Home / BL / 血と束縛と / Chapter 1301 - Chapter 1310

All Chapters of 血と束縛と: Chapter 1301 - Chapter 1310

1382 Chapters

第37話(22)

「先生が鷹津に連れ去られたと聞いたとき、俺は、もう二度と先生に会えないんじゃないかと絶望しかけていた。鷹津は事前に準備をしていた。つまり、覚悟を決めていたということだ。だが、あいつは先生を解放した。……意味がわからない。いや、何か意味があるからこその行動だろう」「それは――、組長たちにも何度も言ったが、鷹津が何を思ってあんなことをしたのか、ぼくにはわからない。ただ連れ回されて、ホテルに一泊しただけだ」「一緒に逃げようと言われなかったか?」 三田村に対して、いくつもの隠し事はできなかった。「言われた」 和彦は、快感に酔わされていたとはいえ、鷹津のその誘いに頷いた。いまさらながら罪悪感に気持ちが揺れかけたが、三田村の唇が耳元に這わされ、その感触に気を取られる。「――でも、先生はこうして、俺の側にいてくれている。先生とあいつとの間にどんなやり取りがあったのか、根掘り葉掘り聞くつもりはない。俺には、今こうしている瞬間が、何より大事だ。先生を抱いているのは鷹津じゃなく、俺だということが」 誠実で優しい男が示す独占欲は、控えめではあるが、静かな情熱を確かに感じさせる。今はこの男だけを見つめて感じていたいと、強く和彦は願う。すると三田村が、不安そうに顔を覗き込んできた。「先生、気を悪くしていないか?」「まさか。……でも、あんたのせいで、自分がますます傲慢な人間になっていくのが怖い。たくさんの男と関係を持っているのに、それでもあんたが想ってくれて。いつか、呆れられて、大事なオトコもなくしてしまうかもしれない」「なんの心配もいらない。俺は、先生から要らないと言われても、離れるつもりはない。それこそ執念深すぎて、先生のほうが、呆れるかもしれないな」 三田村の言葉に心底ほっとする。長嶺の男たちのことを言えない。和彦は、欲しい返事を三田村からもぎ取ったのだ。「……三田村、背中、撫でたい」 甘えるように訴えると、握り合っていた手を離して三田村が上体を起こす。勢いよくTシャツを脱ぎ捨ててから、和彦のシャツも脱がせてくれた。 重なってきた熱い
Read more

第37話(23)

 ここ最近目にしたさまざまな情景が、まるでスライド上映されるように、取り留めもなく頭の中を通りすぎていく。眠りたいのに、覗き込んでしまう。疎ましくて頭を振ったつもりだが、たっぷり蜜を含んだように体は重い。夢の中で夢を見ているような、不思議な感じだ。 いつの間にか情景は、和彦の記憶にないものに変わっていた。いや、唐突に古い記憶に飛んだのだ。 傷んだ部屋の光景と、けたたましい蝉の声。懐かしい、とまず率直に思ったあと、ざらついた感触に頭の中を掻き回されているような、ひどく不快な気分になった。 これは和彦にとって、嫌な記憶なのだ。 見たくないし、新たな記憶として上書きしたくない。夢の中で和彦は抗うが、見えない力に抑えつけられ、顔を背けることはできない。 泣き出しそうになる和彦に、傍らから声がかけられる。三田村のハスキーな声ではなかった。穏やかで優しく、しかし、ぞっとするような冷たさを秘めた声――。 父親である俊哉の声だ。『――これは、父さんとお前だけの秘密だ。誰にも言うな。いい子なら、父さんとの約束は守れるな?』 自分がなんと答えたのか、和彦には思い出せなかった。古い記憶は、まるで虫が食ったように、ところどころに穴が開き、欠落している。 とにかく、俊哉の望む答えだったらしく、抱き上げられた。間近で見た俊哉は笑っていた。幼心に、その表情に安堵した記憶はあるが、大人である今の和彦にとっては、ただ不安を掻き立てられる。俊哉のこの表情は、あまりに〈不穏〉だ。 ビクッと大きく体が震え、急に息苦しくなる。切迫した感情の嵐に呑み込まれそうになり、夢の中でもがいていた。「先生っ」 強く肩を掴まれるとともに、鋭い口調で呼ばれる。ハッとした和彦は、自分の顔を覗き込む三田村に気づいた。 顔を強張らせ、瞬きもしないまま、ひたすら三田村を見上げる。深い闇の底に沈み込む寸前で、救いの手に引き上げられた気分だった。一方の三田村は、即座に和彦の異変に気づいた。「先生、ゆっくり息をするんだ。それに、瞬きも」 険しい顔をした三田村に軽く頬を叩かれ、大きく息を吸い込む。その拍子に瞬きを数回繰り返すと、ようやく三田村はほっとした表
Read more

