと、着替えの入ったバッグを手にしたとき、和彦の携帯電話が鳴った。無視するわけにもいかず、荷物を置いて携帯電話を取り出す。次の瞬間、激しく動揺していた。 よりによってこのタイミングで電話をかけてきたのは、鷹津だった。鷹津は、長嶺組や総和会の動きに聡い。おそらく、何かあったと気づき、和彦に探りを入れるつもりなのだろう。 南郷を目の前にして、鷹津からの電話に出るわけにはいかない。和彦は半ば反射的に、携帯電話の電源を切っていた。その行為が、南郷の不審感を煽るだけだとわかっていながら。 案の定、笑みを消した南郷が、和彦との距離を詰めてきた。「――誰からの電話だ」「南郷さんには関係ないでしょう」 和彦は後ろ手に携帯電話を隠しながら後退ろうとしたが、南郷に腕を掴まれて阻まれる。「あんたの今の態度、俺に知られたらマズイ相手だな。そうなると、相手は限られそうだが……」 軽く揉み合いとなり、南郷のもう片方の手が肩にかかる。ちょうど、痛めている
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第34話(24)

**** 和彦は四日間、ホテルを転々とする生活を送った。クリニックから出て護衛の車に乗り込むと、その日宿泊するホテルに連れて行かれるという具合だ。 何も教えられないまま、ホテルの部屋で一人で過ごしていると、あれこれと考え込んでしまい、気が滅入りそうになったが、和彦の性質をよく理解している身近な男たちによって救われた。千尋が毎日電話をくれたうえに、中嶋も、ホテル内でとはいえ夕食につき合ってくれたのだ。 そして五日目に、仕事を終えた和彦が車に乗り込むと、総和会本部に戻れることになったと告げられた。 さすがに、車がぶつかってきた現場を通過するときは緊張したが、特に問題が起こることなく、和彦の身は安全に総和会本部へと送り届けられた。 すでに連絡を受けていたらしく、照明で明るく照らされている駐車場には、吾川が待機していた。 九月に入ったとはいえ、夕方でもまだ蒸し暑い中、わざわざ外で自分を待つ必要などないのにと、和彦は心の内で思う。いまだに総和会で恭しく扱われることには慣れない。 車を降りた和彦に対して、さっそく吾川は穏やかに微笑みかけてきた。「お疲れになったでしょう」 曖昧な返事をした和彦を促して、吾川が歩き始める。「ホテル暮らしで不安に思われたかもしれませんが、決して本部が危険だったというわけではありません。ただ、慌しくしていたのは確かですから、その様子を先生にあまりお見せしたくないということで、ホテルに部屋をお取りしました。本来であれば、長嶺組にお預けするのが筋なのかもしれませんが、もし万が一、先生がまた襲撃されるようなことになりましたら、少々問題が複雑になりますので――……」 裏口から入ってエレベーターホールに向かいながらの吾川の説明に、和彦は想像力を働かせる。 長嶺組が和彦の身柄を預かったあと、また和彦が襲撃を受け、仮に怪我でもしたら、総和会という組織は、長嶺組の責任を問わないわけにはいかないだろう。一方で、何事もなかったとき、長嶺組は総和会を問い詰める口実を得ることになる。〈オンナ〉の身一つ守ることができないのか、と。 立てよう
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第34話(25)

