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第34話(23)

last update Veröffentlichungsdatum: 11.06.2026 08:00:59

「勝手に入ってきたのが気に食わないなら、昨夜のうちに、同じ部屋で泊まっていたほうがよかったか? そうしてもよかったんだが、繊細なあんたのことだ。気が休まらないだろうと思って、遠慮したんだが」

 これまで、寝込みを襲われる形で南郷にされた行為が蘇り、和彦は身を震わせる。何もかも見透かしたように南郷が見つめてくる。その視線から逃れるように顔を背け、出勤の準備をする。

「今日はクリニックを休んでおとなしくしていてもらいたい、というのが、本音だ」

「予約が入っているので無理です。ぼくに怪我もないですし、おとなしくしている理由がありません」

「あんたが狙われたというのは、けっこうな理由だろ」

「それは……、ぼくにはわかりません。総和会の車に、たまたまぼくが乗っていただけなのかもしれませんし」

 和彦の空しい抗弁を、南郷は鼻先で笑った。

「本当にそう思うか、先生?」

 南郷との会話は、いつでも神経がささくれ立つ。和彦は、もう話す気はないと、唇を引き結ぶ。

 早く南郷との二人き
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  • 血と束縛と   第35話(5)

     曖昧な返事をした和彦は、純粋な疑問から、御堂にこう尋ねていた。「どうして今日、ぼくを誘ってくださったのですか? 長嶺会長や南郷さんにもっと目をつけられることになるのに……」「牽制の意味もあったけど、君は放っておけない。わたしの長年の友人の大事な人だし、何より、昔のわたしの姿と重なる。そんなわたしの目に、君が頑丈な檻の中で窒息しかかっているように見えたんだ。みんな、君が大事すぎて、逃げ出さないよう、ただただ檻だけを立派にしていく。閉じ込められる君のことはお構いなしだ」「わかる、ものなんですね……」「わたしも一時、文字通り、檻に閉じ込められていたことがあるから」 とんでもないことをさらりと言われ、数秒の間を置いて和彦は目を見開く。御堂は淡く苦笑した。「オンナに執着するヤクザは、行動が似るんだろうか」「……ぼくは、さすがに本物の檻に入れられたことはありません」「まだね」 不吉な一言を呟いたあと、御堂は料理を口に運ぶ。和彦が一人で動揺していると、たっぷりの間を置いてから、御堂はようやく欲しい言葉を言ってくれた。「冗談だよ」 とりあえずその言葉に安堵して、和彦はようやく、食事を再開することができた。** 自宅マンションに着いた和彦は、部屋に入って完全に一人になったところで、大きく息を吐き出す。久しぶりに味わう解放感に、ここがやはり自分の家なのだと強く実感していた。 御堂と別れたあと、聞かされた話の内容から思うところがあった和彦は、どうしても総和会本部に戻る気にはなれず、護衛の男たちにこう主張していた。 このまま自宅マンションに向かい、一泊して過ごすと。 今日はすでに、御堂と食事をすることで、自分の主張を押し通した。いつもであれば、これ以上はわがままは言えないと、周囲の勧めに従うところだ。しかし和彦は引かなかった。結局、男たちはどこかに連絡を取ったあと、やむなくといった様子で承諾した。 靴を脱ごうとした和彦は、ふと気になってドアレンズを覗く。ここまで送り届けてくれ

  • 血と束縛と   第35話(4)

