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血と束縛と のすべてのチャプター: チャプター 1291 - チャプター 1300

1382 チャプター

第37話(12)

 自分は被害者どころか、鷹津の共犯者だ。 苦々しさを噛み締めながら和彦は、自身に言い聞かせる。物騒な男たちに守られる日常生活を取り戻しながらも、まるで棘が刺さっているかのようにときおり痛みを発するのは、俊哉の存在だ。 接触したことを口外しないのは誰のためなのか、すでにもう和彦にもわからなくなっていた。今の生活を失いたくないと思う一方で、沈黙を続けることは、長嶺の男たちを危険に晒す。だが話してしまえば、鷹津に対する追跡は厳しさを増すかもしれない。 思索の迷路に入り込みそうになったところで、中嶋が立ち上がった気配にハッとする。「ツマミがなくなってきたんで、持ってきますね」 空いた皿を手に中嶋の姿がキッチンに消えると、一度はグラスに視線を落とした和彦だが、すぐにうかがうように秦を見る。物言いたげな和彦の様子にとっくに気づいていたらしく、首を傾げて笑いかけられた。「中嶋がいると聞きにくいことがあるんでしょう、先生」「……察しがいいな」「あいつはあいつで、聞いた以上、総和会に報告せざるをえなくなりますから、わざと席を外したんだと思いますよ」 そういうことかと、ちらりとキッチンのほうを見遣る。 ためらったのはわずかな間で、和彦は声を抑えて秦に尋ねた。「――鷹津から、何か聞いてないのか?」「何か、とは……」「なんでも。どうして、あんな行動を取ったのか。警察を辞めてどうするのか。……どこに行くのか」 秦は小さく首を横に振る。「皆さんから聞かれましたが、わたしは何も。そもそも、大事なことを打ち明けてもらえるほど、わたしは鷹津さんに信用されてはいませんでしたから」「でも、仲はよさそうに見えた……」 和彦の率直な感想に、秦はなんとも複雑そうな笑みを見せた。「鷹津さんには、よくタダ酒を集られました。いつも不機嫌で、他人を一切信用してなくて、そのくせ、他人を利用する気満々で。世間一般では、〈嫌な人間〉と呼ばれるでしょうね。だけどわたしは、そういう鷹津さんをけっこう
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第37話(13)

 何も言わず秦が指をさしたほうを見ると、車道を挟んだ向かいのビルの前に、男が二人立っていた。一人は中嶋だ。もう一人は――。「前に、会ったことがある。確か、中嶋くんが面倒を見ている子だろ?」 第二遊撃隊は隊員以外に、隊員たちが手足として使う若者たちを囲っている。中嶋は、若者の何人かを面倒を見ており、彼はそのうちの一人だ。 夜ということで、顔の造作まではっきりとは見えないが、立ち姿や髪型から判別はできる。若いながらもおそろしく鋭い空気を持っていたことが印象的で、なんとなくだが顔も記憶に残っていた。 中嶋と青年は向き合って何か話している。すらりとした中嶋よりさらに上背があり、精悍そうな体つきをした青年だが、ときおり慎重に周囲を見回す姿は、神経質なものを感じさせる。 有能で、飼い主に対して忠実な犬だなと、ふと和彦は思った。まるで中嶋を、危険から守ろうとしているかのようだ。「――中嶋は、彼と寝ているそうです」 和彦の隣に立った秦が、淡々とした口調で言う。最初は、何を言われたのか理解できなかった和彦だが、数回、頭の中で反芻してから、驚きで目を見開く。「はあっ?」 和彦の反応に、秦は口元をわずかに緩める。「いい反応ですね、先生」「びっくりしたんだ。……今言ったこと、冗談、なのか?」「本当ですよ。中嶋が教えてくれたんです。腹に据えかねる出来事があって、そのとき側にいたのが、彼だったと」「……言葉は悪いが、憂さ晴らしで寝たというのか」「そう単純でもないでしょう。あいつは、自分が男であることと、男と寝ていることに、自分の中で折り合いをつけて、バランスを取りたがる。その結果が、先生とのセックスです。そんなあいつが、わたしや先生以外の男とセックスしているということは、理由があるんですよ」 秦は不思議な男だと、今になって思い知らされる。中嶋と青年を見つめる眼差しが、とても優しいのだ。不気味なほどに。和彦は、頭に浮かんだ疑問を率直にぶつけた。「君は……、嫉妬したりしないのか?」「しないどころか、嫉妬深いで
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第37話(14)