 吾川は奥まった場所にあるドアの前で立ち止まり、鍵を開けた。促されて一緒に中に入った和彦は、目の前の光景に面食らう。きれいなフローリングに、家具や電化製品が配置されたワンルームがそこにあったのだ。「ここは……?」 吾川が玄関で靴を脱いだので、和彦も倣って部屋に上がる。おそるおそる室内を見回すと、こじんまりとしたキッチンまであった。「先生のためにご用意した部屋です」「……ぼくのために、ですか?」「さきほども申しましたが、会長の部屋では、人の出入りが気になるでしょう。ここでしたら、先生お一人で過ごしていただくことが可能です。招かれない限り、我々が部屋に上がることはございません。ただ、先生が出かけられている間に、掃除などを済ませる許可はいただきたいのです」「えっ、ああ、それは――……」 吾川の説明の半分は、呆然とする和彦の耳を通り抜けていく。なんとなく、壁紙やカーテン、敷かれたラグの色を確認して、最後にアコーディオンカーテンに目を留める。それに気づいた吾川が、アコーディオンカーテンの向こうにあるものを見せてくれた。「ユニットバスですので、のびのびと入浴、というわけにはいきませんが、お好きなときにシャワーを浴びていただくことはできるかと思います」 見た限り、部屋の何もかもが真新しかった。壁紙もフローリングも張り替えたばかりのようだし、今説明を受けたユニットバスも、使われた形跡はない。まさか、と思って吾川を見ると、頷いて返される。「先生が昼間いらっしゃらない間に、もともと使われていなかった宿泊室の壁を取り壊して、二部屋分のスペースを改装しました。それでも広いとは言い難いでしょうが、こちらでしたら、先生の私物ももっと運び込んでいただけると思います。もちろん、必要なものを言っていただければ、こちらでご用意もいたしますので、遠慮なくおっしゃってください」 自分が知らない間に、こんな大規模なことが粛々と行われていたのかと思うと、急に虚脱感に襲われる。立っていられず、堪らず側のソファに腰を下ろした。 ふと思い出したことがある。先日、クリニックの候補地を見学
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第34話(26)

**「――今夜のあんたは、思い詰めた顔をしているな」 いつものように血圧を測っていた和彦は、柔らかな口調で守光に指摘され、ハッとする。咄嗟に言葉が出ず、うろたえていると、守光は口元に微笑を湛えた。 吾川に部屋を見せられてから、ずっと困惑している和彦とは対照的に、今夜の守光は、夕食時に顔を合わせてからずっと機嫌がいいように見えた。「すみません……」 血圧計を片付けてから改めて、布団の傍らに座る。「あんたのために部屋を用意したことを、重圧に感じているかね?」 守光の言葉に、和彦は曖昧に首を動かす。はっきりと否定するのが礼儀なのだろうが、どう取り繕おうが、守光にはすべて見通されるはずだ。「複雑な、気持ちです。ぼくにここまでしてもらえるほどの価値があるのかと、誰よりも疑っているのは、きっとぼく自身だと思います」「あんたの価値は、周囲の男たちが決めている。だからあんた自身にはピンとこないのだろう。言葉を費やして説明して見せても、所詮は極道の戯言だと、心のどこかで思ってもいるのかもしれん」「いえっ、そんな――……」「それは仕方がない。もともとが、生きている世界が違っていて、賢吾や千尋が、強引にあんたをこちらの世界に引き込んだ。憎まれ、拒まれても仕方がないのに、それでもあんたは、こちらの男たちを受け入れてくれる。他に方法がないにせよ、あんたが示してくれる愛情深さも優しさも、男たちにとってはかけがえのないものとなっている。わしはそれに報いたい」 冷徹ともいえる両目でじっと見据えられ、和彦は息も詰まりそうになる。正直、今言った『愛情深さ』も『優しさ』も、守光が求めているとは思えなかった。もっと別の何かを和彦に期待し、得ようとしているようだ。 それがなんであるか知ることは、今いる世界のとてつもない深淵を覗き込むことになると、確信めいたものがあった。しかし、いくら目を背けようが、守光は眼前に突きつけてくるはずだ。 守光が片手を伸ばし、和彦の髪を撫でてくる。「頭のいいあんたには、どれだけ耳あたりのいいことを言ったところで無駄だろう」
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第34話(27)