    「いえ……。心配しなくていいとだけ」「犯人について、調べているかどうかすらも教えられていないというわけか」 目線を伏せて肯定すると、どういう意味か御堂が唇の端を動かす。なんとなく嘲りの表情に見えた。 襲撃された件で、和彦に一番情報をもたらしてくれたのは、千尋だ。全体の状況が見えない和彦に、総和会内部の者による犯行の可能性を示唆したのだ。そのとき千尋の口から名が出たのは、今目の前にいる御堂だった。 もちろん、御堂の犯行だと決めつけていたのではなく、御堂を利用したがっている勢力があると言っていたのだ。その勢力の筆頭が、御堂とは浅からぬ縁のある組織、清道会だ。「そのうち……というか、さすがに誰かが君に教えるかもしれないが、君を襲った主犯格として、清道会の名が挙がっている。綾瀬さんがいる組だ」 和彦が驚かなかったことに、御堂は納得したように頷き、艶やかな笑みを見せた。「そうか。もう知っているようだね」「すみません……」「どうして君が謝る。総和会にいれば、誰もが薄々考えることだ。わたしが復帰して、血気に逸った誰かが独断で暴走した結果だとしても、責めを負うのは組そのものだ。実際、早いうちから長嶺会長は、檄文を出した。自分の〈オンナ〉であり、長嶺組長からの大事な預かりものでもある君が命の危険に晒されて、憤激していることを。そこに、まるで、特定の組織を想起させるような文章もつけてね」 えっ、と声を洩らした和彦は、そのまま絶句する。和彦が知る守光と、あまりに様子が違うと感じたからだ。守光はむしろ、和彦が襲撃されたということを最大限に利用した。総和会という組織深くに、和彦を取り込んだのだ。 ある可能性がちらりと頭を掠めた瞬間、総毛立つような感覚に襲われる。ブルリと身震いした和彦を、御堂は冷静な――冷徹ともいえる目で見つめていた。「君はやっぱり頭がいい。ある可能性に、気づいたんだね」 和彦は頷かなかった。認めてしまえば、守光とこれまでのように向き合えないと思ったからだ。聡い守光は、和彦の些細な機微すら見抜いてしまい、総和会という組織の奥にさらに取

  • 血と束縛と   第35話(3)

     前回、御堂と会ったのは、思いがけない形でだった。この御堂が、男に――清道会の組長補佐である綾瀬という偉丈夫に組み敷かれ、乱れている姿を、和彦はしっかりと見てしまったのだ。〈会った〉という表現は相応しくないのだろうが、御堂も見られることを承知していたという話なので、奇妙ではあるが、互いの存在を認識していたことになる。 つい最近の出来事なのだが、今日までにいろいろとありすぎて、時間の感覚が狂ってしまう。「何から話そうか。君とは、あれを話したい、これを話したいと、いろいろ考えていたんだが、いざこうして向き合うと、わたしたちの間にあるのは野暮な事柄ばかりだと、しみじみ思ってしまう」「本当に、砕けた話題をと思っても、悩んでしまいますね」 ここで二人は笑みを交し合う。御堂と親しくなったと言うつもりはないが、少なくとも初めて会ってお茶を飲んだときよりは、互いの距離が近くなったようだ。 和彦の緊張がいくらか解れたと感じたのか、タイミングを見計らっていたように御堂が切り出す。「――君はとうとう、総和会の人間になったんだね」 和彦は曖昧な表情となっていた。「そう、みたいです……」「あの長嶺会長に見込まれてしまうと、否とは言えないだろう。いかに息子といえど、賢吾も口出しはできなかっただろうし、なかなかつらい選択だったんじゃないか?」 御堂は、何を、どこまで知っているのだろうかと、正直戸惑う。すべてを打ち明けてしまえば楽なのだろうが、それは果たして正しい行為なのだろうかとも思ってしまうのだ。御堂と守光、そして南郷との間に因縁があることは、大まかではあるが把握している。そんな両者の間に、自分が争いの火種を起こしてしまうことを、和彦は何より恐れていた。 御堂の色素の薄い瞳が、じっとこちらを見つめてくる。射竦められそうな迫力に和彦が息を呑んでいると、御堂がふっと眼差しを和らげた。「……君は、頭がいい。いや、よすぎるぐらいか。だから、あれこれと考えて、自分が身動きが取れなくなる。関わる男が多い分、さまざまな事情を斟酌してしまうんだろう。そして、自分が何もかも呑み込んでしまえば、男たちに余計な気

  • 血と束縛と   第35話(2)