「それ、秦さんがやけに大事そうに保管していたんですよ。中身はなんですか?」 和彦は、さきほど見た中嶋と青年の姿を必死に頭の中から追い払い、箱から取り出したものを見せる。透明なフレームで覆われた温湿度計で、インテリア小物として見てもオシャレなものだ。「……すごく、いい。さすが、雑貨屋のオーナー。ぼくなんかとは、センスが違うな」「先生の部屋に飾るんですから、気合いを入れて選びましたよ」 顔が強張りかけたが、上手く誤魔化せたはずだ。マグカップも温湿度計も、総和会本部で和彦にあてがわれた部屋に飾るつもりで探していたのだ。もっとも今、そんなことをわざわざ説明する必要はない。 ただ、いつかはあの部屋に戻らなければいけないのだと思うと、酔いで浮かれていた気持ちが少し沈みそうになった。「先生?」 中嶋の手が肩にかかる。和彦はなんでもないと首を横に振る。「久しぶりに楽しく飲んだから、酔いの回りが早かったみたいだ。……明日も仕事があるから、この辺りでお暇させてもらうよ」「ああ、じゃあ、外で待っている護衛の人に、ここまで迎えに来てもらいましょう。途中で転びでもしたら大変だ」 それは大げさだと言いたかったが、中嶋は自分の携帯電話を取り出し、てきぱきと連絡を取り始める。さすが、長嶺組と総和会公認の和彦の〈遊び相手〉だけあって、手慣れている。 皮肉ではなく、長嶺賢吾という男は、オンナのために立派な檻を作り上げているのだと、まるで他人事のように和彦は感心していた。** 夜遊びから戻ってきて、手早くシャワーを浴びたあと、書斎へと向かう。眠くて堪らないのだが、ベッドに潜り込む前にやっておくことがあった。 和彦は膝を抱えるようにしてイスに座ると、携帯電話を手に取る。里見との連絡で使っているもので、今夜もメールが届いていた。いつものように簡潔な返信をしておこうとして、ふっと魔が差したように、佐伯家の様子を問う文面を打ち込んでいた。 ただし、そのメールを送ることはなかった。我に返り、自分が何かに操られていたのではないかと、急に空恐ろしさを感じた
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第37話(15)

**** エレベーターから降りて和彦の視界にまっさきに飛び込んできたのは、エントランスの隅に立つ、地味な色合いのスーツを着た男の姿だった。 ごっそりと感情をどこかに置き忘れたような顔で、じっと外を見つめている。静かだが鋭い眼差しは、のんびりと景色を眺めているわけではない。怪しげな人物がうろついていないか、警戒しているのだ。 和彦は気配を殺して近づいてみたが、とっくに気づいていたらしく、ふっと表情を和らげてこちらを見た。「――今朝は風が少し冷たい」 開口一番の三田村の言葉に、和彦はにっこりと笑む。久しぶりに間近で聞いたハスキーな声に、耳の奥がくすぐられる。「もう十月だからな……。この間、海で泳いだような感覚なのに」「先生がマフラーを巻くようになるまで、あっという間だろうな」「……ぼくは別に巻かなくてもいいんだが、周りが言うから、巻いていたんだ。そんなに、寒々しそうに見えていたのかな」「みんな、先生に風邪をひかせたら大変だと、気が気じゃなかったんだ。――俺も」 囁くようにさりげなく、言葉が付け加えられる。和彦がじっと見つめると、三田村は居心地悪そうに肩をすくめ、顔を背けた。らしくないことを言ってしまった、と三田村の心の声が聞こえてきそうな仕種だ。 和彦は必死に笑いを押し殺し、三田村の腕に手をかける。「行こう、三田村。映画に間に合わない」 土日を一緒に過ごしたいという電話越しの和彦のわがままに、三田村は即答した。先生の望み通りに、と。 三田村と顔を合わせるまで、実は和彦は緊張していた。これまでのように、自分に対して三田村が、優しい眼差しを向けてくれるか心配だったからだ。しかし、杞憂に終わった。 複雑な想いを抱えているはずの三田村は、それを表に出すようなことはしない。そんな男の誠実さに、和彦は二日間をかけて報いるつもりだった。 三田村と並んで歩きながら駐車場に向かっていると、ジャケットのポケットの中で携帯電話が鳴る。映画館に入る前に電源を切っておかなければと思いながら、誰か
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第37話(16)