第37話(24)

**** 施術を終えて処置室を出た和彦は、マスクを外しながら待合室へと向かい、壁の時計を見上げる。いつもなら、とっくに昼の休憩に入っている時間だ。 午後からもしっかり予約が入っており、昼食をとりに外に出る時間はないようだった。暇すぎるのも困るが、忙しい日が続くのも考えものだ。 もう一人医者がいれば、クリニック全体の仕事もスムーズに回せるのだが――。 ときおりそんなことをふっと考えるが、クリニックの規模からして、今が最適な状態なのかもしれない。派手な宣伝も打たず、口コミだけで、とりあえず経営はできており、大きなトラブルにも見舞われていない。 変に目立って、税務署に目をつけられるのが何より困る。少し芽生えてきた欲を、和彦はそう自分に言い聞かせて抑え込む。 処置室にはまだ患者が残っており、施術後のケアをスタッフから受けている。まだ三十分はかかるなと計算しながら、電話番以外のスタッフには、先に休憩に入るよう告げる。ついでに、コンビニで適当にパンを買ってきてほしいと頼んだ。 和彦は慌ただしく診察室に入ると、パソコンで患者のカルテを更新する。次回の来院日時を予約カードに記入し、今日の施術内容と明細を打ち出してから、ようやくほっと息をつく。これで、和彦の午前中の仕事は終わりだ。 デスクの引き出しを開けて、いつもの習慣として何気なく携帯電話をチェックする。すると、賢吾からの着信履歴があった。こちらが仕事中だとわかっていながら、わざわざ連絡を寄越してくるということは、一刻も早く直接話がしたいということだ。 診察室に自分しかいないということもあり、早速和彦は電話をかける。なんとなくだが、賢吾の用件には見当がついていた。『――ようやく休憩に入ったのか?』 昼間の診察室で、電話越しとはいえ、賢吾のバリトンを聞くというのもなんだか新鮮だ。べったりとイスの背もたれに体を預けていた和彦だが、つい反射的に背筋を伸ばす。「まあ、そんなところだ」『繁盛してけっこうなことだ』「……クリニックの出資者が、他人事のように言うな。それで、なんの用だ?」
Read more

第37話(25)

 耳元に蘇るのは、俊哉の優しく穏やかな話し声だった。改めて和彦が心に誓うのは、賢吾と自分の父親を接触させてはいけないということだ。 電話越しとはいえ、臆面もなく惚れていると言い放つ男にも、迷惑はかけたくない――。「本当に、怖い夢を見ただけなんだ。子供の頃のことを思い出して……」『だったら、一人寝は心細いだろう。しばらく本宅からクリニックに通ったらどうだ?』 本当に言いたかったのはこれかと、和彦はそっと苦笑を洩らす。嫌ではないが、甘えてしまうと、そのままズルズルと本宅に住みついてしまいそうな予感がするのだ。「つい何日か前に、泊まったばかりだ」『いいじゃねーか。うちはいつでも大歓迎だ』 誘いとしては魅力的だが、賢吾はなんとしても、和彦が見た〈怖い夢〉の内容を知りたがるだろう。その夢に俊哉が関わり、そこから、胸の奥に澱のように溜まっている不安を読み取られたら、と危惧してしまう。考えすぎかもしれないが、大蛇の化身のような男は、何を見通しても不思議ではない。 返事に困っていると、ドアの向こうから和彦を呼ぶ声が聞こえた。「ああ、悪いけど、スタッフに呼ばれてるんだ」『上手い言い訳だな』「本当だっ」 信じたのかどうなのか、賢吾が今度はこんな提案をしてきた。『怖い夢から守ってくれるかどうかは怪しいが、番犬を派遣してやる』「……番犬?」『頼もしい犬だぞ。可愛げもあるし』 本当なのか冗談なのか、そんなことを言った賢吾は、和彦の返事を聞くことなく一方的に電話を切った。****「――で、お前なのか?」 腕組みをして立つ和彦の言葉に、千尋が目を丸くする。その表情は人懐こい犬を連想させなくもないが、当然、千尋は犬などではない。 玄関に千尋が入ると、送ってきた組員が頭を下げてドアを閉める。ここからは二人の時間を、ということらしい。 いそいそと靴を脱いだ千尋が、釈然としない顔をしている和彦に向けて首を傾げる。「先生?」
Read more

第37話(26)