     和彦の前では丁寧なビジネスマンのような物腰を崩さない藤倉が、一瞬、ゾクリとするほど鋭い眼差しを、エレベーターのほうに――エレベーターから降りてきた人物に向けた。何事かと、反射的に視線を向けた和彦は、小さく声を洩らす。 圧倒されるような整然さを保った、ダークグレーのスーツを身につけた一団には見覚えがあった。そして、男たちの中心には、灰色の髪をした長身の男がいる。 御堂だとわかり、和彦は半ば無意識に一歩を踏み出していたが、次の一歩を阻むように、護衛の男たちが壁のように前に立ちはだかる。「――佐伯先生、こちらに」 藤倉に肩を抱かれ、さりげなく立ち位置を変えられた。御堂たち第一遊撃隊への警戒心を隠そうともしない露骨すぎる行動に、和彦は戸惑う。慌てて振り返り、御堂の姿を目で追いかける。 御堂は、和彦の存在に気づいているはずだが、こちらを一顧だにせず、冷然とした横顔を向けて通り過ぎた。せめて挨拶ぐらいはと思っていただけに、御堂の態度に軽くショックを受ける。 ただ、御堂が総和会内で複雑な立場にあることや、和彦への襲撃に関してのよからぬ憶測があることを含め、二人が接触しないほうがいいと判断しても、仕方がないのかもしれない。御堂は特に、隊を率いている身だ。和彦とは違い、さまざまなことへ気を配らなければならないだろう。 それでも、視線すら合わせてもらえないのは少し寂しいなと、和彦はため息をついてから、藤倉と別れてエレベーターに乗り込む。 地下に降りて車が回ってくるのを待っていると、エレベーターが到着した音がした。さきほどと同じく、護衛の男が露骨に身構えたのを感じ、まさかと思って振り返る。一瞬、御堂かと思ったのだが、そうではなかった。しかし、御堂に近い存在ではあった。「二神、さん……?」 和彦がおずおずと呼びかけると、護衛の存在など目に入っていないかのように、二神がまっすぐこちらを見つめてくる。圧倒されそうな眼力の強さだが、口元に淡い笑みが浮かんだのを見て、和彦も微笑み返すことができる。「どうかされましたか?」「隊長から伝言をことづかってまいりました」 そういえばまだ、御堂にこちらの携帯電話の番号を

  • 血と束縛と   第35話(1)

     和彦の予想を上回って、事態は急速に動き始めた。 総和会出資によるクリニック経営の話を承諾した三日後には、午前中のうちに総和会本部へと連れて行かれ、藤倉の立ち会いのもと、膨大な数の書類にサインをさせられたのだ。 長嶺組出資のクリニックを任されることになったときも、同じように書類にサインはしたが、ここまで多くはなかった。 当然の義務とばかりに藤倉は、書類の一枚一枚について説明をしてくれたが、公的なものはほとんどなく、大半が、総和会内で回され、保管される書類だった。 自分を総和会に縛り付けておくための契約書だと、万年筆を握る手を機械的に動かしながら、自虐的に和彦は考える。自分が決断した結果だということは痛いほどわかっているのだ。例え、そうするしかなかったとはいえ。 強い力に身を委ねた先にあるものについて想像力を働かせてみるが、まるで靄がかかったように、何も思い浮かばない。安寧があるとは思えなかった。正体のはっきりしない何かが真っ黒な口を開けて待っているような、漠然とした不安だけは、ひしひしと感じる。当然、重圧も。「――佐伯先生に、総和会の加入書を書いていただいたときのことが、昨日のように思い出されますよ」 和彦が記入し終えた書類を確認しながら、藤倉が感慨深げに言う。和彦は微苦笑を浮かべていた。そのときのことは、和彦自身、今も鮮明に覚えている。「あのときは、藤倉さんにはご迷惑をおかけしました」「いえいえ、ご迷惑だなんて。我々も少々強引に物事を進めすぎたと、反省したんですよ。なんといっても、佐伯先生はまだ、まったく堅気の方でしたから」 悪気はないのだろうが、今は違うと言外に言われたようなもので、和彦は複雑な表情となる。しかし藤倉はそんな変化に気づいた様子もなく、さらに言葉を続ける。「その佐伯先生が、今では総和会会長の信頼を得て、出資を受けて事業を始めるまでになられたんですから、すごいことです。しかも、短期間のうちに」 藤倉も当然、和彦と守光がどんな関係にあるのか知っているだろう。そのうえで、嫌悪や侮蔑といった感情を微塵も表に出すことなく、当初の頃のように接してくるのだから、感心するしかなかった。総和会の人間の誰もが、和彦の前で

  • 血と束縛と   第34話(31)