** 三田村と並んで映画を観ながら、実は和彦は内容をまったく追えていなかった。身近に三田村を感じながら考えることは、優しい〈オトコ〉に対しても、ずいぶん隠し事をしてしまったということだけだ。 映画館を出たあとの予定は特に決めていなかったため、駐車場に向かいながら三田村が物言いたげな視線を投げかけてくる。仕方なく和彦から水を向けた。「三田村は、どこか寄りたいところはないのか? 普段は仕事が忙しいから、自分のためにゆっくり買い物する時間もないだろ。今日は、どこだってつき合う」「俺は別に……。先生の行きたいところを言ってくれればいい」 どんな答えが返ってくるか予想はついていた。あまりしつこく聞いても三田村を困らせるだけだと思い、和彦は頭を巡らせる。 切羽詰まった状況だったとはいえ、鷹津と二人きりで街中を移動したときのことが脳裏を過らないといえば、ウソになる。こうして三田村と出かけて、思い出の上書きをしたいわけではない。ただ、バランスは取っておきたいという想いはあった。「それじゃ――」 和彦はちらりと、三田村が着ているワイシャツとネクタイに目をやる。三田村のものだけを選ぶと言っても遠慮するのは見えているので、自分のものも一緒に買いたいと切り出そうとしたとき、今度は、電源を入れたばかりの三田村の携帯電話が鳴り始めた。 互いに顔を見合わせて、淡い苦笑を交わし合う。「ぼくとあんたは、人気者だな……」 自嘲と冗談交じりの和彦の呟きに、三田村は何か言いたそうな顔をする。「ほら、大事な電話じゃないのか」「あっ、ああ」 電話に出た三田村は、すでに引き締まった表情をしていた。目上の者からの電話だと察した和彦は、咄嗟に賢吾からかと思ったが、すぐに違うとわかる。三田村がこう言葉を発したからだ。「それは、早いうちに手を打ったほうがいいな……」 電話の内容を耳に入れないよう意識を逸らすため、辺りに目を向けていた。 通りを行き交う人たちの格好は、すっかり秋の訪れを感じさせるものとなっていた。
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第37話(17)

「――先生さえよければ、一緒に来ないか? その分、少し時間を取られるかもしれないが」「一緒に、って……、城東会の事務所に?」「応接室で、お茶でも飲んで待ってもらえると、ありがたい」 どうだろう、と問われ、和彦は視線をさまよわせる。短時間で済む用事のために護衛の組員を呼び出すことを思えば、三田村の提案は合理的だし、何より和彦自身も安全だ。「ぼくが行って大丈夫なのか……」 つい不安を口にしたのには、理由がある。和彦は三田村と関係を持ってから、城東会の事務所に顔を出したことはなかった。あくまで賢吾のオンナとして立ち寄ったときは、どの組員もよそよそしくはあったが、丁寧に接してくれたのだ。 しかし今はどうだろうか――。 和彦の表情から、何を心配しているか察したらしく、三田村の手がそっと肩にかかる。「先生は、もっと図太くなってもいいのかもしれない。ときどき、自分の無神経さが、どれだけ先生を傷つけているのか考えて、ぞっとするときがある」 車の助手席のドアを開けてもらい、和彦は乗り込む。これから事務所に向かうということで、後部座席に座るよう促されるのではないかと思ったが、あくまで三田村は、今は和彦と二人の時間を過ごそうとしているのだ。 三田村が車を発進させてから、和彦はぼそぼそと洩らす。「……ぼくが今以上に図太くなったら、きっと誰の手にも負えなくなるだろうな。それで呆れられたら、もう少し静かに過ごせるんだろうか」「先生は、自分の周囲にいる男たちのことを、まだ甘く見てるな」 数十秒ほどかけて、三田村の言葉の意味をじっくりと考えたあと、顔をしかめる。和彦が呆れた視線を向けた先で、三田村は口元を緩めていた。** 和彦の前に恭しくお茶を出して、まだ若そうな組員が大仰に頭を下げて応接室を出て行く。顔見知りがいる長嶺組の事務所では、誰かしら話し相手になってくれるのだが、そこまで求めるのは図々しいだろう。 ふっとため息をついた和彦は、背筋を伸ばしてソファに腰掛けたまま、なんとなく耳を澄ませていた
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第37話(18)