 本能的な怯えが全身を駆け巡り、動けなかった。守光にやすやすと布団の上へと押し倒され、和彦は顔を強張らせたまま、守光を見上げる。考える前に、こんな言葉が口を突いて出ていた。「……どうして、ぼくなのですか……」「あんたは、長嶺の男とこれ以上なく相性がいい。理由など、それで十分だと思わんかね?」 そう言いながら守光の手に浴衣の帯を解かれる。和彦は身じろぎもせず、じっと守光を見上げ続ける。向けられる視線の強さから、和彦が考えていることがわかったらしく、守光は短く声を洩らして笑った。「納得いかないという様子だが、事実だよ。千尋はもちろん、賢吾まで骨抜きにしたあんただからこそ、わしは興味を持った。そしてわしも、あんたに骨抜きだ。賢吾たちは、あんた込みの長嶺組の将来を描いているだろうが、わしは、あんた込みの総和会の将来を描いている。つまり、わしらにとってあんたは、欠かすことのできない存在というわけだ」 浴衣の前を開かれて素肌を晒すと、容赦なく下着も引き下ろされる。守光は、満足げに和彦の裸体を見下ろしながら、胸元に冷たいてのひらを押し当ててきた。「――欠かすことができないということは、組織にとっても、長嶺の男たちにとっても、あんたは血肉になるということだ。あんたによって、男たちは生かされる」 なぜだか鳥肌が立った。和彦の反応に、守光は楽しげに目を細める。 ゆっくりと守光の顔が近づいてきて、このときほど目隠しが欲しいと思ったことはないが、目を閉じることもできず、狡猾な生き物が潜む両目に見つめられながら口づけを受け入れた。 丹念に唇を吸われて、口腔に舌が侵入してくる。決して性急になることのない、いつもの守光の口づけだった。和彦を味わい尽くすように口腔で舌が蠢き、歯列や粘膜をまさぐり、まだ眠っている官能を少しずつ刺激していく。その間も、守光の冷たいてのひらは和彦の体をまさぐっていた。 舌先同士が触れ、擦りつけ合ってから、唾液を絡めるようにして妖しく舌がもつれ合う。和彦が微かに喉を鳴らすと、守光の片手が喉元にそっと這わされていた。力を込められたわけではないが、今にも首を絞められるのではないかという怯えは、圧迫
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第34話(28)

 唾液を流し込まれて従順に受け入れると、再び流し込まれ、そのまま濃厚に舌を絡め合っていた。 和彦の喉の嚥下の動きを楽しんだのか、唇が離れると同時に、喉元からも手が退く。その手は、迷うことなく和彦の両足の間へと這わされ、欲望を握り締められる。和彦の欲望は、いつの間にか身を起こしていた。「賢吾には、しつこいほど言われていた。あんたに痛みを与えることだけは絶対にしてくれるなと。そのあんたは、痛み以外のものには、よく反応する。羞恥や屈辱、さっきのような苦しさにも。――命の危険を感じて反応するとは、本当に、どれだけ淫蕩な性質を持っているのか」 そう言いながら守光のてのひらに欲望を扱かれ、羞恥に身が燃えそうになる。和彦は顔を背けたが、体は無防備なままで、守光に両足を大きく左右に広げられても、抵抗すらしなかった。「うっ、うっ」 片手では欲望を扱きながら、守光のもう片方の手が柔らかな膨らみに触れてくる。さんざん男たちによって弄ばれ、慣らされたため、本能的に体を強張らせながらも、強い刺激を期待して腰が妖しく揺れる。繊細に蠢く指に柔らかな膨らみを丹念に揉みしだかれ、探り当てられた弱みを弄られる。たまらず和彦は甲高い声を上げて身悶えていた。「いっ……、あっ、あっ、んんっ――」 欲望の先端を指の腹で擦り上げられて、自分がもう濡れ始めていることを知る。「苛まれて悦ぶとは、いやらしいオンナだ」 愉悦を含んだ声で呟いた守光が、両足の間に顔を埋める。欲望を口腔に含まれて、和彦は腰を震わせて仰け反っていた。根元を指で擦り上げられながら、口腔の粘膜によって欲望は包み込まれ、締め付けられる。愛撫自体の巧みさもあるが、この愛撫を施しているのが守光だということに、官能を刺激されていた。「ひっ……」 先端を舌先でくすぐられたあと、括れにそっと歯が当てられる。硬い感触は恐怖を感じるには十分だが、しかし和彦の全身を貫いたのは、快美さだった。隠しようのない反応として、先端からはしたなく透明なしずくを滴らせると、守光は喉を鳴らして笑った。「こういう反応を見ると、ついこう思ってしまう。――そもそもあんたは、本当に痛み
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第34話(29)