 床の上に積み重ねた本たちを、本棚のわずかなスペースに押し込んでいると、廊下からパタパタと足音が近づいてくる。「先生っ」 勢いよく千尋が書斎に駆け込んでくる。せっかく着替えを用意してやったというのに、下着を穿いただけの姿だ。一体何事だと和彦は目を丸くする。「……着替えなら出しておいただろ。というか、お前がカラスの行水なのは知ってるけど、さすがに早すぎだろ。きちんと体を洗ったのか?」「ピッカピカに磨いてきたけど」 どうだか、と呟いた和彦の側に千尋が歩み寄ってきたかと思うと、いきなり抱き締められた。まだ湿り気を帯びた肌からは、確かに石けんの香りが立ちのぼっている。「――ここ最近の先生は、ふっとどこかに行っちゃいそうで、怖い……というより、不安」「何言ってるんだ」 和彦は、宥めるように千尋の背をさすろうとして、ドキリとした。自分の記憶にある、滑らかで瑞々しい肌の感触ではなかったからだ。ここで、今の千尋の背に何があるのか思い出した。「ああ、そうか。お披露目してくれるんだったな」 和彦の言葉を受け、体を離した千尋が背をこちらに向ける。久しぶりに目にした千尋の裸の背には、一面に刺青が彫られていた。和彦がこれまで見てきた男たちの刺青とは違い、鮮やかな色が使われているわけではなく、黒一色で描かれている。しかし、墨の濃淡が使い分けられ、肌本来の色も覗いており、こういう刺青もあるのかと、息を呑む。「墨を入れたばかりだから、まだ黒々としてるけど、時間が経ってくると、少しずつ色が落ち着いてくるんだ。オヤジみたいな青みがかった色合いが出るのは、何年かかるだろ……」 刺青の細かい部分に見入っていた和彦だが、ハッと我に返って一歩だけ後ずさる。こうすることで、千尋の背に一体何が彫られているのか、よく見ることができた。 不思議な獣だ。千尋の肌の色を活かした白い毛と、墨で塗りたくるように彫られた部分が黒い毛として表現され、それが獣の毛並みと柄を巧みに表している。獣は丸い目を見開き、牙を剥き出しにして、何かを威嚇しているようだった。その理由はおそらく、獣の体にた
Read more

第37話(27)

 和彦の言葉に、一拍置いて破顔した千尋だが、すぐに挑発的な表情を浮かべる。甘えるように和彦を見つめてきながら、やはり甘い声でねだってきた。「先生、オヤジにやっていたように、俺にもして。――ずっと、オヤジが羨ましかったんだ」 人懐こい犬っころを装いながら、千尋は忠実な番犬でいるつもりなど毛頭ないのだろう。獰猛で、目的のためなら手段を選ばない怖い獣を、望んで背負ったのだ。自分が和彦に向ける執着心や独占欲を表現するのに相応しいと考えたのかもしれない。 何度目かとなる長嶺の男の怖さを思い知り、和彦はゾクリと身を震わせる。しかし、頬をすり寄せてくる千尋を、愛しいとも思うのだ。 和彦は、わずかに上擦った声で答えた。「――……ああ」** ベッドの上に座り込み、千尋の背にじっくりとてのひらを這わせる。針で丹念に肌を刺したあと、傷が塞がりはしたものの、これまでとは明らかに状態は違っている。滑らかだった肌はざらつき、少し硬くなっている。年月を重ねていくうちに落ち着いてくるだろうが、元の瑞々しく滑らかな肌を知っているだけに、どうしても和彦は痛々しさを感じるのだ。 しなやかで、まぶしいほどの若々しさを発していた後ろ姿を懐かしみ、惜しみながら、和彦は何度も千尋の背を撫でる。 刺青を入れたことも、千尋なりの成長なのだろう。そう自分に言い聞かせ、納得する。「先生……」 切なげな声で千尋に呼ばれ、ちらりと笑みをこぼした和彦は背に唇を押し当てる。賢吾にしているように、背に――刺青に唇を這わせていく。 気性の荒い犬を手懐けているような不思議な気持ちとなるが、その犬に寄り添う男に触れるのは、正直気恥かしい。千尋の口から和彦自身だと言われてしまっては、まるで自分を愛撫するかのような倒錯した後ろめたさすら覚えるのだ。 これまで刺青に触れてきた男たちは、和彦と知り合う以前に極道となり、刺青を入れた。だが千尋は違う。極道としての道を歩み始めたときも、刺青を入れると決断したときも、少なからず和彦の存在が影響している。「……ぼくは、お前の
Read more

第37話(28)