 おそらく初めて会った人物だった。八月の法要では、城東会の人間とも顔を合わせ、挨拶も交わしているが、今目の前にいる男の姿はなかった。八月以前に催された行事の記憶も辿っていると、男はチノパンツのポケットをまさぐり、小さく舌打ちをした。「すまない。名刺入れを車に置いてきたようだ。――城東会顧問の、館野だ」「……佐伯です」「ようやく、あんたに会えた。一度じっくり、話してみたいと思っていたんだ。うちの組長……、ああ、城東会のな。長嶺組の組長のことは、俺は〈本家〉組長と呼んでいるんだ。で、うちの組長が、あんたのことを褒めていた。何度か、言葉を交わしたことがあるんだろう?」「ええ。行事のたびに、ご挨拶をさせていただいています」「会うたびに、驚かされると言っていた。いかにも堅気だった色男が、図太く、したたかに、うちらの世界に染まってきているという意味で。上手く立ち回っているとも言っていた」 和彦は、館野が〈うちの組長〉と呼ぶ男の姿を、脳裏に思い浮かべる。四十代前半で、ヤクザというより、有能な経営者を思わせる知的な雰囲気を漂わせて、物静かな人物だった。和彦と言葉を交わしても、淡々とした物腰を崩さず、そこから、自分に対するどんな感情も読み取ることはできなかった。「俺はずっと、長嶺組が預けてくれる若頭たちの相談役を務めてきた。組長としての責務を立派に果たして、ゆくゆくは長嶺組の執行部に身を置くか、総和会に出向くか、極道の世界から身を引くか、行く末はさまざまだ」 ソファの背もたれにしっかりと身を預けて話す館野は、サングラスのおかげで視線がどこに向いているかまったく見えない。それは和彦をひどく落ち着かない気分にさせる。「うちの組長は、どんどん上へと行ける人間だと思っている。補佐として仕えている三田村も同様だ。あいつは、人を支えるのに向いている。忠義心があって、誠実で、下の者にも慕われて。何より、本家の覚えもめでたい。俺は、次に三田村の後ろ盾になってやりたいと考えていた」 ここまで聞いて和彦は、顔を強張らせる。館野が何を言おうとしているのか、ようやくわかってきたのだ。 館野が、ずいっと身を
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第37話(19)

 城東会の事務所を出てから、ほとんど表情を変えることがなかった三田村だが、このときやっと、顔を曇らせた。和彦が沈み込んでいると、当然気づいていたのだ。 側にやってきた三田村が、静かに窓を閉める。そのまま片腕で抱き寄せられたので、素直に身を預けた。「顧問に、何か言われたんだろう、先生?」 ああ、と答えた和彦は、三田村の肩に額を押し当てる。「あの人には、若い時分から目をかけてもらっていた。若頭補佐の肩書きを得たときも、長嶺組長預かりの身になって、側で働くことになったときも、いつでも、我がことのように喜んでくれた。俺がいつか若頭になったときには、世話をするのが楽しみだとも言ってくれた。だからこそ、先生とのことがあったときは、烈火のごとく怒り狂っていた。それでも、長嶺組長や若頭と話し合って、俺の若頭補佐の役職は解かないと決めてくれたんだ」「それだけ、あんたを評価しているんだな」「ありがたいことに。先生との仲を認めないにしても、見ないふりはしてくれるんだと思って、感謝していた」 ここで三田村は一旦言葉を切ったあと、ひどく優しい声で問うてきた。「教えてくれないか? 館野さんに、何を言われたのか」「……嫌だ」「俺と館野さんの関係を心配しているなら――」「ぼくはそこまで優しくない。……正直に話して、あんたがその気になったら、困る」「その気、というのは、俺が先生のオトコをやめるということか?」 三田村自身が発した言葉の残酷さに、胸をつかれる。和彦がビクリと肩を揺らすと、宥めるように背をさすられた。「すまなかった。俺が、軽率だった。組のために仕事をしている先生を、責める人間がいるなんて、思いもしなかった」「責められたわけじゃない。組を……城東会を想う気持ちがあるからこその、当然の要求だったんだ」「だから、俺はもう必要ないか?」 パッと顔を上げた和彦は、次の瞬間には、三田村を睨みつけていた。「そんなこと、絶対に思わないっ……」「でも、動揺はしただろ
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第37話(20)