 もう一度たっぷりの潤滑剤を内奥に施されてから、浴衣の前をわずかに寛げた守光が腰を密着させてくる。落ち着いた佇まいからは想像できないほど高ぶった欲望が、すっかり慎みを失って色づいた内奥の入り口に押し当てられたかと思うと、身構える間もなく押し入ってきた。「ううっ――」 感じやすくなっている内奥の襞と粘膜が、強く擦り上げられて歓喜する。和彦は喉元を反らし上げて目を閉じていた。瞼の裏で鮮やかな閃光が飛び交い、もしかすると放埓に声を上げていたのかもしれないが、この瞬間和彦は、快感の嵐に翻弄され、何もわからなくなっていた。内奥の刺激だけで絶頂に達していたのだ。 ようやく自分を取り戻したとき、激しい呼吸を繰り返しながら、すがるように守光を見上げていた。「あんたを血肉にするどころか、わしのほうがあんたに食われそうだ。――わしの肉でも、欲しがってくれるかね?」 うっすらと笑みを浮かべた守光が軽く腰を揺すり、繋がっている部分が淫靡な音を立てる。和彦は顔を背けて唇を噛んだが、守光はさらにもう一度腰を揺すってから、和彦のあごに手をかけてきた。 唇が重なってきて、口腔に舌が侵入してくる。一方で内奥では、奥深くまで欲望が押し入り、丹念に和彦の弱い部分を突いてくる。 甘い毒のような快感で酔わされ、自分の体だけではなく、心まで支配されていくのを感じた。和彦はもう抵抗する気力どころか、意味すら失い、あとはもう守光を受け入れていくだけだった。 おずおずと両腕を動かし、浴衣越しに守光の背にしがみつく。いまだ一度しか目にしたことのない九本の尾を持つ狐の姿を脳裏に描きながら。 和彦のこの行為が意味を持つことを、守光は知っていた。「――淫奔だが、慎み深くもあるオンナが、ようやくわしを受け入れてくれた」 笑いを含んだ声でそう呟いた守光が、内奥深くを抉るように一度だけ突き上げてくる。和彦はビクビクと体を震わせて、尾を引く嬌声を上げる。 精を放つこともできず、快感を味わいながらも苦しんでいる和彦の欲望を片手で握り締め、守光が胸元に唇を這わせ始める。所有の証を刻み付けるように、容赦なく鮮やかな鬱血の跡を散らし、そのたびに和彦は喘ぎ声をこぼす。興奮で凝ったままの胸の突起
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第34話(30)

 繋がりを解くと、和彦は内奥から残滓を溢れさせながら、言われるままうつ伏せとなり、腰を突き出した姿勢を取る。苦痛に近い羞恥があったが、守光の言葉通り、和彦の体はやはり反応していた。欲望は萎えることなく熱く震えている。 守光が文箱から何かを取り出す音がして、ビクリと腰を震わせる。「怖がらなくていい。あんたに痛みを与えることは、絶対にしない。これまでしてきたおもちゃ遊びと同じだ。ただ少しばかり――」 守光の欲望に擦り上げられ、精を注ぎ込まれたばかりの内奥は、ひどく脆くなっている。ひんやりとして硬く滑らかな感触が押し当てられると、嬉々として淫らな肉の洞に呑み込んでいた。「くっ……、んっ、んっ、ううっ……」 太い部分を受け入れて、苦しさに喘ぐ。守光が新しく作らせたという道具は、歪な形をしているようだった。全体に太くなっただけではなく、括れの部分がより強調され、さらにはごつごつとした小さな瘤のようなものがいくつもあるのだ。 それでなくても敏感になっている襞と粘膜が、緩やかに道具が出し入れされるたびに瘤の部分で強く擦り上げられ、和彦は腰を揺らして反応する。「ひあっ、あっ、待って、くだ、さ――、うあっ、あっ……、んんっ」 一度道具が引き抜かれ、内奥から守光の精と潤滑剤がドロリと溢れ出してくる。そこに新たに潤滑剤を塗り込まれ、道具を挿入された。いままで、誰も訪れたことがないほど奥深くに。和彦は布団を強く握り締め、甲高い声を上げる。それは、女のような嬌声だった。 頭の中が真っ白に染まり、目を開けていながら、何も見えていない状態となる。体中の力が抜けていると知ったのは、それから数瞬後だった。道具を咥え込んだまま、絶頂に達したのだ。「――やはり、あんたなら気に入ってくれると思ったよ。このおもちゃを」 そう言って守光の手が開いた両足の間に差し込まれ、組み紐を解く。軽くてのひらで擦り上げられただけで、和彦の欲望は破裂し、精を噴き上げた。「いつだったか、わしの友人という男とここのエレベーターですれ違っただろう。あの男は、わしの難しい注文にも、文句を言いながらも応え
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