「お前、顔怖い。……口説かれてるというより、脅されてるみたいだ」「先生が頷いてくれないなら、脅すよ」 じゃれついてくる犬っころのようだった青年は、絶妙のタイミングで本性を露わにしてくる。目的のためなら手段を選ばないという、怖い男の本性だ。 和彦は片手を伸ばして、手荒く千尋の頬を撫でる。「やっぱり長嶺の男たちはよく似てる。ぼくから欲しい返事をもぎ取ろうとするんだ」「そのほうが、先生にとっても楽でしょ?」 千尋の指摘の鋭さに微苦笑が洩れる。鋭いところも、長嶺の男らしい。 ベッドの上で抱き合いながら激しく濃厚な口づけを交わす。すでにもう興奮を抑えきれなくなっている千尋がもどかしげに下着を脱ぎ捨て、高ぶった欲望を和彦の腿に擦りつけてくる。着ているトレーナーをたくし上げられ、露わになった胸元に噛みつく勢いで吸いつかれる。 痛い、と危うく声が出そうになったが、必死な様子の千尋を見ていると、行為を止めるようなことは言えなかった。代わりに、囁くような声でせがむ。「千尋、服、脱がせてくれ」 すぐに千尋に勢いよくトレーナーを脱がされ、パンツと下着も引き下ろされる。剥き出しになった腿にまた欲望を擦りつけられたので、和彦は妙に微笑ましい気分を味わいながら、千尋の下肢に手を伸ばす。「舐めてやろうか?」 うん、と素直に頷く千尋が可愛い。しかし、そう思えたのはわずかな間だ。体の位置を入れ替えようとして身じろぎかけたときには、和彦は両腕を掴まれて引っ張り起こされる。何事かと戸惑っている間に、千尋がいそいそとクッションを重ね、そこにもたれかかった。そして、まるで和彦を招くように足を開く。 中身はともかく、見た目はしなやかな体躯を持つ端整な顔立ちの青年だ。一連の動作に、不覚にも和彦は見惚れてしまった。 ニヤリと笑った千尋が、開いた両足の間で起き上がった自分の欲望を指さす。「――先生」 和彦は露骨に顔をしかめて見せた。「普通に横になればいいだろ……」「この姿勢だと、先生の顔がよく見えると思って」「…&he
Read more

第37話(29)

 千尋に尻の肉を鷲掴まれ、和彦は声を上げる。「おいっ……」「じっとしてて。すぐに気持ちよくしてあげるから」 思いきり双丘を割り開かれ、何をされるか察して身を捩ろうとしたが、次の瞬間、ぴしゃりと尻を叩かれた。このとき和彦の全身を貫いたのは痛みではなく、強烈な疼きだった。 熱い吐息が尻に触れ、鳥肌が立ちそうになる。「千、尋っ……」 柔らかく湿った感触が、いきなり内奥の入り口で蠢き始める。和彦は激しく羞恥を刺激され、千尋にこんなことをさせているという罪悪感にも似た感情に襲われるが、同時に、抗いがたい愉悦も生み出していた。「はっ、あっ、あぁっ」 執拗に内奥の入り口を舌先を舐められ、くすぐられ、少しずつ下肢から力が抜けていく。堪らず和彦が腰を揺らすと、もう一度千尋に尻を叩かれて、笑いを含んだ声で言われた。「恥ずかしがるけど、すごく好きだよね、舐められるの。先生のここ、もう真っ赤になって、ヒクヒクしてる。快感に弱い、先生そのものだ。だから可愛いし、大好き」 舌先がわずかに内奥に押し込まれてきて、浅ましくひくつかせてしまう。そこに、一本の指がやや強引に挿入された。「んんっ」 和彦は鼻にかかった甘い呻き声を洩らす。すぐに指が引き抜かれ、代わって舌が入り込む。油断ならない千尋の手が前に這わされ、柔らかな膨らみを優しい手つきで揉まれる。父親譲りの器用な指にあっという間に弱みを探り当てられた瞬間、和彦はビクリと背をしならせていた。 指先で弄ばれ、刺激を与えられる。さんざん弱みを嬲られたあと、今度はやや乱暴な手つきで柔らかな膨らみを揉みしだかれて、和彦は立て続けに甲高い声を上げていた。 腰が溶けてしまうと思ったところに、再び内奥に指を挿入される。今度は二本の指を出し入れされながら、発情し始めたばかりの襞と粘膜を擦り上げられる。ぐるりと内奥を撫で回されたかと思うと、浅い部分をまさぐられ、指の腹で強く押し上げられたときには、痺れるような法悦に軽い眩暈に襲われる。「――先生、入れるね」 和彦が全身を戦慄かせる頃になって、千尋がひそっと囁きかけてく
Read more