 三田村の声が切ない響きを帯び、甘い疼きが背筋を駆け抜ける。和彦は後ろ髪を撫でられながら、間近から三田村の顔を見つめる。ゆっくりと三田村の顔が近づき、唇が重なる。たったそれだけで、和彦の意識は舞い上がる。 夢中で唇を吸い合い、舌先で相手をまさぐり、焦らすように緩やかに絡めていく。自ら求めて、三田村の舌を口腔に誘い込んだ和彦は、甘えるように吸いつく。露骨な表現だが、自分の〈オトコ〉をじっくりと味わいたいと、強く願っていた。 息を喘がせながら和彦は一度唇を離し、三田村のあごにうっすらと残る傷跡に、いつものように舌を這わせる。すると三田村の唇に舌を挟むように捉えられていた。激しく舌を吸われ、軽く歯を立てられると、鼻にかかった声が洩れる。 背に三田村のてのひらが押し当てられ、シャツ越しに高い体温を感じる。堪らず和彦も、すがりつくように三田村の背に両腕を回していた。Tシャツの上から、鍛えられた逞しい体をまさぐり、まだ姿を隠している猛々しい虎の姿を想像して、情欲が高まる。 言葉もなく、乱れた足取りでベッドへと移動し、倒れ込む。思う様強く抱き合い、もう一度濃厚な口づけを交わしている最中、三田村が片手を伸ばし、ベッドの傍らのナイトテーブルの引き出しを開けた。そこに何が仕舞われているか、当然和彦は知っている。 荒い息を吐き出した三田村が、食い入るように和彦を見下ろしてくる。ついさきほどまで、優しさに満ちた眼差しを向けてくれていた男はもういない。今は、狂おしいほどの情欲を湛えた目をしていた。それが和彦には嬉しい。「三田村……」 熱い体に、官能を刺激される。和彦はTシャツの下に両手を忍び込ませ、引き締まった脇腹を撫でる。わずかに体を震わせた三田村は苦しげに目を細めたあと、和彦の唇を吸い上げてきた。差し出した舌を妖しく絡ませ合い、唾液を交わす。 下肢が密着し、三田村の欲望の高ぶりを感じる。早く欲しい、と率直に和彦は思った。 それが表情に出たらしく、三田村に指摘された。「今、欲しい、という顔をしたな、先生」「ああ……。欲しい。ぼくのオトコを――味わいたい」 次の瞬間、体を起こした三田村に、
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第37話(21)

「あっ、あっ、三田村、早くしてくれっ……」「どっちを?」 抑えた声音で三田村に問われる。焦らすように、胸の左右の突起を交互に舌先で転がされ、唇でくすぐられて、和彦の呼吸が弾む。同時に、内奥に含まされた欲望を必死に締め付けていた。「んんっ」 三田村の片手が、すっかり身を起こした和彦の欲望にかかる。優しく擦り上げられて、鼻にかかった呻き声を洩らす。体中で三田村を求めていた。とにかく触れてもらいたい。何より、熱い肉で、体の奥を穿ってほしくて堪らない。「もう濡れてきた、先生」 あっという間に反り返った欲望の括れを、指の輪で何度か締め付けられてから、先端を撫でられる。ヌルヌルとした感触は、三田村の言葉がウソではないことを物語っている。 体中のあちこちに快感の種火を灯されて、和彦は熱い吐息をこぼす。片手を伸ばして三田村の頬を撫でると、無言の求めがわかったらしく、覆い被さってきて唇を吸われる。もう離さないとばかりに和彦は、懸命に両腕を広い背に回してしがみついた。「ふあぁっ」 太く逞しい欲望に、内奥をじっくりと押し広げられる。発情した襞と粘膜を強く擦り上げられて、気も遠くなるような疼きが背筋を駆け抜ける。奥深くまで欲望を挿入されたとき、和彦はビクビクと全身を震わせながら、絶頂に達していた。三田村は軽く腰を揺すったあと、ぐうっと内奥深くを抉るように突いてくる。堪らず和彦は悦びの声を上げる。「あっ……ん、い、い……。三田村、それ、好き――」「ああ。奥が痙攣してる。先生が感じている証拠だ」 歓喜に震えているという内奥の一点を、三田村はじっくりと何度も突き上げ、和彦の体を内側から蕩けさせていく。律動のたびに、繋がった部分から大きく音が洩れ、そこに、和彦の喘ぎ声も加わる。内奥から溢れ出す潤滑剤は、自らが生み出した悦びの蜜ではないかと錯覚するほど、気持ちよかった。 蠢く熱い欲望にも喜びを与えようと、内奥が淫らな蠕動を繰り返す。すると、三田村の荒い息が唇に触れた。「――……すまない、先生、もうもたない&hellip
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