     力をなくした片足を持ち上げられ、再び内奥の入り口に道具の先端が押し当てられる。この瞬間、ゾクゾクするような強烈な疼きが背筋を駆け抜け、和彦は自分の反応に戸惑った。「あっ、いや――……」 反射的に制止しようとして、守光と目が合った。淫らな行為の最中とは思えないほど冴えた眼差しに和彦は射抜かれ、発しかけた言葉は口中で消える。代わりに口を突いて出たのは、甘い呻き声だった。** 和彦は布団の上で仰向けとなったまま、茫然自失としていた。さんざん道具で嬲られ、啜り泣きを洩らしても許してもらえず、ひたすら快感を与えられ続けたのだ。限界まで体力も気力も削り取られ、まさに精根尽き果てた状態だった。 動けない和彦の体の後始末をしたのは、吾川だった。体の汚れを拭い、新しい浴衣を着せたあと、ひどい有様の布団を入れ替えて、道具すらも布に包んでどこかに持って行ってしまった。和彦は、羞恥する感覚さえ麻痺しており、ぼんやりと吾川の行動を目で追っていた。 恭しく頭を下げて吾川が部屋を出ると、ほぼ入れ違いで守光が部屋に戻ってくる。どうやら湯を浴びてきたらしく、白髪が濡れていた。 和彦が緩慢に体を起こそうとすると、側にやってきた守光が手を貸してくれる。「……すみません」 言葉を発して初めて、自分の声が掠れていることに気づいた。「あんたがあんまりいい声で鳴くから、無茶をしてしまった。すまなかった」 布団の傍らに座った守光の言葉に、和彦は返事のしようがなかった。ここで、部屋の主である守光を畳の上に座らせ、自分が布団の上にいるのも失礼だと気づき、慌てて布団から下りようとする。守光は笑って首を横に振る。「かまわんよ。今夜はここで寝るといい」「いえ、そんな――」「あんたに、その権利は十分ある。なんといっても、わしの大事で可愛いオンナだ」 和彦はピクリと肩を震わせ、うかがうように守光を見る。口元に薄い笑みを湛えた守光は片手を伸ばし、乱れたままの和彦の髪を撫でてきた。それだけで、疼きにも似た感覚が背筋を駆け抜ける。体は離しはしたものの、精神的にまだ守光と

  • 血と束縛と   第4話(31)

    「――お前は、俺たちのオンナだ」  和彦の唇を何度も啄ばみながら賢吾に囁かれる。背後から緩やかに内奥を突き上げてくるのは、衰えを知らないほど滾った千尋の欲望だ。何度となく押し開けられ、擦り上げられているため内奥は痺れたようになっているが、それでも愛されると、応えようとして懸命に欲望を締め付けてしまう。  布団に両膝をついた姿勢で小さく喘いだ和彦は、座っている賢吾の肩にすがりつく。賢吾の片手は、さきほどから和彦のものを巧みに扱き続けていた。 「そう言われるたびに、先生は傲然と顔を上げろ。性質の悪いヤクザ二人に、これ以上なく愛されて、大事にされている色男の顔を、

    last updateZuletzt aktualisiert : 2026-03-20
  • 血と束縛と   第3話(33)

    「――……なんかいろいろと、大変そうだ。しがらみとか、つき合いとか」 「先生は、そういうの考えないで、医者としての仕事をしてればいいよ。……一番大事なのは、俺とオヤジの、オンナとしての仕事だけど」  一見好青年のような外見で、さらりとこんなことを言えるのが、千尋だ。  和彦が見つめる先で千尋は、今自分が物騒なことを言ったという自覚もない様子で、パンの袋を開けて顔を突っ込んでいる。和彦はちらりと笑って千尋の頭を撫でてやった。 「まだ食べるなよ。肝心の晩メシが入らなくなるぞ」 「……先生、俺のお袋みたい」  千尋の言葉に、和彦は容赦

    last updateZuletzt aktualisiert : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateZuletzt aktualisiert : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第4話(2)

     また指で呼ばれ、和彦は賢吾のあとについていく。工事後は待合室となるホールでは、施工業者の人間が集まって持ち込む機材について話し合っている。その様子を一瞥した賢吾は、奥の部屋へと向かう。 「……護衛の人間は?」  ホールを見て、賢吾が一人でこのフロアにやってきたのは確認した。 「物騒なツラした人間を、一般の業者がいる場所に連れてくるわけにはいかないだろ。設計士は前からの馴染みだが、業者のほうはそうじゃないんだ。クリニックを始める前に、妙な噂は立てたくない」 「自分は物騒なツラじゃない、と言いたいんだな」  皮肉でもなんでもなく、思ったまま

    last updateZuletzt aktualisiert : 2026-03-19
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