第37話(30)

 胸元を撫でられ、触れられないまま硬く凝った突起を探り当てられる。指の腹で軽く擦られただけで、うつ伏せの体を波打たせるほど感じてしまう。千尋が嬉しそうに言った。「あとでいっぱい舐めて、吸って、噛んであげる。今はこれで我慢してね、先生」 胸の突起を指で挟まれ、抓るように刺激される。痛みはあるが、手荒い愛撫の心地よさが勝っていた。和彦が喉を鳴らして反応すると、もう片方の突起も同じ愛撫を施される。 内奥で千尋の欲望が蠢く。いや、蠢いているのは和彦の内奥のほうだ。さきほどから淫らな蠕動を繰り返し、若い欲望を貪り続けている。 そんな和彦を攻め立てながら、思い出したように千尋が切り出した。「――先生、俺のために刺青入れてよ」 和彦は、突然耳に飛び込んできた情熱的な――ある意味物騒とも言える言葉に、完全に虚をつかれた。「えっ……」「小さくていいし、ずっと先でもいいから。俺だけは特別って意味で、何か肌に彫ってほしい」「……刺青は、絶対入れない」「俺の頼みでも?」 背骨のラインに沿って指先が這わされ、ゾクリと体が疼く。千尋の口調は、甘ったれの青年のものではなく、己が持つ力を自覚した筋者のそれだった。「だったら、ぼくの頼みは無視するつもりか? 賢吾――お前の父親にも同じことを言われたけど、ぼくは承諾しなかった。……ここでお前の頼みに頷いたら、あとできっと同じことを、嫌でもお前の父親に約束させられる」「それは困る、かも……」 千尋にしっかりと腰を抱き寄せられて、内奥深くを強く突かれる。間欠的に声を上げながら和彦は、腰に回された千尋の腕に爪を立てた。内奥で、千尋の欲望はこれ以上なく大きく膨らんでいた。「はあっ……、このまま、先生のこと抱き殺しちゃいそう。好きすぎて、堪らないっ。独占できないのが、ムカつくのに、すげー興奮するんだ」 苛立ちともどかしさをぶつけるように千尋が激しい律動を始め、和彦は体を前後に揺さぶられる。嵐に巻き込まれたと感じたのは、わずかな間だ
Read more

第37話(31)

 本当に元気だなと思いながら和彦は、いつもの癖で千尋の頭を手荒く撫でる。「ぼくはまだ動けないから、お前だけ先にシャワーを浴びてこい……」「二人でゆっくり入ろうよ。俺が全部やってあげるから」「……それはちょっと、魅力的な提案だな」「じゃあ、すぐにお湯溜めてくるっ」 締まりのない笑顔を見せた千尋がベッドを飛び出して行こうとしたので、慌てて腕を掴んで引き止める。「下着ぐらい穿いていけっ」「えー、どうせすぐ脱ぐじゃん……」 ぶつぶつ言いながらも、ベッドの端に腰掛けた千尋が、床に落ちた下着を拾い上げようとする。わずかに上体を起こして、まだ目に新鮮に映る刺青に見入っていた和彦だが、あることが気になり、何げなく尋ねた。「なあ、刺青を入れたら、組か長嶺の家で、祝い事みたいなことはするのか?」 下着を掴んだまま、不思議そうな顔で千尋が振り返る。「祝ってもらえるのかな?」「……ぼくに聞くなよ。いや、お前の家は行事ごとはいろいろしっかりやっているから、これはどうなのかと気になっただけだ」「うーん、大っぴらにはしないよね。組員同士ならさ、気安く話すかもしれないし、体を見せることもあるだろうけど。俺が知る限り、じいちゃんとオヤジが背中にあるものを披露したなんて話は聞いたことないかなー。そもそも、ごく限られた組員か、特別な相手以外は知らないと思うよ。俺たちの体にどんな刺青が入っているかなんて。それどころか、入っていること自体、どれぐらいの人間が知ってるか。俺も、特別な人にしか見せるつもりないし」 ここで千尋が意味ありげにニヤニヤと笑う。「じいちゃんとオヤジの刺青って、それぞれの気質がよく出てるだろ? 日ごろ長嶺の男たちを、食えない古狐だとか、蛇みたいに陰湿な野郎だなんて、陰口叩いている奴らは、まさかそのまんまのものが、背中に堂々と彫ってあるなんて、思いもしないだろうね」「――……よくまあ、そんな命知らずなことを楽しそうに口にできるな、お前」 苦笑を洩
Read more
PREV
1
...
129130131132133
...
139
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status